01_09__旧主人公と新主人公③
●【旧主人公】宇治上樹
近年では珍しく、花崎高校は屋上のドアが解放されている。
噂によると、校舎の設計者が『青春には屋上が必要だ!』と力説したそうだ。
物珍しさもあって、入学当初は多くの一年生が出入りしていたらしい。
「でも、さすがに放課後は誰もいないな」
俺は心拍数の上がった胸を抑え、小さく息を吐いた。
「今から話す内容は極秘中の極秘だ。決して誰にも教えてはいけない」
俺の言葉に、隆峰がごくりと喉を鳴らした。
「繰り返しになるが、デラモテールを止めるにはかなりの危険が伴う。リアリティショーはいずれ終わりがやって来るから、危険な賭けをするくらいなら、やり過ごすほうが無難だと俺は考えている。それでも、本当にやるのか?」
「はい!」
隆峰の決意は固いか。
「分かった。やることは単純だから気負わなくていい」
俺はフェンスの近くまで歩き、金網の向こうを指さした。
「さぁ、飛べ」
「…………………………え?」
おいおい、難聴系主人公にクラスチェンジしたのかよ。
「飛・び・降・り・ろ」
聞き逃されないよう区切りながら言うと、隆峰は見捨てられた仔犬のような表情で見上げてきた。
「宇治上さんは、僕のこと、嫌いですか?」
「嫌いだ」
「即答!?」
イケメンはすべからくフツメンの
だが、もちろん死ねとまでは思ってない。
説明が足りていないのは承知しているが、早とちりしないでほしい。
「先日話した通り、デラモテールは主人公の体に刺さっている。普段は見ることも触ることも出来ない代物だが、魂が肉体から離れている時なら話は別だ。俺の場合は、交通事故で死にかけた時にへし折った」
「まさかの物理的解決!」
「隆峰も同じように矢を破壊すれば、主人公の役目から解放されるはずだ。だから、こう、丁度いい感じに死にかけてくれ」
「丁度いい感じに死にかけるって何ですか!?」
生きるか死ぬかのぎりぎりラインです。
俺みたいに魂が死んだと勘違いして、抜け出すケースも
「あと、もし失敗しても俺に
「極秘中の極秘ってそういう意味ですか!?」
当たり前だろ。俺の責任にされてたまるか。
俺は小刻みに震えだした隆峰の肩を力強く叩いた。
「安心しろ。失敗しても骨は拾ってやる」
「それリアルに火葬場で、ですよね!? この状況だと恐怖しか感じないですけど!?」
俺は耳をふさいで隆峰の全力ツッコミを聞き流した。
「……まぁ、ほとんど冗談だ」
「へ? 冗談?」
「話した内容に嘘はない。だが、狙って死にかけるのはまず不可能だから、
「うっ……それは、はい」
隆峰はがっくりと
もしもチャレンジしようとしたら、問答無用で心療内科にぶち込まなければならないところだった。
「隆峰は一人で抱え込みすぎだ。ショーの登場人物に選ばれたという意味で、主人公もヒロインも立場は変わらない。もしかしたらヒロインありきで隆峰が主人公に選ばれた可能性だってある。もし自分が巻き込まれた側だと分かったら、お前は彼女達を恨むのか?」
「いえ! 決してそんなことは――」
「それなら、隆峰も一人で決着をつけようとするな。お前だけが何もかも背負い込むのは、彼女たちだって望まないだろ」
「…………もしかして、僕を心配してくれたんですか?」
心配というか、説明役を務めた手前、下手に思い詰められても寝覚めが悪いだけだ。
ツンデレっぽくなるので、口にはしないけども。
それに、俺だって綺麗なだけの正論を言っている自覚はある。
中学時代に俺が同じ言葉を掛けられたとしても、素直には頷けなかったはずだ。
だが、それでも誰かが言わなければならない気がした。
「しんどくなったら、ヒロインたちと距離をとればいい。説明すれば分かってくれるだろ。逃げ道はあるから、自ら選択肢を狭めて袋小路に迷い込むなよ」
「……ありがとう、ございます」
隆峰の顔が泣き笑いのようにくしゃりと歪んだ。
思っていたよりも気苦労を溜め込んでいるらしい。
県外から引っ越してきて、慣れない環境で謎現象に巻き込まれたのだから当然か。
隠れていた素の部分を見てしまうと、他人事とはいえ思うところはある。
……だから、あまり踏み込みたくなかったんだよなぁ。
「今後もヒロインたちと過ごしていくつもりなら、俺たちが当時注意していたことを教えてもいい」
「え、本当ですか? 先日は気乗りしない様子だったのに」
「コッチにも色々と事情があってな……」
主人公が集まる件はまだ伏せておこう。
残り二人が転校してくるまで、一ヵ月ほど猶予があるので、無駄に焦らせても仕方ない。
クレアも隆峰たちをサポートするために転校してくるそうだし、状況を見つつ明かせばいい。
「もちろん、俺の経験が役に立つかは未知数だし、気が進まないなら断ってくれても構わんけど」
「いえ、助かります! ぜひよろしくお願いします!」
「お、おぉ」
凄い勢いで頭を下げられ、思わず一歩引いた。
次に顔を上げた時には人懐っこい笑みが浮かんでおり、つられて苦笑いが漏れる。
「……
風にはためく校章旗を見ながら、俺は投げやり気味にぼやいた。
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