第7話 一人目 二


 レガンは走る。涙をこぼしながら走る。


「……ぱぱとままは嫌い」


 ただその言葉だけが、レガンの心にある。


「………でも、嫌いだけど、……一緒に」


 親と一緒にいたい。子供にとっては普通の事だ。だが、レガンにとっては遠い願いだった。


「……俺はどうすればいいのかな」


 レガンは来たこともない真っ暗な場所で一人うずくまる。――――――そうして一時間近くが経った。


「……帰ろう」


 レガンは立って辺りを見渡す。


「…どうやって帰ろう」


 ―――帰られなくなった。当然だ。周りを見らず、無我夢中で走った。


「帰られない……。―――――――うわぁぁぁぁん!」


 レガンは泣きじゃくる。泣いて泣いて泣きまくった。――――――そんな中、ある女、母親より少し年下の女性がレガンに話しかけた。


「どうしたの? ぼく?」


 その女は壊れそうな物を触るようにレガンに話しかける。


「―――だれ?」


 レガンは泣きじゃくらせた顔で見上げて、女を見る。


「まぁかわいい。持って帰りたいくらいだわ」


 母性に溢れている。その母性はレガンの心をくすぐる。


「―――助けて、お姉さん」


 レガンは木にしがみつくように女の足に引っ付く。


「うふふ。ほんとに可愛い」


 女は満面の笑みでレガンを見る。


「ぼく、どうしてこんなとこにいるの?」


「―――おうちから飛び出たら、迷ってかえられなくなった……」


「そっか。ぼくはどこに住んでるのかな?」


「……分からない」


「そっかー。じゃあとりあえず今日は私の所にくる?」


「……うん」


 レガンは女の言うことを聞き、手を取り、連れられる。




――――――レガンは女に連れていかれて、ある場所に着いた。そこは―――。


「……今日の死者数は?」


 強面で濃ゆい顔の男が、ボロボロのテーブルの上に置かれた紙を見る。それに対して上半身だけ水着で、下は穴開きのジーンズを履いた女が答える。


「今日は……三人死んだわ。このアジトも場所がバレているかも知れない」


「そうか。だが俺達はどんな犠牲を払ったとしても、国家の横暴を食い止めなければいけない」


「………そうだな」


そんな殺伐とした空間をほんわかとした声が切り裂く。


「おーい。お二人さん。そんな顔してるとこの子が泣いちゃうよ?」


「ドロシー、お前なんだその子は」


 男は呆れた顔をしていた。


「そこらへんで泣いていたから連れてきた!」


 ドロシーは満面の笑みだった。しかし、殺伐とした二人は口をピクリとも動かさない。


「……お前。いくら人が足りないからって子供はさすがに………」


「まぁまぁ、さすがに戦わせるために連れてきたわけじゃないわよ。ただの迷子だよ」


 ドロシーが誤解をとくために説明するが、女の方は納得していないようだ。


「なるほどな。だがその子にとってここは適した空間ではないだろ?」


 女はテーブルに腰を掛け、片手には酒の入ったグラスがある。


「今晩だけだよ。明日の朝にはこの子を連れて母親を探しに行くよ。だから、ね? 今日だけ許して」


「ならいいか。……でも、今日はもう寝かせろ。今から次の作戦会議をする」


 女はレガンを尖った目で見つめる。それにビビってレガンはドロシーの後ろに隠れる。


「怖いってリー。そんな顔してるとこの子寝られなくなっちゃうよ~」


「……ちっ」


 女はグラスをテーブルに置き、その場をあとにする。


「ごめんね~、あの人顔は怖いけど、ほんとはいい人だから。だから泣かないで?」


 レガンは今にも泣きそうだ。だが、それ以上に眠気も凄い。


「うん。わかった…」


 目をゴシゴシしている。それを見たドロシーはレガンを連れて、ミシミシと鳴る階段を登り、二階に行き、空き部屋に入る。


「さぁ!ここが今日の君の寝る場所だよ!」


 ドロシーは笑顔で両手を上げていた。まるで、新築の家を紹介するようだった。だがレガンの目の前には、少し腐食した木のテーブルとイス、割れた窓、ホコリだっているベッドが狭い部屋に窮屈に置かれていた。


「……ビミョーって感じだね」


「……ここってなに?」


「う……、部屋…、だよ?」


 ドロシーはレガンから目をそらす。それもそうだ。ドロシーもできることなら綺麗な部屋を提供してあげたい。だが、実はこの部屋がここで一番綺麗な場所だった。


「そういえば、言ってなかったよね。ここがどういう場所か……」


 ドロシーは俯いた顔をする。それに対してレガンは無邪気な顔でドロシーを見つめる。


「ここはね、〈サーベラス連合軍〉って場所で、あることを目標に色々な人達が集まってるんだ」


「さーべらふ?」


 レガンはもう眠気がマックスで、なにも頭に入ってこない。現にうとうとしている。それを見たドロシーは説明を止め、レガンをベッドまで連れて行く。


「……今日はもう、寝よっか。少し汚いかもしれないけど、我慢してね」


「……」


 レガンはもう寝ていた。


「おやすみ。明日は君のお父さんとお母さんを見つけようね。絶対」




 ―――――バッ!


 レガンは目が覚めた。 


「あれ?俺、何してんだ?」


 レガンは辺を見渡す。すると、そこには焼き払われた草原、えぐられた地面、そして体からは大量の出血。


「痛!胸になんか貫かれた跡があるぞ」


 レガンは右手で胸を抑え、左手で体のあちこちを触る。そこには乾いた血がある。だが、不思議と体は健康そのもので、どこも痛くない。


「っていうか、なんか変な夢を見てたような、見ていないような。というか、さっき誰かが俺の前に……」


 一拍。


「あぁぁぁ!そういえば!あいつ!……なんだっけ、バラなんとかって奴がなにかでなにしたんだっけ」


 レガンは頭をグシャグシャにかくが、全然思い出せない。―――その時、胸を触っている左手から脳に、ある情報が送られる。


「これは……」


 レガンは全て思い出した。それは―――。


「あいつの魔力。まだ胸にほのかに残っている。俺が魔力を暴走させて、その時、あいつがおれの胸に魔法のなにかを刺したんだ」


 レガンは自分が負けたことを思い出した。そしてそれは、悔しいというよりも、なぜ俺を殺さなかったんだろうという疑問が出てきた。


「…っていうかあいつ、俺のとこになにしに来たんだ? 確かおれを仲間にしようとして、でもあいつは俺達の敵で、でも俺はあいつの意見に共感してて、………それでなんだっけ」


 レガンは疲れていた。体はもう自然治癒の魔法で完全回復していたが、肝心な魔力がもう底を貫いていた。


「………寝るか」


 レガンはもう一度寝た。




 ―――――その頃。ある場所では。



「……………」



 ―――心地よい風が吹いていて、昼寝には最適な天気の下に綺麗な銀髪の少女が目を開いた状態で倒れていた。



 

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