第4話 前世の自分と、種族の力
火を消して、安心した後。
視界が勝手に切り変わり、俺は宇宙に浮いていた。
地球を見下ろす自分。
「うん? ここは月?」
目線からすると、何かの建物の中に立っていて、地球を見ている。
すぐ後ろから、女性の声が聞こえる。
勝手に蘇ってくる、胸を締め付けられる苦しさ。そして後悔。
「此処が種の発生した星。今から数千万年前に、我々が飛び出した母なる星ね」
ここから随分離れた、隣の銀河。
数十億年後にはこの銀河と再び重なるだろうが、その前には、我々はまた、星を探す旅へと出発をするだろう。
「いまは、干渉するのが禁止をされ、星に降りられないのは残念だが、まあ良い。今はもう、別の種族が隆盛を誇っているようだしな。未熟ながらも、宇宙にも出てきている。気を付けねばならない」
覚えのある会話。最後の思い出。
「そうね。でも、見れば見るほど、我が母星と似ているわ」
横へ彼女がやってくる。その横顔は、哺乳類ではなくは虫類。
だが、体には羽毛が生えて、体を包んでいる。
背中にも、一対の羽。俺の羽はもう二対多い。
「すまないね。せっかくの休暇を、俺の趣味に付き合わせて」
そうだ。これが間違いだった、そうでなければ…… きっと……
「いいのよ。私も見てみたかったし」
彼女の右腕が、俺の背中を通り過ぎ右肩へ回る。そして、彼女の頭が俺の肩へ乗ってくる。
そうして、幸せな時間を過ごしたその帰り。
俺と彼女は、事故に遭い。太陽系内で死んでしまった。
そのせいか、此方の輪廻に捕まったようだな。
そして今。
前世の記憶とともに、力の使い方を思いだした。
宇宙に存在する高次元のエネルギー。それを用いて物理現象に干渉もできる。
むろん。精神感応も使える。
まあチートだ。
思い出せば、幾多の文献に、我々のことが記されている。
誰かが、原住民と接触をしたのだろう。
『天使』
そういう呼び名で、記されている。
「竜兄ちゃん。大丈夫?」
気がつけば、両の頬を、パシパシとたたかれている。
「起きないと、チューするわよ。大人のやつ。ベロを入れるし。その、絡ませるわよ。良いわね」
そう言って、顔が近付いてくる。
「良いわけ無いだろ」
近寄ってくる顔を、両手で挟む。
むにょんと、唇が尖った変な顔ができあがった。
「をあっ、おひひゃ?」
ピヨピヨと唇が動く。
そのタイミングで、彩が帰ってくる。
妹である、葉月のほっぺを、掌で挟んでいる俺。
葉月の口びるは、にゅっと突き出されている。
見方によれば、俺がキスを迫っているように見える。
だが、言わなくても、話は通じていたようだ。
「葉月。またあんた、竜ちゃんにキスをしたわね」
「しちゃよぉ。わりゅい?」
「悪い。っ竜ちゃんは、お姉ちゃんの婚約者なの」
「まだ、けっこんもしてないじゃにゃい。いいにゃん」
「もう」
そう言って、彩は俺との間に割り込む。
そして、顔が近付いてきたと思ったら、後ろからほっぺに向けて手が伸びてくる。
彩のほっぺがむにゅんとなり、唇がピヨピヨになる。
どうせさっき、葉月にされたし、良いか。
そう思い、ピヨピヨ口びるに、チュッとキスをしてみる。
すると、一瞬、彩の目が見開かれ、その後、グリンと目が裏返る。
「あれっ?」
彩の鼻から、たらーと血が出る。
「ちょい待ち。葉月。彩が気を失ったし、鼻血が出た」
「えっ。あっ本当だ。お姉ちゃんて初めてだったの?」
言われて思い出す。
「あっ、そうだな」
「ほへぇ。思いが強いと、こんなになっちゃうんだ。愛ってすごい。胸も先っちょギンギンだし。んーうわ。下も大洪水」
「えっ」
驚きそっちを見ると、葉月に手で制止されて、あっちへ行けをされる。
「あっ。竜兄ちゃんは気にしなくていいから。うーんと、帰っていいよ。おり○の用のシートで間に合うかな?」
そう言いながら、ごそごそし始めた。なんとなく、いない方が良さそうなので、帰ることにしたよ。
家へ帰りながら思い出す。
見たもの、聞いたもの。空気感まで思い出せる。
月からの帰り。帰りの航路での事故。
超高速の隕石。
完全なる意識外。宇宙船のアラートすら、反応する暇も無かった。
強すぎた力は、近くにあった木星の核にまで到達したはずだ。
そして、思い出した力。
少し、求める。
それだけで、大地が揺れる。
「うわっ。これ、この肉体じゃ、体が持たないな」
低位の、レベルの低い体。
向こうでは、星全体で高位エネルギーの回収システムが動いていたから、使える力に制限が掛かっていたんだ。
この力をフルに使うと、きっとこの星が持たない。
昔在った、反応炉の事故。
この星であった、古の事故。
あの時は、大陸の一部が吹っ飛んだはず。
それが原因で、我々は、この星を出ることにした。
巻き上がった砂達は、大気圏を覆った。
我々の種族にとって、致命的な厳冬期。
その時俺は、力に驚き。特に気にしていなかったが、集めたエネルギーを解放するとき、精神波が乗っていたこと。
それを受けた、人々にわずかに干渉をした。
天使伝説に付随する、キューピット。
その力。多くは問題ないレベルだが、元から俺に恋愛の情があれば、話は変わる。
「あれは、佐藤くん。今頃学校の帰り? 塾。それとも…… 婚約したって言っていたから、デートの帰り?」
もう少し早く、勇気を出していれば、状況は違ったのかしら?
そう考える女の子が一人。近くでその波動を浴びた。
同じクラス。彩と仲良し。
諦めていた心に、熱い火がともる。
堂元まどか。
基本はおとなしく、分別のつく女の子。
身長は、少し彩より高い一六三センチ。なのに体重は二キロ軽い。
そして、くびれたウエストの上に、トップ九〇。七五Dのバストが乗る。
性格は、のんびりで常春と言われている。
今回も、婚約の発表があり、すぐに、彩っていい子だし、ずっと思っていたんだもの。仕方ないよね。そう自身を納得させて、ごまかしていた。
だがしかし、熱い精神波動は、その心を震わせた。
まあむろん。影響を受けたと言っても、見かけたからと言って後ろを追いかけ、竜司を襲うなんてことが、出来るまでは狂ってはいない。
ただし。
「佐藤君。あなたが好き」
姿を見て、そんな言葉が口をついて出るくらいには、エネルギーを得て、心が励起状態となったようだ。
物質は、エネルギーを受けると、エネルギー準位というものが上がる。
LEDなどは、そのエネルギーを放出し、安定状態に戻るときに光を出すんだよ。
この現象を、ルミネッセンスと言う。
他にも、蛍光物質とか夜光塗料とかわかりやすいね。
さて、物質と違い、人の心の場合は?
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