01_08__旧主人公と新主人公②
〇【新主人公】隆峰宙
――『隠れて悪さをしても、神様は全てを見ている』
子供の頃に聞かされた言葉が、僕の頭の中でグルグルと回り続けている。
神様が僕の生活を見ているなんて簡単には信じられないけど、悪魔の証明みたいに全否定も出来ないので、もやもやする。
……少なくとも、おかしな偶然が立て続けに起きていることだけは間違いない。
話の真偽はいったん脇に置いて、今は頻発するトラブルに集中すべきかも――
「おーい、隆峰君。委員会は終わったぞー」
「え、あ。すいません!」
放課後の美化委員会で窓の外を眺めていたら、顧問の
慌てて振り向くと、綺麗な笑顔が近くにあってドキリとする。
スタイルのいい長身に、派手な顔立ちと無造作にまとめられたモカブラウンのシニヨン。
モデルさんも顔負けの美貌に、多くの女子生徒が『教師にしておくにはもったいない!』と嘆いているとか、いないとか。
「ここ数日ぼんやりしているようだね。顔のガーゼも随分痛々しそうじゃないか」
「休み時間に転んじゃいまして……。でも大きめのテープで覆っているだけで、ただの擦り傷です」
「それなら良かった。若いから傷の治りは早いだろうけど、取り返しのつかない怪我をしないようにね」
「はい。気を付けます」
気を付けるだけでは、どうにもなっていないのが現状だけど……。
「おい。隆峰に絡んでないで、さっさと補習に行こうぜ」
クラスメイトの
赤羽先生はオーバーなリアクションで後ろに下がる。
「そう嚙みつかなくても、君の大事な隆峰君をとったりしないよ?」
「ハ、ハァァ!? そんな心配はしてねぇっつうの! そもそもウチのじゃねぇから!」
……こういう反応をされた時、どんな顔をしているべきか正解を教えてほしい。
僕は話題を逸らすために、気になったことを訪ねた。
「この時期に補習授業があるの?」
花崎高校に合格したのは奇跡だと自ら豪語する更科さんは、最初の実力テストが壊滅的だったらしい。
でも、その再試験はゴールデンウイークの前に合格したと聞いていた。
「再試は丸暗記で突破したから中身が伴っていないらしい。中間試験も近いし、個人的に勉強を見てあげているのさ」
「なんでアンタが答えるんだっつうの! おら、さっさと行こうぜ」
「おやおや、乱暴な言い方だね。補習は君から言い出したことで、私に付き合う義務はないんだよ? このペースで赤点をとり続けたら、進級が危うくなるかもしれないけどね」
「ぐっ……。ご指導、よろしく、お願いしま、す」
壊れかけの機械みたいな更科さんを見て、赤羽先生が苦笑いした。
「意地悪を言ってごめんよ。私も君と二年生に上がれないのは寂しい。皆で一緒に進級できるように頑張ろうじゃないか」
陽気に背中を叩く赤羽先生と、
華のある二人が立ち去ると、教室が急に静かになった気がした。
「あ!」
そのまま廊下をボーっと眺めていたら、教室の前を宇治上さんが通り過ぎた。
僕は慌てて荷物をまとめて、後ろを追いかける。
「宇治上さん、今から帰りですか?」
「おぉ、委員会で少し遅れてな――って、その頬の怪我は大丈夫か?」
宇治上さんにも心配されてしまった。
やっぱりこのテーピングは大袈裟かもしれない。
「あはは……。軽い擦り傷なので気にしないでください」
「相変わらずイベントは起き続けているみたいだな」
「はい。神社でも伺ったように、特に変化はないみたいです」
僕が苦笑い混じりに答えると、宇治上さんは少し考えてから口を開いた。
「お節介かもしれないが、イベントを減らしたいなら、手っ取り早い方法が一つあるぞ」
「本当ですか!?」
「ああ。ヒロインらしき女子に極力近づかなければいい。意識して避け合っていれば、デラモテールに余計な労力を使わせられるから、イベントの数も少しは減らせるはずだ」
「うっ、…………えっと、実は以前、ヒロインらしき同級生に同じ提案をしたことがあるんです」
当時はリアリティショーについて知らなかったものの、僕の周りでしか事故は起きていなかったので、少しだけ距離を置いてみることを提案してみた。
「そしたら彼女たちは、その、『折角友達になれたのに、会って話せないのは寂しい』と言ってくれまして……」
恐るおそる視線を上げると、宇治上さんはとっても気まずそうな顔をしていた。
「はぁ……。ヒロイン達はその、随分と隆峰に惚れ込んでいるんだな」
「いいいいえ! べ別にここ告白とかはされていませんよ!」
「お、おぉ……」
しまった。勢い込んでドン引きされてしまった。
もう耳まで赤くなっている気がする……。
高校生にもなって、こんなにも取り乱すなんて情けない。
「ヒロインかもしれない方たちは僕にとっても尊敬できる素敵な女性なんです。だから、今はイベントを避けるために疎遠になるよりは、別の解決策を見つけたいと考えています」
「そうか……。それなら、普段から地道に対策を行っていくしかないだろうな。一応、デラモテールを停止させる方法もあるが――」
「え!? そんな方法があるんですか!?」
再び詰め寄ってしまい、宇治上さんが目を丸くした。
「言っておくが、かなり危険な方法だぞ。裏技じみたやり方だし、隆峰が一人でリスクを背負う羽目になる。かなりの苦痛を伴う割には、失敗する確率だって高い」
告げられた言葉に誇張の気配はなく、少し怯んだ。けれど、
「ぜひ試してみたいです! 僕が主人公に選ばれてしまったせいで、彼女達には迷惑を掛けているんです。多少のリスクで尻込みするわけにはいきません」
「そう言われてもなぁ……」
「お願いします!」
深く頭を下げると、小さな溜息が聞こえてきた。
「分かった。それじゃあ
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