第52話 恋人との登校・後編
周囲からの様々な視線に晒される中、2人は寄り添い合いながら清水ヶ丘高校に向かって歩く。
その様はまるで長年連れ添った熟年夫婦を連想させていた。
片やイケメン、片や美少女。
そんな2人が衆人観衆の注目の的となるのは必然のことである。
だがその渦中の2人は周りの視線もなんのその、といった感じで自分たち2人だけの世界に入っている。
それでいて周囲に気を配るのも忘れていない為、2人が他者にぶつかる等といったことは起こっていなかったりもする。
「ねぇ葵? 私たち2人のことを見たクラスメイト達がどんな反応をするのか、今から楽しみね♪」
「まぁ、そうだな。
特に”氷麗で大の男嫌い”として有名なはずの未来に彼氏が出来た…ってことにビックリすると思うよ。
いや、ビックリだけの反応では済まないかもしれないな」
「確かに葵の言う通りかもね。
特にクラス男子達からは恨みの籠った視線が葵に飛ぶかもしれないわね。
そして葵なんかより俺と付き合ってくれ! なんて言ってくる人達もいそうね。
私は葵以外の男なんて眼中にないから。
と言うよりも葵と家族親戚以外の男は今でも大っ嫌いなのは変わっていないわ。
いや、もう変わることはないのかもしれないわね…」
こう言うように未来は筋金入りの男嫌いだ。
それは俺の婚約者で同棲している今でも変わっていない。
それに加えて例のアレがあるから尚更だろう。
だから未来が俺に対して心を開いているのは奇跡に近いことであると言っても過言じゃないと思う。
「うん、本当にあの時に未来を助けてよかったと思ってるよ。
あの時の俺の行動は何一つ間違っちゃいないんだって、改めてそう思ってる。
じゃなければ今こうして俺と未来が婚約する、なんて将来はなかっただろうしね」
「それ、私も今思っていたことよ。
それで思い出したのだけど、あの時に私を連れ去ろうとしていた大学生のチャラ男なんだけどね。
彼、複数の余罪が見つかって逮捕された挙句に大学も退学になったみたいよ。
ほら、これよ」
ちょうどあの時の出来事を俺と話しながらスマホを操作していた未来が画面を俺に見せてきた。
その画面にはあの時に未来に絡んでいた男についてのネット記事が表示されていた。
【先週の金曜日に迷惑防止条例違反の容疑で逮捕・送検されたのは、都内にある○○大学に通う教育学部に所属する2年の
西条容疑者は同日午後、柴犬公広場にて女子高校生の少女に対してしつこく絡んだ上、未成年と知っていながら何処かに連れ去ろうとしていた模様。
多数の目撃者からの通報によって駆け付けた警察官によりその場で現行犯逮捕され、渋谷警察署へ連行された模様。
その後の警察の取り調べにより西条容疑者には複数の余罪があることが分かり、迷惑防止条例違反から強制性交罪以下複数の罪を犯したとして再逮捕となりました。
尚、逮捕された日と同日に西条容疑者が通っていた大学側が公式ホームページ・SNS他へ謝罪声明文を異例の速さで発表され、その直後に西条容疑者が退学処分となることも処分に至った経緯と共に公表された模様。
ここまでの内容を記事にしていてなんですが……私は同じ女性として憤りを感じていました。
それよりも私は今、被害に遭われた女子高校生をどこからともなく颯爽と現れて救った少年には心からの賞賛を送りたい! …そう思っています!
出来ればインタビューしたいので、下記の連絡先までご連絡をお願い致します!
本当に連絡待ってますからね!】
ここまでで記事内容は終わっていた。
だが最後の方の文章を見て”絶対に連絡なんてするもんか!”と思ったのは内緒だ。
インタビューを受けた日には……今話題のアニメの原作者が俺であることまでバレる恐れもある。
何れは公表するつもりだが、今はまだ非公表にすべきであると編集担当さんからも釘を刺されている為、尚更インタビューを受けるわけにはいかないのである。
「……こういう男がいるから世の中の女性達から敬遠されることになるんだよ。
まぁ、世の中の男達の全てがこの人と同類……というわけでもないのだろうけどね。
それでも同じ男として申し訳ない気持ちになってしまうよ……何も悪いことをしていなくとも、ね」
「葵がそんなことをする人じゃないって分かってるわ。
もし葵が道を外しかけたその時は……私が必ず正しい道に戻して見せるわ!」
「ああ、その時は頼むな!」
改めて未来のような素晴らしい女性が傍にいてくれることに、俺は幸せ者であると実感する。
そんな俺の事を第一に考えてくれる彼女を、これからも大切にしていこうと誓った。
それからも会話しながら歩き、渋谷公広場内を進んでいた時のことだった。
「お~い、牧野~!」
後方から俺の事を呼ぶ声が聞こえたので、後ろを向く。
そしたらこっちに手を振りながら駆け寄ってきている男子がいた。
隣にいた未来もその存在を認識したらしくあからさまに顔を
それを見た俺は未来に言う。
「あ~…アイツは放置しても問題ないから学校に向かおう」
これだけ聞くとなんて冷たい男だ…と思われがちだが、今はこの選択が正しいと言っておく。
その理由は何れまた語ろうと思う。
「葵がそう言うのなら、行きましょ♪」
未来の返事を聞いた後、2人揃って前に向き直ってから再び学校を目指して歩みを再開させる。
いや、先程よりも歩く速度を上げて、と言った方が正しいかもしれない。
「チッ……速度を上げてきたか。
追いつかれる前に俺たちも急ごうw」
「くすっ…w 分かったわ♪」
互いに頷きあった後、密着したままの状態で俺と未来は走り出した。
追跡者?との距離を敢えて引き離すかのように。
そして清水ヶ丘高校の正門前に辿り着いた所で、俺と未来は遂に追跡者?w に追い付かれるのであった。
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