第10話 四筋の光芒
「パパ、気を付けて」
「ああ!」
俺たちはバケモノに対峙する。
バケモノの輪郭は乱雑に積もったゴミ山みたいって言うんだろうか。
両翼に伸びる二本の腕の付け根、無数の顔のパーツが集まる場所を中心として、髪みたいな触手が四方八方に伸びている。
さっき、俺を殴りつけたのはコレだろう。
ダイアーのおかげで、何割かは消し飛んだみたいだけど、それももう、再生し始めている。
「……囲まれたね」
「えっ?」
ダイアーに声をかけられて気付いた。
地を這うように延びていた触手が、いつの間にか俺たちの周囲を取り囲んでいる。
地面から更に伸び上がって、気色の悪い壁を作っている。
「やるしかないみたいだ。だけど……どれが本体かわからないな」
ダイアーは覚悟を決めたようだ。俺もそうしよう。
でも、はっきり言って二歳児の身体でできることは少ない。
正直、何をするべきなのかもわからない。
「レーダ。心配しなくていい。君にはもう指一本触れさせない」
「パパ……」
「だから教えてくれ。奴の弱点は何だと思う?」
「弱点……?」
そうだ。心の中の後悔が具現化したからと言ってなんだというのだ。
一見ただのバケモノで済ましてしまいそうになるけど、視覚的に認識できるなら、何をしてくるか、見当は付けられるはず。
一度冷静になって、相手を良く分析するんだ。
そもそも、奴の正体はなんだ……?
「たぶんだけどあいつ、単純に一体のバケモノってわけじゃないと思う」
「ほう、続けて」
「たぶん、部位に分けるなら、三種類が混じってる」
俺は先ほどの、沈んだ思考の中で理解していた。
おそらく、奴の正体は俺の後悔。
正確に言うなら、異なる3人への負い目だ。
「触手と、腕と、顔のパーツみたいな部分。それぞれが別々で、融合してるんだと思う」
「なるほどね……」
触手が母さん、ぐちゃぐちゃに混ざりあっている顔のパーツがアオイ……俺の彼女を表しているとするなら、特徴的な二本の腕は父さんへの負い目だろう。
その全てがバケモノの中心部に集まって、ぐちゃぐちゃに混ざりあってうごめき続けている。
でも、そんな中で一つだけ。形を保ち続けているものがある。
「あの腕。触手とか、目とか、口とか鼻とかと違って、ずっと同じ形をしてる。狙うならそこかも」
「なるほど良い観察眼だ……やってみる!」
ダイアーはすぐさま、背中の矢筒に手を添える。
添えたかと思った瞬間、矢を抜き終え、弓につがえ始めている。
目にもとまらぬ早業だ。
しかも、それだけじゃない。
「はああっ!」
ダイアーは弓を素早く四度引く。
その全てに添えられていた矢は、
ダイアーは1モーションで、矢筒から四本の矢を抜いたのだ。
それだけではない。それぞれの指の間に挟んだ矢を、そのままつがえて放ったのだ!
「パパかっこいい!」
これだよこれ! これが見たかったんだよ!
ダイアーの弓捌きは素晴らしいのだ!
脳内口調もかっこつけちゃうくらいかっこいいのだ!
すごいぞダイアー! 何で光ってるのかわかんないけど!
というかお前ほんとになんで身体光ってるんだ?
「よし! 効いてる!」
ダイアーの放った矢は、バケモノの右側、腕の付け根に命中した。
光が突き刺さった直後、バケモノの肩から黒い靄が舞う。
直後、バケモノの腕がだらりと垂れ下がった。
明らかに効いている!
だが、同時に気付く。
もう片側の腕が肩を引いている。
俺はその肩を引く動作に見覚えがあった。
忘れもしない。
これは両親の離婚後、最後に俺を抱きしめようとした、父さんの肩と同じだ。
「突っ込んでくるよ!」
抱擁を攻撃とするなら、突進する必要があるはずだった。
だから俺はそう叫んで、バケモノはその通りに行動した。
バケモノの下半身を支える触手がうごめいて、伸びて。
見覚えのある肩をこちらに運んできた。
「春の運び屋!」
ダイアーも気づいていたのか、バケモノがこちらに来た瞬間には精霊歌を歌い終えていた。
今度のダイアーは矢筒から抜いた矢ではなく、腰のポーチに手をかけていた。
「うわ、すご」
どぱぁん! という音がして、バケモノがのけぞる。
ポーチの中身は見えなかったが、こんな音がするくらいの速度で投げつけたらなんだって強いだろう。
しかも、どうやら投擲物はもう一方の肩に命中したようだ。
バケモノの肩はだらりと……いやもげてないかこれ?
根元からもげてるねぇ!
スプラッタじゃなくてよかった!
黒い靄が吹き出るだけでよかった!
「レーダ! 君の読みは正解みたいだよ!」
いや、読みとかそういうの置いといてもげ……いや違う! なんだこれ!
四方に散っていた触手が一ヶ所に集まり始めてまとまっていく。
同時にバケモノの腕がみるみるうちに黒い靄に変わっていく。
そうして、最終的に出来上がったのは、黒い鞠のような巨大な球だ。
なかなかの迫力だが……ちょっと待てよ?
「ふふ……これで第二形態ってところか。面白い」
「パパ?」
「心配しなくていいよ。これでもパパ、昔は怪物狩りが得意だったんだ」
「いや、そうじゃなくて」
念のため、周囲を見回してみる。
うん。やっぱりそうだよな。うん。
それでいいよな? 間違ってないよな?
「回り囲んでるやつ居なくなったなら、逃げればいいんじゃない?」
ダイアーは目を丸くしてこちらを向く。
口が半開きだ。
うん。あってるよな。
だって今回の試練、森から脱出すればいいだけだもんな。
ダイアーもそう思うだろ?
「その手があったか!」
気付いてなかったんかーい!!
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