第12話 その時、ばらまかれた物

「変異の鍵が合うのは、どのくらいだろうな?」

「さあ? 学者じゃないからな。遺伝子情報で、この変異物質に対応するパターンを持っていれば、上位の生物に変化できるんだ。現住の生物たちも嬉しいだろう」

 そう言って、やっと鍵の開いた移動ケースから、チューブを取り出す。


「えーと、外側への、射出はこれか? 俺が勤務していた頃と勝手が違いすぎる」

「元軍人さん。頼むぜ」

 彼らは、裏組織の人間。


 賢者に目をつけられたことに気がつき、軍の港から宇宙船を盗んだ。

 奇しくも、無い知恵を振り絞り、行き先を考えた末、生存が出来そうな地球を逃亡先に選択をした。


 彼らの宇宙船を、どこかから飛来した隕石が直撃する直前に、セットをした原住生物殲滅用生物兵器が射出されてしまった。

 地上に向かって、バシュッと撃ち出され、地上三千メートル付近でカプセルは自壊をして大気中に霧となって振りまかれた。


 地球上の生物を、進化とも変異ともいえる急激な変化をもたらすもの。

 それが、今。


 それを吸い込んだ動物たち。

 当然人間も含まれる。

 適合した生き物は、奇妙な高揚感と、空腹感。

 そして驚異的な身体能力を得る。



 うーん何で? 元気にならない。

 ツンツンと、突っついてみる。

 さすがの、彩でも恥ずかしい物は恥ずかしい。

 子供の頃に、訳も分からずむんずと掴み、中の球をぐりっとしたときとは違う。そう、竜司を泣かせた。あの時とは違う。


 それが何で、どれだけ重要か知っている。

 このコロコロの中に、竜司が沢山いるのだ。

「むう」

 彩は元気にする方法を、調べ始める。


「えっ。こんな事をするの?」

 いくつか情報が、ヒットしたらしい。


 その状態で、二時間ほど情報を漁り、すっかり彩の方ができあがってしまった。

 ふやけた指。

「あううっ。横でしちゃった」

 布団の中は、匂いが充満している。


 そして、すでに四時近い時間の中。彩の意識は沈んでいく。


 朝、目が覚める。

 ふと、横を見ると彩が気持ちよさそうに眠っている。

 パジャマの前ははだけ、スマホにはえっちなページ。

 ズボンとパンツはどこへやら?


「うーむ。何があった?」

 周囲には、女の子の匂いが充満している。

 あわてて、窓を開ける。


 着替えてから、起こすのはあれだから、彩を起こす。

 当然、状況が状況だから布団は掛けたが、変に濡れていたことに気がついた。

「ほら朝だよ。彩。起きな」

「うん? あっ、竜ちゃんおはようっ」

 挨拶を言いかけて、彩が固まる。


「あーねえ。竜ちゃん。その、私とエッチした?」

「いや。していないと思う」

「そそそ、そうだよねぇ」

 そう言って、布団に潜ると、スマホの画面。

 動画なので、スリープをしていない。


 記憶がある。

 ええ、とっても。

 器用に、足の指でズボンと下着をつかみ、寄せてきて穿き始める。

 パジャマの前も全開で、年頃の女の子としては最悪。

 それも、竜ちゃんの前で…… はっ。先に起きたなら見たはず。

 引いたかしら、それとも喜んだ?


「あっ、あのね」

 そう聞きかけたが、いやーあ。聞けるわけ無いじゃない。

 ただ真っ赤になって、もだえる彩。


「いい加減、着替えないと、遅刻するぞ。朝飯抜くのか」

「いやだ。食べる」


 そうして、テレテレしていたはずの彩だが、ご飯と聞いた瞬間から、俺の目の前で恥じらいなど、何それ美味しいの。そんな感じで、すべてを脱ぎ散らかして着替えた奴は、さっさと下へ降り、お代わりをしていた。


 俺はシーツを、洗濯機に放り込み、ベッドのマットレスには消臭除菌剤を噴霧する。


 ベッドメイクをして、外に出ると、仕事を増やした奴の目の下にクマが育っていた。

 そう言えば、今年はクマが多いそうだな。


 山間部の方、安全を祈願いたします。

 クマの危険に、気が向いていた頃。



 アフリカのある地方で、ライオンの奇妙な個体が発見された。

 通常数頭のオスと、それに倍する雌でグループを作るが、そのオスは通常の倍近い体高を持ち。回りのオスをむさぼり食っていた。


 同じ頃。ヌーにも同族を喰らうものが現れ、そいつは巨大化し角まで巨大化。横向きに生えているはずの角は、山羊のようにねじれながら上向きに生えた。

 二足歩行になったものも現れ、その者は伝承に現れる悪魔のようだった


 そんな、生物の多様化は、学者や管理官により発見されて報告される。

 アフリカから始まったその異変は、海へと広がっていく。

 海にも、伝説の生き物が現れ始める。


 そして一部の人も、発熱と異常な興奮、筋肉組織の膨張とそれに伴い、他人や野良犬を生のままで食べ、食べた分だけ骨格まで育ち、角が生える。

 伝承に書かれるオーガのようであった。


 家畜の豚は、共食いし二足歩行化して、オークへと進化をする。


 猿たちは、二足歩行へ移行して、武器を使い始める。

 繁殖願望と収まらない空腹つまり、欲と呼ばれるものがブーストされた彼ら達。

 一気に周囲へ向けて広がり始める。


 ラノベに書かれた、モンスター達。

 それが今、地上に誕生をした。


 だが、魔法が少し前から使えるようになっていたこの世界。

 意外と、こうなると思っていたと、ネット上で流れていた。

 異世界との、時空震だとか、こうなった理由を議論し始める。

 主に日本と、自らをOTAKUとかGeekと呼ぶ彼ら達にNerd達までが参戦して盛り上がっていく。

 そして禅と魔法についての考察とか、どんどん情報の輪が広がる。


 そして当然のように、国家に食い込んだオタクたちの呼びかけにより、ギルドが創設される。

 できあがったのは、超国家組織。


 国連の反対はすごかった。

 だが、本気を出したオタクたちの動きは素早く、議論を数日必要とする国連など太刀打ちが出来ず。

 現状モンスターに対応できない国家は、ギルドを認めるしか出来なかった。

 そして、大きな国家まで、飲み込んでいく。

 当然これらの実現には、数年かかったが。

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