第9話 始まり
――――過去の世界に行く。こんなぶっとんだ話、誰が信じるであろうか。俺だって信じたくない。だが、それが現実なのだ。しかも俺の命は何人もの犠牲によって成り立っているらしい。なんと重い話だろうか。
「ていうか、クロエルどこ?」
朝からクロエルが見当たらない。俺は辺り一面を目を光らせて探すが、なにも見つからない。あるのは、今日も元気な恐竜達と生い茂る草達、それと鮮やかに太陽が反射している川、湖、そして森の中を風が通る音。いや、それは音だ。見えるというより聞くものだ。
「あいつどこまでいったんだよ」
レガンは意を決したように、大きく息を吸込んで叫んだ。
「―――――おぉぉぉぉぉい!クロエル!居たら返事をしてくれぇぇぇ!」
その大きな声は周りの恐竜達の耳をぶち壊す勢いだった。
「グヲオォォォォォォ!」
あ、起こしちゃった。
「ごめん、ごめん。別にお前たちの邪魔をしたいんじゃないんだ。ただおれは人探しをしてて……」
レガンは説明するが、当然恐竜に人間の言葉は伝わらない。
「グヲォ!グルガアァァァァ!」
「ガギャア!グルギャア!」
角が額に一つ生えていて、四足歩行の小さな恐竜達が、ボスを囲んでいる。
「ガ……?」
そのボスは周りの恐竜達よりも、大きく、角も三本頭に生えている。そして眼つきは他の奴らと格が違う。―――そして、何よりも違う所が、こいつは――――魔法を使えることだ。
「ガギャア!」
ボス恐竜は叫び声と同時に足元に小さな魔法陣を展開させた。
「やっぱりか。でも、恐竜如きが俺に勝てるわけないだろ?」
レガンは余裕の笑みで魔法陣を展開させる。
「ファイアメテオ!」
レガンは手のひらから火の玉を出し、三本角の恐竜にぶつける。―――だが、それは打ち消された。なぜなら、三本角の恐竜の周りには宙に浮いた小さな岩があったからだ。
「グルギャア!」
三本角の顔は「してやったり!」という顔だった。だが、その顔はすぐ無くなる。
「結構やるな。じゃあ、これはどうかな?」
レガンは右手の指を揃えて、指先を恐竜の角に向ける。すると、右手の周りに緑色のうにゃうにゃとしたなにかが出てきた。そしてそれは徐々に短剣の形を作る。
「―――アサシンアロー!」
レガンの手にある緑の短剣は恐竜の角めがけて飛んでいき、三本角の真ん中の角を折った。
「ガギャアァ!」
三本角の激痛な声が鳴り響く。
「俺の勝ち!」
レガンは右手を掲げ、自慢げな顔をする。―――だが、恐竜の顔はまだ死んでいなかった。
「ガギャアァオ!」
元三本角はまたもや魔法陣を展開させる。だが、その魔法陣は先程よりも光が強く、大きかった。
「まだ来るか。いいね、面白い」
レガンの顔は笑っていた。なぜなら思ったより相手が強くてワクワクしていたからだ。―――というのは嘘で、実は自分が勝ちを確信していたからだ。
元三本角は近くにあった自分よりもふたまわり大きい岩を魔法で宙に浮かせる。そして、その岩をレガンに向けてぶつける。
――――ドカン!
直撃した。レガンは守る体制を取らずに、ただ向かってくる岩を棒立ちで見ていた。そして、レガンの体は粉々になった。―――と周りにいた恐竜達は思っていたが、現実は違った。
「うん!確かに体が前より丈夫になってる!」
レガンの体は傷一つ負っていなかった。まるでなにもなかったかのように清々しい顔で元三本角を見ていた。
「別にお前に恨みは無い!だからこんな無駄な争いはやめないか?」
レガンは両手を広げ、大きな声で恐竜達を説得する。だがもちろん恐竜が人間の言葉を理解できるはずかないし、なにより角を折られた本人は納得がいかない。
「ガギャア!!!!」
恐竜は激怒した。どうやら言っていることは理解できなくても、レガンのジェスチャーでなんとなく理解したようだ。
「グルギャアァァオ!」
恐竜はまたもや大きな岩を魔法で持ち上げ、レガンに投げる。
「――――ばかやろうが」
レガンは目を細めて、一瞬で元三本角の顔に近づき、ぶん殴った。すると、たまらず元三本角は空の彼方まで吹き飛んで姿が見えなくなった。その光景に周りの恐竜たちは目を飛び出して、驚いていた。
「………グェ?」
みないっせいに「グェ」と言った。
――――その状態のまま数秒後、恐竜達は火事から逃げるように慌ただしくその場を去った。
「ふぅ。少しやりすぎたかもな」
レガンも全員が去ったあとに恥ずかしくなるほどのケサイセリフを残して、クロエルの捜索に戻った。
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