第2話 今度の俺は女の子


 なんだろう、また明るくなってきた。

 明るいというか眩しい、はっきり言って、目がくらみそうだ。

 しかも、明るい割に何も見えない。

 目の方も、瞼が縫い合わせられてしまっているみたいに開かない。



 ほかの感覚も、まだはっきりしていない。

 なんだか辺りが騒がしい気もするけど。耳もほとんど聞こえないし、触覚も曖昧だ。

 せめて息くらい吸い込みたいけど、喉や鼻の中に何かが詰まっていてまともに呼吸できない。



 そこで思い出した。

 そう言えば俺は先程、ベランダから転落してしまったはずだ。

 あの時も呼吸が苦しかったし、もしかすると、肋骨でもいかれてしまったのだろうか。



 そうだ、気を失う直前、俺は吐血していた。

 まだ口か、喉の方に血が残っているのかもしれない。



 いや待て、吐血してしまったということは、内臓が傷ついてるってことじゃないのか。

 気軽に吐血するアニメや漫画と違って、現実で吐血してしまうのはかなりの重傷だとどこかで見た気がする。

 だとしたら、助けを求めないとまずいんじゃないか?

 このままじっとしていたら、今度こそ死んでしまうんじゃないか?



 あっこれ本当にまずいかも。

 腕も満足に動かせないってことは頭も打ったかこれ。

 せめて声、感覚がなくても声は上げないと。



 いつの間にか、喉の詰まりはなくなっている。

 声を出せているかどうかは分からないが、俺はひたすら叫び続ける。

 誰かー! 誰かいませんかー!



 誰かー!



***



 やあ、生まれたてピチピチ、金髪美少女のレーダちゃんだよ!

 


 いや冗談なんだ。

 いかないでくれ俺のイマジナリー読者たち。



 ダメだな、やっぱ現実を受け止めきれてない。

 なにがまずいって脳内でライトノベルを始めようとしているのがまずい。

 いや、この口調だとweb小説かな?

 でもこうでもしないとやってられないんだ。



 だって本当に俺の名前はレーダだし、髪は金髪だし、母親も父親も美人だったから多分美少女だと思うんだ。

 あっでも、生まれたてって部分は嘘か。何だかんだもう二年くらい経ってるし。

 うん、いい加減説明しよう。



 端的に言えば、俺は生まれ変わってしまったらしい。

 いわゆる転生だ。web小説の覇権ジャンルだな。うん。

 でも問題が一つある。なんとこのレーダちゃん、もう一つ追加のジャンルを獲得してしまっているのだ。



 知っての通り、俺は元々男だ。

 当然、生まれ変わっても男のつもりだった。

 両親は俺をレーダと呼んでいたけど、レーダって名前ならほら、男性でも通用しそうじゃん?

 だから俺はてっきり、今度も男だと思ってたんだ。



 でも生まれて1年ほどたったころ、俺の希望は打ち砕かれた。

 俺が自分で立てるようになった記念にと、両親がフリフリフリルを着せてきたのだ。

 比喩でも何でもない、本当にフリフリのフリルだった。

 しかも一日だけじゃない。毎日だ。

 色違いのフリフリフリルを毎日ローテーションで着せてきた。

 そうして俺は、自分が女であることを理解させられたのであった……



 冗談はさておき、これは大問題だ。

 当然ながら俺は女としての生き方を知らない。

 お化粧の仕方も知らなければ、化粧室の使い方も知らない。

 どっちも同じじゃないかって? 馬鹿野郎、俺は女の子だぞ。



 まあそんなことを思っていたのだが、結論から言えばなんとかなった。

 考えてみれば当たり前だ。生まれたての子供が、いきなり女としての生き方を求められるわけがない。

 はいはいのやり方から、二足歩行の技術、幼児が絶対に最初に覚えるべきパパママといった言葉という風に、順番に教えていってくれるのだ。

 特に親切なのは、俺の父親が……



「レーダァ!」



 噂をすれば。部屋の扉(引き戸)を物凄く勢いで開け放ちながら、彼が姿を現した。

 自然な色の金髪を後ろの方で括った、所謂マンバンヘアのイケメンが、地を這う俺に接近する。

 イケメンはそのまま、迅速かつ繊細な動きで俺を抱きかかえ、満面の笑みでこちらを見てくる。これには俺も答えねばなるまい。



「ぱぱ」



 紹介しよう。この「ぱぱ」と呼ばれただけでヨガり狂っている残念なイケメンはダイアー・ハイマン。この村を守る狩人にして、俺のお父さんだ。

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