第11話 拙い企て

 みんなを送って帰ったが、時間はまだ早い。

 試験範囲を追いかける。


 そして、一時間も過ぎた頃、風呂へ入っていたはずの彩が、何故かコンビニの袋を抱えて帰ってきた。


「竜ちゃん。ただいま」

「んー? お帰り。風呂へ入っていたんじゃないのか?」

「へっ? あっそうだ。入ってくる」

 そう言って、ドタバタと降りていく。


「何だあいつ」

 そう思いながら、放り出していったコンビニの袋を覗き込もうとすると、またすごい勢いで、階段を上がってくる。


「買い物。見た?」

「いや、見ていない」

「冷やさないといけない物があって。おほほほっ」

 変な笑い方をしながら、そう言って、袋を持っていく。


 さて、予想はついただろう、みんなとの差をつける。

 それには、あれね。そう思い、彼用の装備品を買いに行った。

 恥ずかしさもあって、訳の分からない物を大量に買い込む。


 コンビニ店員さんのニヤニヤと、外国人らしい、サムズアップとイエェーが少し後押しをしてくれる。


 そして、本当に冷やさないといけなかったアイスが、脱衣所で溶ける中。バスタブの中で、溶けずにのぼせ上がる彩。

 あまりに気合いを入れて洗いすぎたせいで、至る所が多少ヒリヒリする。


「いよーしぃ。いくぜぇ」

 妙な気合いを入れて、部屋へと上がっていく。


「ただいま」

「おう。お帰り。お前も部屋にいるのなら勉強をしろ。テスト範囲と対策はこのノートだ。赤点を取ると、宿題の山がやってくるようだからな」

「あっそうね。あっあのね」

 何かを言いたそうに、あわあわしているが、たしたことはないだろう。


「風呂へ入ってくるよ」

「へっ。ああ。お風呂ね。良い出汁よ」

 思わず固まる。


「良い出汁って何だ?」

「あっ、良いお湯。ちょっとした間違い」

「ふーん」

 妙な感じを受けながら、部屋を出る。

 すぐに、「あいすがぁああ」と言う叫び声が聞こえた。


 まあ良い。風呂場へ行って体を洗いつつ、良い出汁って何だ? あいつ湯の中で漏らしたんじゃないだろうな? ふとそう思って匂いを嗅いでみる。


 別に大丈夫そうだ。

「うええぃ」

 肩まで、湯に浸かる。


 あれから、探査もされることもないし、先ずは一安心だ。

 ひょっとすると、軍の奴らが見つけたか?

 そう言えば、俺達の能力は固有パターンがあるんだったか?


 だとすると、軽々には使えないな。


 まあ、世界に能力が発生したが、ダンジョンができたわけでもないから、安心だろう。

 モンスターとかが出たら、大騒ぎだからな。


「よし」

 そう言って、ちょっとした気合いを入れて、風呂を出る。

 高校生になって初添い寝。多少思う物がある。


 その時、忘れていた。

 軍の時に散々やって来た手順。


 原住生物殲滅用生物兵器。

 星の環境を改造するときの第一歩。

 土着の生物が居るときには、まずバクテリアやウィルスまで殺す必要がある。

 いったん、地殻破壊弾を撃ち込み、火の玉にするのは手っ取り早いが、落ち着くまでに時間が掛かる。


 それで、後で簡単に駆除ができる生き物を放す。

 そう、昔はよく使った。

 地球人の感性だとひどい話だが、ドラガシメル人としては、問題ない。

 それが普通だし、住めない星など意味が無いからな。

 大体、余所から来た人間が足を一歩踏み入れただけで、生態系へのダメージは与える。


 大なり小なり、そして急激な変化か、ゆっくりした変化か。

 それだけだ。


「ただいま。さっき風呂行く前に、何を叫んでいたんだ?」

「へっ? なにもないよ」

 ごにょごにょ言っているが、彩のコップには、すごく甘そうなシェイクのような飲み物が入っている。


「ふーん。そうか。さて勉強をするか?」

「あーうん。少しだけね。遅くなると明日学校だし」

「気合いが入っているのか? 珍しい」

 そう言うと、少しプクッと頬が膨らむ。


「むー。やるときには、やるのよ」

 そう言ってノートを見始めた。そして、一五分くらいが経つと、落ち着きがなくなる。

 いつもの行動。

 彩の行動限界だ。

 勉強時間なら、おおよそ一五分。


「ちょっと、飲み物取ってくる」

「ああ」

 次はきっとトイレだろう。


 本人は勉強をする行動に対して、心理的アレルギーがどうだとか言っていた。


 それでも何とか、範囲を進めて一時頃。

 集中が出来なくなってきたのでやめる。

 彩は大分前から、気絶するように眠りについた。


「よっ」

 お姫様抱っこをして、ベッドへ寝かせる。

 俺のベッドは、一応セミダブルだから二人で寝られる。

 彩は昔。しょっちゅう寝落ちをして、泊まっていたからこの環境が出来ている。


 電気を消して、常夜灯にする。


「さすがに、高校へ入ってからは始めてだな」



 そして、寝返りを打った私は気がついてしまった。

 いつの間にか寝落ち。

 そして、横で竜ちゃん爆睡中。


「あーうん。かわいい」

 常夜灯だが、顔が見える。

 ほっぺにキスをする。


 徐々に口へ。

「ふわっ。しちゃった」

 そうだ、男の人って朝とか、寝ていても元気だよね。


 その方が、恥ずかしくなくて良いかも。

 なんてことを、彩は考えて実行をする。

 そっと、竜司の一部へ手を伸ばす。


 同時刻、衛星軌道上で、一機の宇宙船が浮かんでいた。

「この星が、基本だから微生物までの殲滅は必要ないだろう」

「ああ、母なる星だから、環境は問題ないだろう」

 そう言いながら、地上のデータを観測し内容をチェックしている。


「昔より寒いし、酸素濃度も低そうだが、まあ良いだろう」

「じゃあ、あれだな、原住生物殲滅用生物兵器を撃ち込もうぜ」

「あれか、動物を変化させる奴」

「そうだ、最後の最後に殺虫剤をぶち込めば、変異体は死ぬからな」

 そう言いながら、厳重なケースの鍵を開け始める。

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