4、ダメ人間と世話係

「白神さーん!家事代行サービスの者です!」


「あ…忘れてた。そういえば家事代行の人が来る日だった…」


氷華は生活能力が全く無いのをみた彼女の叔父が家事代行を頼んでいるのであった。


「少し待ってください。今開けます」


ガチャリとドアから氷華は顔を覗かせた。家事代行の三井の顔が見える。その横には見慣れない人間が立っている。

「どうぞ入ってください。それで三井さん後ろの方はどちら様ですか?」


「あぁこの子ねぇ最近入った子なんだけど今見習いで私と一緒に訪問させてもらってるの」


「そうなんですか。早く一人前になれるといいですね私はこの家に住んでいる白神です。」


「はっはい!がんばります!毱愛美十五歳です!今年から高校生になります!よろしくお願いします!」


「じゃあ早速始めちゃいましょうか♪」



「わかりました。では今日もいつも通り作り置きと掃除をよろしくお願いします」


「うんうん了解っと?これはまた…一週間でこんなにも散らかしたのねぇ。大変そうだわぁ」


「えっと…すごいですね…なんというか足の踏み場も無い?」


「返す言葉もありません…大変だとは思いますが頑張ってください」


「まずは廊下から片付けるわね。衣類は洗濯機に入れて洗濯、愛美ちゃんは台所で皿洗いをお願いできるかしら」


「はい!分かりました!白神さん台所お借りしますね」


家に入ってからすぐ、テキパキと掃除が始まった。当の本人である氷華は自室のクッションの上でくつろいでいる。その後寝落ちしてしまってクッションの上で丸くなっている氷華が発見されるのであった。


氷華が身を覚ますと台所からいい匂いがしている。


「氷華ちゃん起きたのねぇ。ちょうどマドレーヌができたところよ〜出来立てのを食べてみない?」


「いただきます。せっかくですのでお二人も一緒にどうぞ」


「あらいいの?じゃあ愛美ちゃんそこは置いといて一度休憩を挟みましょう」


「分かりました!掃除ってこんなにも時間がかかるものだったのですね…」


「氷華ちゃんは特別よ〜他のお客さんはここまでじゃ無いわよ」


「うっ……普通に生活しているだけです。まるで掃除がまったくできないダメ人間のように言わないください」


「普通に生活できていたらこんなふうにはならないわよ…それにしてもまた少し細くなった?ちゃんとご飯食べてるの?毎日ゼリー飲料やインスタント食品ばかり食べてるんじゃ無いの?栄養やカロリーだけ摂れてても、そういうのはあくまで補助なんだから」


「そうですね…善処します…」


「準備できました〜飲み物は紅茶で大丈夫ですか?」


「はい大丈夫です。ありがとうございます」


「じゃあ食べましょうか!」


「うん〜美味しいわ〜愛美ちゃんいい奥さんになるわよ〜」


「うん美味しいです。甘さ控えめでとても食べやすいです」


「ありがとうございます!そう言っていただけて作った甲斐がありました」


「そういえば氷華ちゃんもうすぐここの担当を愛美ちゃんに代わってもらおうと思うのだけれど、うまくやれそう?」


「どういうことですか。規則ではこちら側から変更しない限り担当は変わらないはずでは?」


「それがね〜おばちゃんもうすぐ辞めるのよ〜初孫がね最近生まれたんだけど息子夫婦が共働きで育児の時間が取れないから孫の世話をしてくれないかって誘われててね〜年齢的にも辞めどきかな〜ってね」


「そうなのですか…それなら仕方ないですね。長い間ありがとうございました。しかし後任が毱さんなのはなぜですか」


「ああ〜それはね高校生は防犯の観点から信用できる同性のお宅一つの専属になるように規則で決まっててね、氷華ちゃんなら女の子だし信用があるし同じ歳だしでちょうど良かったのよ〜愛美ちゃんなら家事もできるし優しいからピッタリだと思ってね♪」


「白神さんって同い年だったんですか!?小さくて可愛らしいのでもう少し歳下かと思ってました…」


「改めて白神氷華です。春から秀英学園に通います。これからよろしくお願いします」


「こちらこそ毱愛美です!私も春から秀英学園に通うんです!見かけたら声をかけて下さい!」


「同じ学校なんだ…あんまり行かないとは思うけどよろしくお願いします」


「じゃあ親交も深まったことだし掃除再開するわよー!最後なんだしピッカピカにしてやるわ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お疲れ様でした。三井さんこれどうぞ」


「これは…!ゴールデンティップスじゃない!これすごく高いやつじゃないの!」


「元々家にあった物なので気にしないでください。こんなものしかなくて申し訳ないですが…」


「いいのよ!贈り物は気持ちが感じられればどんな物でも嬉しいのよ♪これでお別れだけれど家はこの近くだからまた会えるかもしれないわね!今までありがとうね!愛美ちゃん帰りましょうか!」


去っていく二人の後ろ姿を氷華は少し寂しそうに、急に心細くなったかのように身を縮めて見送った。


「信用できる数少ない一人だったんだけどな…時間は一瞬で過ぎ去って行くんだよね…でもそれと同時に新しい出会いが待ってることもある。今日みたいに。だからこそ一日一日を大切にしていかないと」


「今日の夜ご飯は作ってくれたおかずを食べてまた叱られないようにしないといけないな…」

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