第2話 理不尽の前話
次の日朝起きたらまだ雨村先輩は俺のベッドの上で気持ちよさそうに寝ていた。
どれだけ酔ってるんだよ、と一瞬呆れながらも俺は固い床から立ち上がりキッチンに立つ。
「いてて」
やはり固い床で寝たのは間違いだったな。押し入れに毛布あるんだから面倒くさがらずに出せばよかった。
おかげさまで身体中が痛くて仕方ない。
先輩を床に寝させるわけにはいかないからベッドは選択肢になかったわけだけど、改めてベッドのありがたみを感じた気がする。今日からは感謝して寝るとしようか。
俺は自炊をするタイプの男だ。未婚の男なんて大体カップラーメンしか食べないようなイメージがあるだろうが俺は違う。
昔から母親に一人暮らしをし始めたら絶対に自炊しなさいと散々叩き込まれたのもあって自炊が日常になっているのだ。
我ながら料理の腕には自信がある。
せっかくだから今日は先輩に朝ご飯をご馳走させていただこう。もし口にあえば嬉しいなと思う。
先輩に褒められたら今日一日仕事に熱心出来そうだ。社長にいびられても絶えて見せるさ。
先輩にご馳走するとなるとやっぱり得意な料理で勝負したい。得意な料理とは言っても朝ご飯だから軽いものにしないといけない。
だとしたら平凡にみそ汁とサラダがいいだろう。
なんか料理が出来ない人でも美味しく作れる料理を振舞ったところで果たして良い印象を与えられるのかいささか疑問だ。
「まあ、いいか…」
しばらくして朝食が完成間近な時、部屋の奥の方から物音が聞こえてきた。どうやら先輩が目を覚ましたようである。
起きたら知らない家だったなんて驚くだろうから、説明をしに行かないと。変なこと疑われたら何もしていないと言おう。
実際なにもしてないわけだし何も問題はないわけだし。
「先輩、おはようございます」
「えっ、柊太くん?ここはどこなの?なんで私はここにいるの?」
何も覚えてないんだな。それなら昨日の告白のことも絶対に聞かれていないだろう。先輩にバレないように安堵の息を吐くと俺は先輩に話の流れを簡単に説明した。
「そんなことになっていたの?わざわざありがとうね、柊太君」
「いえ、先輩にはお世話になってますし逆にすみません。先輩のような美人を俺みたいな男の家に連れてきてしまって。彼氏さんとかいたら申し訳が…」
「彼氏はいないから安心して大丈夫よ。それと…その発言はいらぬ疑惑を生むわよ」
「疑惑?」
「分かってないのね…さすがは鈍感の極みくん」
「え、なんて言いました?」
「いいえ、なんでもないわ」
先輩は何か言っていた気もするが気のせいだったのだろう。雨村先輩は物事をはっきりと発言する性格だ。
疑うなんて失礼にあたる。
「今ご飯作ってますので少し待っててください。すぐ準備します」
「そうなの?ありがとう。それと一つ質問良いかしら?」
「え、あ、どうぞ」
先輩から俺に質問なんて珍しい。
完璧な雨村先輩は人に話を聞かずとも場の空気を読んで行動できるタイプなのだ。そんな人からの質問と聞いて、俺は正体不明の高揚感に襲われていた。
「このベッドは柊太くんが寝た後なのかしら?」
なんだベッドのことか。
親しくしているとはいえ彼氏でもない男のベッドの上で寝たとなると嫌な気分になるだろうからな。
「安心してください。昨日洗濯したばっかりなので」
「そうなの…」
悲しそうな表情を浮かべる雨村先輩。いや、安心した顔なのかな。
俺は先輩をリビングに案内した後、調理を終わらせて先輩の前に並べていく。みそ汁とサラダに加えて身体にいいメカブをお供に配膳させてもらった。
喜んでもらえるといいのだが…。
酔った先輩をお持ち帰りし襲わなかった結果、次の日逆ギレされました。 minachi.湊近 @kaerubo3452
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