第10話 銀と銅
レガンはクロエルの捜索している。―――しかし捜索活動は難航していた。
「あいつほんとに何処にいるんだ?」
三本角の恐竜を倒したあと、レガンは森、山、洞窟はたまた砂漠で捜索していた。
「これでかれこれ一週間以上経つぞ」
レガンには当然、クロエルが行きそうな場所は分からないし、そもそもクロエルは身体能力が化け物すぎて、行動範囲が広すぎる。それゆえ、こんな広すぎる世界では人一人見つけるには難易度が高すぎたのであった。
「……しょうがない。あれを使うか」
レガンは魔法陣を展開させる。そして、空に向かって手のひらを出す。
「――――ファイアメテオ!×ニ!」
レガンは合計12発の火の玉を宙にうつ。それは大きく空を舞い、森や山などに落ちる。
「――これをすると、バラス達に見つかるかもだし、なにより木が燃える。できるだけしたくは無かったが、致し方ない」
案の定、火は木に移って、何個かの森は燃え盛った。草原も大火事だった。
「――思ったより、火事だ」
レガンの顔は「むーん」という感じは出しつつも、「 いや、俺関係無いですけど?」という顔だった。
――――しばらくすると、落ちた火の玉達の中にある異常が見つかった。
「これは……、魔力の反応」
レガンの体にはビビッと来る程の魔力の気配がほとばしる。
「俺の火の玉が、何かの魔法と相殺した」
―――ような気がする。何かは分からないが、確かに俺の火の玉は何かに命中した手応えがある。それは恐竜でもなく、木でも石でも無い。
レガンはその反応に走って向かう。その走りは数日前とは比べ物にならないぐらい速かった。―――そして、反応があった場所に着くと、レガンの目には信じられない光景が写った。
「クロエル……? そんなとこで何をしてんだ?」
レガンの目にはえぐられた地面に顔を向けて倒れている銀髪の少女の背中が入ってきた。それは、レガンの頭にある可能性を生み出した。
「クロエル……。もしかしてお前……」
レガンはクロエルが死んだと思った。というかむしろそれ以外可能性なんてない。ひどく荒れた草原の中のえぐれた地面にボロボロの女の子が倒れていたのだ。もはや説明する必要もない。
レガンはゆっくりと、心と体がくっついていないような足取りでクロエルに近づく。
「……クロエル。なにが……」
尋ねても無駄なことは理解している。だが、自然とその言葉が出てくる。―――すると、銀髪の髪の下から小さな声が聞こえる。
「………がん」
小鳥のような小さな声が聞こえる。それは細く、何と言ってもいるか分からない。
「………レガン。お前、今までなにをしていた?」
こっちのセリフだ。お前が、恐竜如きに負けるとは思えない。やはり、バラスが言っていたことは本当だったのか。
「何があった? どうすればお前は助かる?」
レガンはクロエルに問い詰める。だが、クロエルはその質問には答えず、血を吐きながら別のことを言っていた。
「……レガン。私の言う事をしっかりと聞いてくれ。私は仮面をつけた女にやられた」
仮面をつけた女。どこかで見たことがある気がする。――――いや、そんなことはどうでもいい。
「しゃべるな!いいからお前が死なない方法を教えてくれ!早く対処しないと、お前……」
膝から崩れ落ちる。もう終わったと思った。
「…私は、まだ、大丈夫だ」
クロエルは強がりを言っている。大丈夫な訳が無い。綺麗な髪はボサボサで、鎧もボコスカ穴が開いている。マントはほとんど焼き払われて、顔には血と傷のオンパレードだ。
「嘘をつくな!いいから!呼吸を整えろ!」
レガンにはクロエルを治す魔法はない。だからどうすることもできないが、何かをしなければいけないという焦燥感に駆られていた。
「……本当だ。こんなことは今までもよくあった。私だって鍛えているのだ。だからこのままあと数日休めばなんとかなる」
クロエルは落ち着いて話しているが、アタフタしているレガンの耳には届かない。
「……え、いや、え? どうすれば? はぁ、はぁ」
「落ち着け!何でお前が焦ってるんだ!」
クロエルは少し大きな声で、そして振り絞った力でレガンの手を握る。だが本当にそうだ。本来は怪我をしている方がアタフタしていて、周りが冷静に対処するべきだ。
「いや、でも俺は一体どうすればいいか分からない。俺は回復させる魔法は使えないし」
「あるじゃないか。お前の体には自然治癒の魔法がある。それを私に使うんだ」
クロエルは握っているレガンの手を再度強く握り、思いを伝える。
「……でも、俺他人にはやったことないし」
自信が無さそうな顔をしていた。だが、それでもクロエルは何も言わず、少し優しい顔で「 お前を信じている」という顔でレガンを見つめる。
「……分かった。俺やってみるよ」
「あぁ、頼む」
レガンは意を決してクロエルに自然治癒の魔法をかける。もちろん自信は無いが、どうせ失敗しても、このまま何もせず見殺しにするよりかはマシだった。
「………」
レガンは目をつぶり、魔法陣を展開させ、静かに自分の魔力に集中した。
「大事なのはイメージだ。私の体の中にお前の魔力を流し込む感じで」
クロエルはゆっくりと小さな声でアドバイスをする。―――――すると、クロエルの体に少しづつ暖かい光が灯される。
「……いける」
レガンがそう呟くと、クロエルの顔は少し笑っていた。そして、レガンは少しづつ要領を掴んでいき、クロエルの体はますます暖かい光に包まれていった。
――――――しばらくすると、クロエルの体は徐々に傷がふさがり、呼吸も整っていった。
「ふぅ……、………」
クロエルは一呼吸すると、目をつぶり、深い眠りへと誘われた。まるでその顔は生まれたばかりの赤子のようだった。
「 ……できた。はぁはぁ」
―――――レガンはクロエルが助かったという安心感と魔力が底をついたことで、クロエルと共にその場にへたりこんだ。
そのまま二人は数時間一緒に寝ていて、夕日が銀色の髪と茶色の髪を照らしていた。
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