第7話 特別試験ってなんだよ



 たどたどしい声で前世で良く聞いていた曲を歌う。

 とはいっても、一曲通して歌ったこともない曲だから、クオリティの良し悪しは俺にもわかる。

 というか、今世の言葉に翻訳しながらの歌唱だし、音数も合ってないし、二人から見れば子供の鼻歌みたいなもんなのかもしれない。

 でも、もっとカラオケとか行っておけばよかった……!



「まるでダメじゃな」

「そんなぁ」



 くそっ。こんなことならダイアーかミナに歌を教えてもらっていたのに!

 というかダイアー! こうなること分かってたなら事前に歌教えてくれよ!

 コラ! 目をそらすな! まさか本当に忘れてたのか!?



「まあまあレーダ。ここからだよ」

「ここからとはなんじゃ。もう試験は終わりじゃぞ?」



 ダイアーの意図はわからないが、春の妖精はもう帰ってしまいそうに見える。

 ここは俺が引き止めないと……!



「そこをなんとか……お願いします!」

「ほう」



 俺は両手を揃えて、春の妖精に頭を下げる。

 精霊歌を使ってみたいのは本当だ。

 俺もダイアーみたいにかっこつけたいし。



「だったら、それなりの誠意を見せてもらわなければならないのぉ」

「誠意……?」



 そんなこと言われても、彼女が何を求めているのかなんてわからない。

 第一、二歳児が示せる誠意ってなんだ?

 一緒にご飯食べるとかそういうのか?

 正直よくはわからないが……



「できる限りのことはしま……」

「ほう! そこまで言うならしかたないの!」

「えっ」



 俺が返答すると、春の妖精が食い気味に大声を上げて、俺に左腕を向けてきた。

 パパ? これ何しようとしてるの? あとなんで笑った?

 これから何が起こるのか説明してくれ。そろそろレーダちゃん怒るぞ?



「まどろみ纏い、沈んで眠れ。続けて綴る筆渡せ」

「えっ、えっ」



 まずい、春の妖精がいよいよ何かしようとしている。

 これ絶対精霊歌だろ。俺に何かしようとしてるだろ。



「パパ! いい加減説明……」

「春昼落とし」



 春の精霊の声で、俺は声を出せなくなる。

 それだけじゃない。全身から力がぬけていく。

 後ろ向きに倒れそうになって、ダイアーが駆け寄ってきてくれる。

 ダイアーの腕の中へ落ちていく。



 何が起こった?

 わからないまま、視界がホワイトアウトしていく。



***



「うおっ!?」



 目を覚まして、勇ましい声を上げてしまう。

 でもちゃんと声質は女の子だ。俺はレーダちゃんだ。



「ここどこ……だ?」



 女の子らしい口調を保とうとしたが、うっかり崩れてしまう。

 だってしょうがないだろ。

 周囲の風景が、あからさまに異様なんだから。



「森……?」



 俺は今、森のような場所にいる。

 さっきまでいた、家の近くの森ではなさそうだ。

 あからさまに鬱蒼としていて、薄暗い。



 というか、多分空が昼間じゃない。

 月明かりとか、常夜灯とか、そういう系統の明るさだ。

 ざっと見渡した感じ、辺りに建物は見えないから、月明かりの方だろう。



「うう……どうなってるんだ……」



 正直、こういう雰囲気の場所はあまり得意ではない。

 ビビりってわけじゃないけど、心細いのだ。

 ダイアーは当然のように見当たらないし、俺だけどこかに飛ばされたとか、そういうのか?



「気が付いたようじゃな!」

「うおっ!」



 脳内にのじゃ声が!

 じゃない、監視されてるなら口調戻さないと。

 どういう原理か知らないけど、ファンタジーなら何でもありってことだろ。

 でも一応、聞いてはおくか。



「何をしたんですか?」

「なあに、特別試験会場に案内しただけなのじゃ」

「ええ……?」



 特別試験ってなんだよ。

 法律に抵触する内容じゃないだろうな。

 この世界の法律は知らないけど、いたいけな青少年に危害を加えるなってやつは多分あるだろ。



「内容は簡単、おぬしには今から、自分一人の力でこの森を脱出してもらうのじゃ!」

「え、ええ……」



 困惑してしまったが、その言葉で気付いた。

 ご丁寧にこの森、ある程度道が舗装されている。

 森の細道っていうんだろうか。

 丁度、俺のいる場所が道の中心のようで、そこから一定の幅で地面の草が剝げて、道が伸びている。



「道中には大量の試練が待ち受けておる!」

「はあ……」

「なあに心配するでない。おぬしの父親も突破した試験じゃから……ってなんじゃ? あんまりビビッておらぬの?」

「それは……まあ」



 正直なところ、不気味さがないわけではないが、困惑が強すぎる。

 俺が本物の二歳児なら違ったのかもしれないが、俺は精神がアラサーだからな……



「おかしいの……ダイアーの時はビビり散らかして失禁までしておったのに」



 おう、こんなところでまで情けないパパンの噂が聞けるとは。

 でも大丈夫だダイアー。俺はお前のこと信じてるからな。

 だからさっさとこの状況なんとかしてくれ。

 いやまあ、試験ならある程度は一人で頑張るけどさ……

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