間章 ノエルのだいぼうけん!
第46話 お姉ちゃんのプライベート捜査本部
私の名前はノエル・ハイマン。
ココット村を守る戦士、『春歌の狩人』ダイアー・ハイマンの二人目の娘。
最近、やっと文字が読めるようになったばかりの、ぴちぴちクリーム髪美幼女だ。
「もう外出てもいいでしょー?」
「ダメよ。あなたまだ二歳じゃないの」
「ケチ!」
そうだ。言い忘れてたけど、私はお母さんの娘でもある。
お母さんの名前はミナ・ハイマン。
私の綺麗なクリーム髪の元はお母さんだ。
こんなに厳しくて、ケチな人の血が流れてるなんて信じたくないけどね。
「ていうか、私ももうすぐ三歳じゃん!」
「三歳になったらなんだって言うの?」
「お姉ちゃん、三歳のころには外出てたんでしょ?」
ふふふっ、表情を見るに「げっ、どうしてそれを」って感じかな?
私の情報収集能力を舐めないでほしい。
昔から、こういうのは得意なのだ。
ただでさえ、文字が読めない頃から盗み聞きに励みまくっていたのだからね。
パパの日記兼小説のネタ帳を覗けるようになった私に、突き止められないことはない。
「それは、あの子なら大丈夫だと思ったからよ」
「私は大丈夫じゃないっていうの?」
「そうよ」
「あー! ひどい!」
本当のことだとしても、言っていいことと悪いことがあると思う。
なによ! 私だっていつも危なっかしいわけじゃないんだからね!
そりゃ、ちょっと外をはいはいで這いずり回って膝と手のひらを擦りむきまくったり、ちょっと洗濯用の水桶の中に飛び込んで溺れたりしただけじゃないのさ!
どっちも両足で立てるようになった今では心配する必要のないことのはずだ。
「私とお姉ちゃんでなにが違うのさ!」
「うーん……思慮?」
「ひっどい!」
もう本当失礼しちゃう!
今の私と、お姉ちゃんとの間に大きな違いなんてないはずなのに!
「私だって、前世は立派な成人女性だったんだからね!」
「はいはい、あんまり大きな声で言わないの」
前世の記憶があるってところまで、全く同じなはずなのにさ。
***
私が子供らしく粗相をしても怒らないし、遊んでほしい時には遊んでくれるし。
お母さんとも、お父さんとも仲がいいし、優しいし、それでいてフランクだし。
私のお姉ちゃんは、立派な人だ。
それこそ、年不相応に。
そんなお姉ちゃんの正体に勘付けたのは、二歳になってからだった。
パパの小説のおかげで、読み書きができるようになった直後。
やけに落ち込んでいたお姉ちゃんが、やけに元気になって帰ってきたことに疑念を覚えた私はその夜、お姉ちゃんの部屋に忍び込んだのだ。
それなりに小奇麗な子供らしくはない部屋。
大量のフリルドレスのかけられたハンガーの片隅、不自然に放置された木箱の中。
そこにあったのは、あからさまにこの世界のものではないもの。
酷く薄汚れた、水色のジャージだった。
もちろん、これだけじゃお姉ちゃんの前世を断定することはできない。
私と同じ、元日本人かどうかもわからないし、男性か女性かもわからない。
一応、昼間に改めて確認したりもしてみたけど、特徴的なロゴや、名前も見つけられなかった。
それでも私には一つだけ、心当たりがある。
でもまだ、限定材料が足りない
お姉ちゃんの正体を突き止めるためには、もっと情報が必要だ。
「で? なんでお前は一人でこんなところまで来てるんだ?」
「今日はお姉ちゃんとお母さんの目がないからですね!」
そう、今日は調理実習の日。
というのは冗談だけど、今日のお姉ちゃんはお母さんに料理を教わっているのだ。
理由を聞いたらはぐらかされてしまったけれど、大体想像はつく。
どうせこの、アーネスとかいう男のために、花嫁修行をしているのだろう?
きー! 妬ましい!
「おい、すごい表情だぞ。大丈夫か……?」
おっと、顔に出てしまっていたか。
幼児の面は表情豊かで困るね。
限界OLの固まった表情筋とは大違いだ。
「単刀直入に! 聞きたいことがあります!」
「お、おう」
彼と彼女の関係も気になるところだけど、そろそろ本題に入ろう。
今日はそのために、わざわざ村中の視線をかいくぐってきたのだから。
死ぬほど目立つフリフリドレスをひらめかせて、アーネスの家までたどり着いたのだから。
「私のお姉ちゃんは、何者なんですか!?」
我ながら、ざっくりとした質問だと思う。
でもだからこそ、答えやすかろう。
別に、あなたにとってお姉ちゃんとは?っていう意味に取ってくれてもかまわないよ?
そっちはそっちで、興味があるからね。
「え……いや、俺が聞きたい」
「え?」
あからさまに素っぽい反応。
ひょっとして、何も知らないの?
何も知らずにお姉ちゃんと関わってたの?
そうか……お姉ちゃん、何も説明してないのか……
何の説明もなしに、いたいけな男児をたぶらかしていたのか……
「ねえ、アーネス」
「おう、なんだ」
おお、可哀想なアーネス。
だけどそれなら、思いついたことがある。
きっと君は、この申し出を断れないだろう?
「お姉ちゃんの正体、探りたくない?」
私がそう呟くと、あからさまにアーネスの目の色が変わったのが分かった。
困惑の色は消え、綺麗な赤目が煌めいて、私の方をじっと見据えてくる。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
私たちは目を見合わせて、静かに右手を差し出して。
その後に目一杯力強く、掌を合わせて握りあった。
お姉ちゃんのプライベート捜査本部、ここに設置である。
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