【ほん怖】私のベッドに横たわる女

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

第1話 這い上がる女

『は、ぅぅぅぅ、な、なに!?』


 絞り出したはずの声は、声にならなかった。

 ただ空気をわずかに震わせるだけで、誰の耳にも届かない。


 むしろソレに気づいた女は、明らかに嬉しそうに真っ赤な唇の端を上げた。

 そしてゆっくり、ゆっくりと布団の中から這い上がってくる。


 私はそのうごめく布団の中にいる長い髪の女を、ただ見ていることしか出来なかった。

 

 何がいけなかったの?

 やっぱり寝る前に怖い話とか見ちゃダメだったとか、そういう話?


 そんなことをぐるぐると考えたところで、どこかのテレビから這い出くるお化けに似たその女性は、這い上がってくる。

 

 ああああ、やだやだやだやだ。

 無理、絶対に無理。

 体も動かないし、最悪だ。

 これ殺されるとか?

 ああ、良くて呪われるみたいなことだよね。


 そこまで考えて、ふと思う。

 随分と私は変な体勢で、この女を見ているな、と。


 相手は自分の布団の中を這い上がってきていて、私は体が動かない状態だ。

 なのに這い上がる彼女を見れるということは、随分と首を曲げないと無理。


 首痛くないのか?

 なんてのんきに考えた次の瞬間、またその女が顔を上げた。

 一人嬉しそうに笑うその女に、私は無性に怒りがこみ上げてきた。


「つーか、不法侵入だろうが!」


 私の中の怒りがはじけるように一気に起き上がり、そのままその女にパンチをした。

 不法侵入、しかも人様の布団の中にって、さすがに非常識だろうと。


「勝手に布団に入ってくるな! って、勝手に住むなら家賃払え! お化けだからって、空間使うなら金出せぇぇぇぇぇ!」


 何度も何度もたたき、ふと痛いのは自分の足だと気付く。

 布団の中にはもちろん、誰もいなかった。


「……恥ずかしい」


 ソレが本当にいた女だったのか、それともただの悪夢だったのか、分かる術はない。

 それなのに大声で叫んだ自分が、恥ずかしくて仕方なかった。

 

 幸い、まだ母は家に帰っては来ていなかった。

 その日私はその後眠りにつくことが出来ず、朝早くから友だちの家に出かけた。



     ◇     ◇     ◇


「あ、れ?」


 夕方、嫌な気持ちを引きずったまま家に帰ると、居間に姉がいた。

 数日ぶりの姉は私を見るなり、怪訝そうに眉をしかめる。


「なに?」


 姉はもう一度私の顔を見たあと、子ども部屋に目をやった。


「え、なに?」

「いや……さぁ、愛菜まな今帰って来たこと?」

「そりゃそうでしょう。見てたじゃん。玄関から入ってくるとこ」

「うん、まぁ、そうなんだけど……。あれ、おかしいなぁ」

「だから、なに?」


 首をかしげる姉は、しきりに子ども部屋を気にしていた。

 それがどこか引っかかる私も、姉の言葉を急かす。


「ん-。さっきあたしが帰って来た時さ、部屋に行ったのよ。んで、ベッドであんたが寝てると思ったから、起こしちゃ悪いと思って出てきてココで起きるの待ってたんだよね」


 私は確かに朝出かけ、今帰ってきた。

 聞けば姉は、私が出かけて数時間後に家に帰って来たらしい。


 その時、子ども部屋のベッドで寝ているを見た。

 つまりは……私が見たあれは、夢なんかではなかったという……。


 それから数年後、私は実家を出た。

 絶対に自分で選ぶ家は、こんなことにならないのを選ぼうと噛みしめながら。



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この度は本作品をお読みいただきまして、ありがとうございました。

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またカクコン短編部門にまだ数本出させていただきます。

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