第11話 試験の結果は
「そうと決まれば……それ!」
「きゃあ!」
いきなりダイアーに腰を抱えられる。
そのまま抱き寄せられて、地面から足が浮く。
二歳児とはいえ、片手で抱えあげちゃうなんて流石俺のパパンだ。
「あっごめんね、レーダ」
「ううん、大丈夫!」
これは条件反射ってやつだ。
むしろ、その男らしさは賞賛に値する。
「さあ、行くよレーダ。しっかりつかまってて!」
「わかった!」
ああ、すごいな。
本当に、ダイアーという男は、俺を元気づけてくれた。
陰でうずくまりそうになっていた俺に、陽の光を当ててくれた。
ダイアーが俺を抱えて走り出し、同時にバケモノの鞠が、こちらに向けて転がりだす。
俺たちはそれから逃げる。
細道を進んで、森の外を目指す。
「ねえ……パパ」
「うん? なんだい?」
地を蹴る足音。
背後から響く轟音。
巨大な鞠が木々をなぎ倒す音の中で、伝えられるかどうかはわからない。
でも、今伝えないと意味が無い。
今伝えないと、俺の気が済まない。
今、伝えて……今、聞いてほしいんだ。
「助けてくれてありがとう。大好きだよ」
「…………」
ダイアーからの返答はない。
聞こえなかったか。
それもしょうがない。
むしろ、聞こえなくて良かったかもしれない。
ほんのちょっとだけ、恥ずかしいからな。
「うおおおおお!!」
「えっ!?」
突然、ダイアーが大声で叫び出したかと思うと、俺たちは加速する。
ダイアーの足の回転数が上がり、森の木々が凄まじい速度で視界の端へと消えていく。
咄嗟に、ダイアーの顔を見る。
見て気付いた。
こいつ、号泣してやがる!
号泣しながら凄まじい勢いで走るもんだから、涙が横向きに筋を描いてやがる!
「そういうのは! 将来! 好きな人に言いなさあああああい!!」
「そ! そういうのじゃないって!」
おいこら! 今のは告白とかじゃないからな!
ただ、感謝と好意を伝えただけだ!
くそ! 風が強すぎて声が出せねぇ!
恥ずかしいから、叫ぶのをやめてほしい。
ついでに、泣くのをやめてほしい。
なにより今すぐ、訂正したい。
でもまあ……
俺の言葉で、これだけ感動してくれるなら、そう悪い気分じゃないか。
***
「うおお、やらかしたのじゃ……王にどう報告すれば……」
へなちょこな女児の声で目を覚ます。
うおうお嘆いていて、如何にも弱々しい声だ。
「あんなの出るとか想定外なのじゃ……いくら春歌の狩人でもきっと勝てないのじゃ……」
いつの間にか、俺は元の場所、小屋の前の庭に戻ってきていた。
身を起こすと、頭を抱えてフルフル揺れる妖精が見える。
春歌の狩人っていうのは、たぶんダイアーのことだろう。
春っぽい精霊歌ばっかり歌ってるからな。
というかそんな二つ名持ってるのかうちのパパ。
「おのれダイアー、無茶しおってからに……」
「誰がなんだって?」
「ぎょえっ!?」
うわ凄い声。まあしょうがないと思うけど。
人の話してる時に本人が後ろから肩ポンしてきたらそうなるよな。
表情的にも微笑だしな。怖いよな。
「ダイアー? お、おぬし……いや、それよりも」
「レーダは無事だよ。ほら」
「え、お、おお!」
春の妖精がスイーッとこちらに寄ってくる。
羽が動いてはいるが、ほぼホバー移動だ。
ファンタジーの神秘だな。
「ほんっとうにすまぬ!」
「え?」
「二歳児ならあのくらいの試練でちょうどいいと思っていたのじゃ! まさかおぬしがあんなトラウマを抱えているとは思ってなかったのじゃ!」
「え、それって」
やばい、薄々そうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱあいつ俺のトラウマとかそういうのから作られてたのか。
ていうか、それってまずいんじゃないか?
「しかしおぬし、どうして……」
まずい。やっぱり妙に思われてる。
俺の前世が男だってところまでは気づかれてないと思うけど、バレたらおかしなことになるんじゃないか?
何より、娘の中に得体の知れない男の魂が入ってるなんて知ったら、ダイアーが……
「ああ、多分だけど、僕のせいかな」
「えっ?」
「最近、僕が書いた本をレーダに読んでもらっているんだ。その中にはいろんなモンスターの話も載ってるから、それが出てきちゃったのかも」
「なるほど……?」
えっと……誤魔化せたのか?
今の言葉はまるで、助け舟を出してくれたみたいだった。
春の妖精は少し訝しげな表情をしているが、ダイアーの方はそれで納得しているのか?
本当に?
「まあ、おぬしのことじゃ。どうせめちゃくちゃに盛った自伝でも書いたんじゃろ」
「な、そんなことないよ!」
「じゃなければあんなバケモノ出てくるはずないのじゃ!」
「それとこれとは関係ないだろ!」
まずい。なんかわちゃわちゃし始めた。
止めた方がいいのか?
でもちょっと楽しそうだしな……いや、いいか。
「あのー」
「うん、なんじゃ?」
「結局、私は精霊歌を教えてもらえるんでしょうか。試験の結果は?」
「あっ、忘れてた」
おい、今忘れてたって言ったな。
しかものじゃ口調崩れたってことはマジの素だろお前。
いやしかし、実際のところどうなのだろうか。
ダイアーの助けを借りてるわけだし、不正があったとされてもおかしくないんだよな。
再試験とか、もしかしたら出禁みたいなことになったりするんだろうか。
だとしたら悲しいな。
「もちろん合格なのじゃ。とりあえず王様に報告したら、すぐに教え始められるぞ」
「えっ? いいんですか?」
王様が関わっているのに、そんな軽い感じでいいのか?
第一、俺一人の力で試練を突破したわけでもないのに……
「ああ、元々は複数人で受ける前提の試験じゃからの。子供のうちに受ける方がズルみたいなもんじゃ」
「えっ」
「まあ今回はわしの説明不足もあったからの。ネルレイラ王には上手く言っておくわい」
マジかよ。それでいいのか。
ちょっとコネ入社みたいで罪悪感があるな。
「それに、おぬしみたいにしたたかで、なによりかわうい子と繋がりを持たぬのは、、もったいないからの!」
「え、ええ……」
カハハという豪快な笑い声。
こうも直球でほめられると、少し恥ずかしくなってくる。
ダイアーから話を聞いたときはロリコンかと思ったけどとんでもない。
こうも面倒見のいい親戚みたいな立ち回りをされると、ちょっと好きになっちゃうだろ。
「こら、リーラント。人の娘をたぶらかすのはやめてくれ」
「おー? 別にいいじゃろ。減るもんじゃあるまいし」
「君が女児男児の水浴びをのぞいたりしないヤツだったなら、そう思えたけどね」
「な! それをバラすでない!」
訂正、やっぱりロリコンだったらしい。
あんまり深く関わらないようにしよう。
「うう、レーダちゃんの視線が冷たいのじゃ……」
――教えてくれ。君は一体何者なんだ?
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