第6話 こんなことって

 その後、何故か試験前のストレス解消と言い出して、女の子三人と俺でカラオケに行くことになった。


 二度あることは三度ある。

 堂元まどかと彩がトイレに行き、黒木伶菜が中島みゆきさんの化粧を、泣きながら歌っているときに、やばい波動が降ってきた。


「ぐあぁあ。くっ」


 どこからだ、この波動は高位の……

 地球人。今の人間ではない。

 大気圏外からの探査波動。


 昨夜の、俺が出した波を、もしかして見張っていた何かが傍受をしたのか?


 そう、宇宙の一角だけだが、大騒ぎになっていた。

「一八年前に失踪した、ミー=キャエル様の波動を、地球表面で捕らえました」


「なに? ホントか?」

「これをご覧ください。このシグナルです。波動が、データーベースの登録波動と一致。アラートが鳴っていました」

 二人して、モニターを眺める。


「ふむ。微妙に違う様だな」

「ところが、これは通常波形で、生体偽装時のブロック状態だと、横がヘコみ、この状態に重なります」


「現地人に偽装をしているのか?」

「いえ。さすがに、記録に残っている事故の状態で、生きていたのは考えにくいです。昔出された論文で、『輪廻利用による、記憶保持転生の可能性についての考察』と言う物があります」

 ぺらっと見せられるフィルム。閲覧用情報共有フィルムに持ち出してきたようだ。


「論文の著者は『マイリ』となっております」

「マイリというと、ミー=キャエルの恋人ではなかったか?」

 事故の記録を探し始めると、同乗者に確かにマイリと書かれている。

 しかも、彼女は寿命の短いランクツイン。


「ツインか。寿命は、後半分くらいあったわけか」

「ですが、見てください。この論文に書かれたように、特殊なエネルギー体で魂を包み、霧散を防いだ状態で転生。つまり、輪廻を行えば、記憶を持った状態で、生き返ることが出来ると書いてあります」

 要約されて驚く。この内容は危険すぎる。

 これが、論文として受諾。

 査読を通って、掲載されたのが驚きだ。



「これは画期的だが、危険だな」

「まだ理論だけで、実用的な物ではありませんからね」

 この時二人は、嫌な予感が脳裏に浮かぶ。


 この実験、うまく行ってしまうと、多重羽(マルチセット)の優位性がなくなる。

 幾度も死ぬが、そのたびに転生を繰り返せば良い。


 大昔からの特権。

 それがなくなる。


 寿命が長い者達は、今まで積み上げて来た、特権が存在をする。

 寿命が長ければ、個人の資質は必然的に上がる。

 結果的に、研究施設や教育現場の教授のようなトップは、最低でも三対六枚羽(セクスタプレト)が多い。


 つまり、ミー=キャエルは軍の偉い人間だったが、同じように、世の管理を行う者達はすべて、六枚羽(セクスタプレト)以上だという事だ。


 それ以上は、本当に数万年に一度位しか生まれず。

 オクチュプリトと呼ばれ、世界を守る賢者と呼ばれている。


 宇宙を渡る方法も、高次元のエネルギー利用。

 社会基盤。すべてを発見して、組み立てた。

 人類の恩人。


 歳など、誰も知らない。

 文字通り伝説。

 一〇人もは、今現在いないはずだ。

 彼らの情報は、堅く秘匿されている。


「探しに行くぞ」

 亜空間経由で、母なる星へやって来た。

「直接関わるのは危険だが、探査は良いだろう。ポチッとな」

 今ここである。


 はた迷惑な探査は、エーテル体スキャン。魂の形をスキャンしている。

 人間の本質をスキャンする。当然全国民の身分証明用に登録されていた。


「見つけたぞぉ。ひさしぶりだなミー=キャエル。力を使ったということは、彼女は装置を成功させていたという事だな。危険だから会いには行かないが。嬉しいぜぇ」

 だが、友人達二人の、軽はずみな行動で、情報はばれた。


 昔からの友人であり、副官だったセル=ビームとスローム=カーン。

 彼らには当然、見張りがついていた。



「んちゅ。んー。甘酸っぱいのは。ドリンクのせいかな?」

 そうぼやきながら、堂元まどかの顔が離れる。


 何故か俺は、大きく前にならえをしたまま、目を開けて気を失っていたようだ。

 はっと気がつくと、伸ばした腕と腕の間にまどかは入り込み。

 俺の両足を挟むように、ソファーに手をつき顔を覗き込んでいた。


「金色の目が普通に戻った。えぃ。もう一回。むちゅ」

 もう一回。キスをされる。


 広げていた腕を戻し、彼女の両肩を掴んで押し戻す。

「やん。せっかくなのに」

 そう言って、あろうことか、スカートなのに俺の太ももの上に、またがるように座り込む。


 そして、俺のほっぺを両手で挟む。

 どうなるんだ俺?


 そう思ったら、二人が帰ってきた。

 すんげえやばい気がする。

 だが、なにも気にすることもなく、二人は自分のコップを持ちドリンクを取りに行ってしまった。


「目で追っかけてる。と言うことは、効いていない? おかしいなぁ。学校じゃ皆に効いたし、さっきは固まっていたのに。竜司君が好きだから舞い上がって、何かミスったのかしら?」

「おへぎゃ、しゅき?(おれが、すき)」

「へっ。やっぱり意識がある。なんでえぇ」

 そう言って、彼女は真っ赤になる。


「とりあえず、二人が帰ってくるから、膝から降りて」

「あっ。うん」

 降りて、すぐ右隣にぴったりと座る。

 空間に、微妙な空気が広がる。


「力を得たのか?」

「うん」

「おれが、婚約をしたのは、知っているよな?」

 そう言うと、俺の右肩に両手の指先を掛け、にじり寄るように、下から顔を見上げてくる。


「うん。でもまだ結婚をしてないし。私も好きなんだもん」


 ぶっちゃけられて、泣かれてしまった。

 婚約発表からの突然のモテ期? どうすればいいんだ?

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