第49話 母さん!早く本題に入ってくれよ!!
本文の一部を修正しました(令和6年3月9日)
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スマホの向こう側では一体何が起こったのかを把握出来ずに顔を見合わせる俺と未来。
「ねぇ葵…。何かグキリッ、という嫌な音とガシャーンッっていう音がスマホから聞こえてきたのだけど…」
「ああ、確かに聞こえたな」
「一体、向こうでは何が起こったっていうの?!
それにあの女性の声は、一体誰なのよ?!」
事態が分からずに混乱した様子の未来。
まぁ、混乱する気持ちは分からなくもない。
唐突に何かが折れた音と何かが割れた音が聞こえてきたのだから。
それと、謎?の女性の声が入ったのだから尚更なことだ。
だが俺は声の正体については心当たりがあった。
……というよりも最近まで直に聞いてた声だから。
片や混乱中、片や呆れ中、という状態になってると、スマホからこちらを呼び掛ける女性の声が俺の耳に聞こえてくる。
『やっほ~葵ちゃ~ん♪
私の声、聞こえてる~?
聞こえてたら返事して~!』
その”葵ちゃん”呼びを止めろ!と溜め息を吐きつつ俺は口を開く。
「はぁ…聞こえてるからその呼び方はやめろ。
高校生にもなってその呼び方は恥ずいんだよ!
そもそもその呼び方は二度としないと約束した筈だぞ」
『い・や・よ♡
そもそもそんな約束をした覚えは”ママ”の記憶にはございませんですことよ♪』
それを聞いた瞬間に俺の中にドス黒い感情が流れ始めるのが分かった。
「記憶にないとか訳の分からんことを言うなよ。
して、その口調は合わないからやめとけよ」
『あ~、やっぱり合ってなかったか~w
言っていて実はそうじゃないかと思ってたんだよねぇ~w』
「はぁ…だったら最初からそんな口調で話すなよ」
未来を置いてけぼりにして馬鹿なやり取りをする俺たち。
そこへ混乱から大分回復した未来が口を挟んでくる。
「葵、随分と楽しそうに話してるわね。
混乱してた私を置いてけぼりにして、ね。
だから大分回復してきたから私も混ぜてよね!
私だけを仲間外れにしないでよね、葵」
頬をプクゥッと膨らませて不満げな声でそう口にした未来。
その声に通話相手の女性が反応した声を上げる。
『あれ? 今の声って、もしかしてもしかしなくとも未来ちゃん?
んんっ……コホン。
私としたことが挨拶もせずに失礼致しました。
葵の母の牧野
いつも葵がお世話になってます。
また、この度は最愛の息子の葵と婚約して頂きありがとうございます。
未来さん、今後とも家族として末永くよろしくお願い致しますね。
それと機会があったその時は直接お話しましょうね♪』
急に咳払いをしたかと思えば丁寧な挨拶をし始める母さん。
先程までのお馬鹿な話し方とは180°違う話し方をする母さんに俺はヤレヤレといった感じで呆れる。
それとスピーカーモードにしていた為、母さんの凛とした声が部屋に響き渡った。
それに対して緊張した面持ちで未来も母さんに挨拶を返す。
「葵さんのお義母様とは露知らず、挨拶もせずに失礼致しました!
改めまして今回、葵さんと婚約することになりました水無月 未来と申します。
こちらこそ末永くよろしくお願い致します。
そしてその機会があった際は是非お願い致します!」
流石に母さん相手に俺を呼び捨てにするのはマズいと思ったようで、終始”さん”付けで話した未来。
それを聞いていた母さんは未来に向けて言う。
『丁寧な挨拶をありがとね、未来さん。
だけど私たちはもう家族となるのだからもっと砕けた感じで私たちに接してね、未来ちゃん♪』
「は、はい分かりました」
『ふふっ♪ まだ時間が掛かりそうな感じね』
「も、申し訳ありません!」
『別に怒っているわけじゃないから気にしないでね、未来ちゃん。
ところで未来ちゃんに聞きたいことがあるのだけど?』
「はい、なんでしょうか?」
『ぶっちゃけた話、葵とは何回ヤッたのかな?
