第13話 ごめんなさい
薄暗い寝室。子供部屋のベッドに腰掛けて、しゃがみこんだダイアーを見つめる。
いきなりひざを折ってどうしたんだろうか。
子供だから目線を合わせてくれたんだろうけど、随分かしこまったやり方だ。
「レーダ。聞きたいことがある」
「なに? パパ」
聞きたいことと言うとやっぱり、試練のことだろうか。
もちろん、あのバケモノが現れた原因は、ダイアーの小説じゃないけど、そういうことにしといた方がいいのかな……?
「いや……もしかすると、レーダと呼ぶべきではないのかもしれないな」
「え? それって」
どういうこと。
その言葉が出て来る前に、予想がついてしまった。
血の気が引く。
全身が強張る。
おそらく、目も見開いている。
「教えてくれ。君は一体何者なんだ?」
――頭の中が真っ白になった
「……ごめんなさい」
何故、そんな言葉が出てきたのかわからない。
でも、謝らなきゃいけないと思った。
「ごめんなさい」
そうだ、謝らなきゃいけない。
本来、俺はここにいちゃいけないんだ。
「ごめんなさい……」
こんなやつが、人を不幸にして死んだ男が、実の娘の中にいていいわけがない。
ダイアーみたいなできた父親の、娘になりすましていいわけがない。
「ごめんなさい……!」
何を勘違いしていた? 何を楽しんでいた?
転生だなんだなんて浮かれていたが、俺はきっと、人の人生を乗っ取っただけだ。
「ごめんなさい……ッ!」
本来、可愛い洋服を与えられて。
本来、出来たパパの愛を受けて。
幸せに生きて、育てられるはずだった女の子の人生を乗っ取ったんじゃないか?
これから愛らしく育つはずだった女の子の魂を殺してしまったんじゃないか?
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
謝って済むと思っているのか? 実の娘を他人の魂に乗っ取られて、許す親がいると思っているのか? 何もしてこなかった、誰も幸せにしなかったクズの魂を入れられて、黙って居られると思うのか? ヒモで卑怯者のクズが救われるとでも思っていたのか? 転生して幸せになっていいとでも思っていたのか? 少し抜けた父親のことを馬鹿にしたり、幻想に浮かれて楽しんだりしていいと思っていたのか? トラウマから救われた気になっていいと思っていたのか?
ダイアーは、俺じゃなくて、レーダの父親なんだぞ?
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさ……」
「やめなさい」
「ひっ」
聞いたことのない声。知らない声色。
目の前の男から発せられていることはわかるのに、脳が理解を拒んでいる。
ダイアーが、怒っている。
「悪かったね。君の正体なんてどうでもいいんだ」
目線を合わせられた。
心臓の鼓動が早まるが、逸らしてはいけない。
逸らしていいわけがない。
「それよりも、僕が聞きたいことは一つだ」
罰を受ける時が来た。
楽観に逃げた罰を。
自分の業に向き合わなかった罰を。
「……はい」
向き合えているのかはわからない。
だが、向き合おうとしなければいけない。
そうだ、どんな罰でも受けよう。
死ねと言われたら死ぬべきだ。
魂だけが死ねるなら、それがいい。
女の子の体はそのままに、俺だけが死ぬべきだ。
例え、そうなっても、俺は、受け入れて……
「僕は……君の父親をやれているだろうか?」
「え?」
頭を撫でられた。
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