第57話 山田の末路2

「さて……では改めて私の方から山田君のご両親をお呼び立てするにまでなっている経緯をご説明致します。

 1年A組の女子生徒に対し山田君が告白。

 それを女子生徒が交際は出来ないと断り、それでも諦めきれなかった山田君は女子生徒が1人になる機会を狙い、その度に交際や身体の関係を迫るといったストーカー行為を繰り返していたようです。

 そればかりか家にまで着いて行こうとしていたとの報告も受けています。

 学校にいる間はクラスの女子生徒達がガードしていた為、山田君は近付けなかったようです。


 そして今日、女子生徒がクラスメイトの男子生徒と仲睦まじく教室内に入ってきたことで山田君は怒り、交際しているとの虚偽発言をし、それを聞いた女子生徒達が激怒した為に口論に発展。

 尚、女子生徒と仲睦まじくしていた男子生徒とも口論に発展しています。

 口論の際に山田君はクラスメイト達にご両親の権力を用いて脅そうとまでしていた…。


 生徒同士の口論だけなら担任である冴島教諭が仲裁すれば済んだ話だったのですが、被害者家族が被害届を提出し受理されたことを受け、ご両親にも来てもらわなければならない事態となったのです」


 理事長が語った経緯を聞いた山田の父親の郁人いくとは理事長達に再度頭を下げてから隣に座る武史に向かって言う。


「まさか息子がそこまでしていたとは…。

 武史…私の権力をお前の為に使うつもりは一切ない。

 権力を使って人を脅すことなどあってはならないことだと私は再三に渡りお前に言い聞かせていただろうがっ!!

 それを自分が惚れた女性を手に入れる為だけに用いるなどとは……恥を知れっ!!

 私は今、お前の親として恥ずかしいよ…。

 世に出しても恥ずかしくないよう教育してきたつもりだったが……お前は何も理解していなかったのだな…」


「…………っ…!」


 そこまで言って一呼吸した後、再び武史の父親である郁人が口を開く。


「なぁ武史……お前の愚かな行いのせいで母さんは泣いているんだぞ?

 お前のせいで何人もの人間に多大な迷惑をかけてるんだぞ?

 この事態を招いているのは他ならぬお前だ、武史。

 それを…お前は理解出来ているのか?

 理解出来てないからそうやって悔しげな表情で歯軋りしてるのだろうな…。

 私や母さんの思いはお前に一切伝わっていなかったのだな…。

 同級生と喧嘩したり恋愛したりといった青春は今だけしか送れないんだぞ?

 それをお前は……お前は自らの愚かな行いによって送れなくしてしまったのだぞ?

 武史、お前はもう二度と取り戻すことは出来なくしてしまったんだよ…。


 だから再度言う……私は自身が持つ権力をお前の為に使うことはない。

 お前を……今この時を持って山田家から勘当する」


 悩みに悩み抜いた表情でそう言葉を締め括った武史の父親である郁人。

 だけどそんな郁人の言葉を聞いた武史は俯かせていた顔を上げ、父親の方を見て言う。

 因みにこの時、密かに理事長の指示を受けた冴島が生徒指導室から退出して何処かへ向かったところだったりする。


「なっ…!? なんでそんなことを言うんだよ父さんっ!!

 俺を勘当するなんて何かの冗談だろ…?

 冗談で言ったんだよな…?

 この場ではそう言ってて後から俺の為に動くつもりなんだろ?

 父さんの力でなんとでも出来るんだからさ…!

 だから俺の伴侶に相応しい水無月を父さんの権力を使って物にしてよっ!

 それと俺に逆らうクラスの奴らやこの場にいる理事長達のこともどうにかしてくれよっ!

 後は出された被害届の件もなっ!

 特に俺の女を奪っていった牧野は社会から抹殺してくれ、父さん!

 頼んだよとう……ぶへらっ!」


「もう黙れっ!恥晒しがっ!!

 まだお前は事の重大さを何も理解していないのだな!!

 それ以上喋るなっ!!

 勘当だけに留めようと思ったが……もういいっ!!

 お前とは今をもって親子の縁を切る!絶縁だ!!

 二度と私と母さんの前に現れるなっ!

 もう顔も見たくないっ!!」


 武史の言葉を殴って黙らせた後にそう言った郁人。


「と、父さん……そんな……なん、で…?」


 殴られた衝撃で椅子から転げ落ちて床の上に情けない格好でペタリと座る武史。

 どうして俺は殴られた…? とそんな表情をして殴られた頬を手で抑えながら郁人を見ていた。

 その武史に母親の香苗かなえが震える口で言う。


「なん、で…? ……それさえも理解出来てないのですか…。

 ここまで愚かだとは…。

 はぁ……私もお前には愛想が尽きました。

 もう私を母とは呼ばないで頂戴ね。

 たった今から私と貴方は赤の他人です!

 二度と私達の前に現れないで!!」


 父親である郁人に続いて母親である香苗までもが武史にそう告げた。

 香苗は息子である武史が反省しているようであれば……ここまで言うつもりはなかったのである。

 だけど武史は全く反省していないことが先の発言でよく理解することが出来た。

 だから郁人と同様に武史と完全に決別することにしたのである。


「か、母さんまで……」


「もう赤の他人です!

 母と呼ばないでちょうだい!!」


 武史の情けない言葉をにべもなく足らう香苗。

 もう親子の縁は修復不可能となってしまったのである……武史自らの愚かな行動と言動のせいで。

 これがまだ武史が心の底から反省してさえいれば、まだ違う道があったのかもしれない。

 親子の縁を切られる、という最悪な状況は避けられたはずだ。

 だがそれを……武史自らの手で手放してしまったのである。

 武史に与えられた最後のチャンスを…。

 そして重苦しい空気が漂う生徒指導室のドアをノックしてから1組の男女と1人の男性が入室してくる。

 それは渦中の中心となっている牧野 葵と水無月 未来、それに退出していた1年A組担任の冴島であった。



◇◆◇◆◇



~葵・未来side~


「つ、疲れた……」


「もう帰ってもいいわよね……」


 それだけを言って机に突っ伏す葵と未来。

 2人は自習となった所為でクラスメイト達に囲まれ、絶え間なく続く質問攻めに遭っていたのである。

 そのせいで疲れ切ってしまい、机に突っ伏す他ない事態に陥っていたのだった。


「質問攻めで疲れきってるところ悪いんだが……牧野と水無月は一緒に来てくれ。

 理事長が2人を呼んでいるからな」


 机に突っ伏す2人のとこへやってきた担任の冴島が申し訳なさそうな表情をしながらそう口にした。


「へ? 分かりました」


「わ、分かりました!」


 葵と未来は顔を見合せつつも重い腰を上げて席を立ち、冴島と共に生徒指導室へと向かったのだった。

 図らずも2人は2時限目の授業をも受けることが出来ないことが確定した瞬間でもあった。



───────────────────────


 気付くのが遅れましたが、ギフトありがとうございます!

 これからも執筆・更新を改めて頑張ろう!と思う事が出来ました。

 今後ともご愛読・応援をよろしくお願い致します!


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