第8話 始まり?
―――――雨上がりの綺麗な陽光が差し込む場所に、倒れた木に腰かけて向かい合っている、ある仮面の少女といけすかない感じの男がいた。
「今日はどうしようか? レガンを殺すには、君をどうにかしないといけないからね」
「はい。今日はもう一度レガンを探し出して、殺してみようと思います」
「だから、無理だって。君の心の奥底に、まだ普通の人間が残っている限り、彼を殺せない。もっとも僕がしっかりと君に魔法をかけていれば、こんなことにはならなかったんだ。君が焦る必要は無いよ」
お日柄もよろしい時に笑顔で怖いことを言う2人。
「では私は……、なにをすれば」
レイドはバラスに尋ねる。
「君はとりあえずレガンの監視かな。監視くらいだったら、君の本心は邪魔をしないだろ?」
バラスは優しくレイドに言葉をかけるが、目は笑っていない。
「はい。そのくらいならたぶんできるかと思います」
「よし。じゃあいまからレガンを見つけて、何かあれば僕に報告してね」
「かしこまりました。それでは、行ってきます」
レイドはバラスに背を向けて歩き始め、レガンの捜索を始めた。そして、残されたバラスは空を見上げた。
「……レガン。君はすべてを忘れているようだけど、僕は君のことをすべて知っている。――――――だから、できれば本当は、僕は君を殺したくないな」
バラスの顔は本心を表しているようだった。
―――――レガンは寝ていた。
「ぐがぁぁぁ。ぐがぁぁぁぁ」
大きないびきが辺り一帯に響いていた。それは当然、10メートル程離れた監視のレイドにも聞こえていた。
「あいつは静かに眠れないのか」
レイドは少し呆れていた。なぜなら、バラスともあろう国家の最大勢力の一員がターゲットとしているのに、そのターゲットは凄くアホそうだからだ。
「そういえば、なぜバラス様はあの男にそこまで固執しているのだろうか」
レイドは分からない。国家の人間のはずなのに。
「……だめだ。あのとき、クロエルに殺された時以前のことがなにも思い出せない」
レイドは頭をフル回転させるが、なにも思い出せないし、何も分からない。
「バラス様。私は、本当は……何なんでしょうか」
自分の人間性が分からない。自分が何者なのか。どういう人間なのか。思い出そうとするが、出てこないくせに、心のどこかにある見えない自分の本性が、魔人形の私の行動を邪魔する。
「とりあえず、あいつがなにかするまで見張っておくか」
レイドは気長に待つことにした。
――――待った。
―――――待った。
――――――待った。
―――――――そして丸一日経った。
「あいつ!どんだけ寝れば気が済むんだ!」
我慢の限界が来た。
「ガゴォォォォ!ガゴォォォォォォォ!」
レガンはいびきを立てる。それはもう心地よく、ただ真っ直ぐに睡眠と向き合っていた。
「まったく。あんなに寝ていると、むしろ体が悪くならないか? 食事も丸一日していないようだし」
レイドはムズムズしていた。
「……あいつは殺す対象。ターゲット」
「グガァァァ!」
「……………ターゲット」
「グガァァァァァ!」
「…………………あぁぁぁぁ!もう!」
レイドは綺麗な髪を手でかき、近くの石ころをレガンにぶつけた。
「グワァ!……なんだ朝か」
何かにぶつかったレガンは寝ぼけた声で起きる。
「朝は朝でも違う!」
レイドは小声でツッコむ。
「さぁってと、とりあえず、バラスとやらに見つからないようにここを立ち去って、クロエルを探しに行くか」
レガンは寝起きとは思えないほどハキハキと独り言を言い、立ち上がり、くしゃくしゃの髪のままその場をあとにした。
「私はペットの飼育でもしているのか……」
レイドは本当に自分が何をしているか分からなかった。
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