未来ちゃんの血筋のことについては聞き及んでいて把握してるから、気になっちゃってね♪』
それを聞いた俺は丁度飲んでいたコーヒーを思いっきり吹き出した。
「ブハッ…!あ、あんたは何を聞いてんだよ!」
『だって気になっちゃったんだもん!』
「だって気になっちゃったんだもん!じゃねぇから!
いきなり聞くべきことじゃないからな、それ!」
全く…!何でいきなりそんなぶっ飛んだことを聞いてくるんだよ。
時と場合を考えて欲しいよ、母さん。
でも俺に母さんを止める術はない。
昔から自分が興味を持ったことについて聞かずにはいられない性格だと父さんから聞いていたからね。
そのお陰で性に関することのあれこれもしつこく細かく父さんに母さんが聞きまくっていたらしい。
無論、聞いたことは即座に父さん(母さんは父さんを一途に愛している為)に対して実行してたとも、ね(あ、家族愛を除いてね)。
だから一度こうなった母さんを止められる人間は誰一人としていない。
例えそれが家族であったとしても、である。
『それで結局のとこ、葵とは何回くらい愛し合ったのかな?』
「あー、その、それは言えません!
いくらお義母様でも言えることと言えないことがありますので!
だから私は絶対に言いません!
私と葵の2人だけの秘密ですので!」
(よしっ!よく言った未来!)
俺は思わず心の中で言わなかった未来のことを褒めた。
『未来ちゃんがそう言うなら、もう聞かないことにするわね。
思ったよりも口が堅いようで安心したわ』
「………?!」
(あの母さんがあっさりと諦めた、だと!?
何でも聞かなければ気が済まなかったあの母さんが!?)
そう思いながら俺は口を大きく開けて唖然とする。
『私が簡単に諦めたことに対して葵は口を大きく開けて唖然としてるでしょ?未来ちゃん』
その様子をまるで見ていたかのように母さんはそう言った。
エスパーかよ、と俺は思ったね!
「はい、まさに葵はお義母様が仰った通りの反応をしてますね…隣で」
こらそこ!いちいち母さんに言わなくてよろしい!
つーか早く話題を変えよう!
うん、そうしよう!
是非そうしよう!
でないとまた色々と聞かれてしまいそうだ。
だからそれは何としても阻止しなければ!
なんて思った俺は言う。
「母さん!早く本題に入ってくれよ!」
そう焦った俺の声に呆れた溜め息を吐いてから母さんは言う。
『はぁ……分かったわ。
もう少し色々と聞きたいことがあったんだけど、それはまたの機会にしておくわね。
それじゃ本題に入らせてもらうわね。
山崎親子の顛末についてを、ね』
そう言った母さんは語り始めた。
それを黙って聞く体勢に入る俺と未来。
……何か大事なことを忘れてる気がするが、きっと気のせいだと思いつつ。
【牧野家の庭】
そこには葵達に存在を忘れられた男性……良平が倒れていた。
彼は唐突に自室内に乱入してきた愛する妻である美咲にスマホを奪われ、手加減を知らない全力の平手打ちを顔にモロに受けた上で閉まっていた窓を突き破る形で庭へと投げ飛ばされたまま放置されていたのである。
アイミスワンダーランドで仕事をサボっていたことを葵が有言実行でリークし、それを見てキレた美咲の怒りをかったせいで、である。
「うぅ……あおいめぇ…美咲さんにリークしやがったな……この借りは何れ必ず……ガクッ…」
それだけ言った後、意識を手放す良平。
この光景は日常茶飯事だった為、家で働く使用人はすっかりと良平が庭で倒れる光景に慣れきっていた。
そしてその良平を放置し、自分達に課せられた仕事に集中する。
美咲を怒らせた主が悪い、と使用人全員がそう思っているから尚更放置される良平なのであった。
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