第48話 良平からの電話 ~山崎 健吾の末路~
※本文中に読む方によっては不快に思う表現内容が含まれています。
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山崎 健吾が逮捕されたというニュースに安堵したのも束の間、速報としてたった今報道された”山崎 公輝”衆議院議員が緊急逮捕されたのを聞いた葵と未来は顔を見合わせる。
「「あの屑男の父親じゃないよな(よね)?」」
そして互いに顔を見合せながら”山崎”という苗字を聞き、同時にそうハモった声を上げた。
「いや、まだそうだと決まったわけではないだろう」
「でも店内であの屑男は自分で言ってたでしょ?
俺の親は衆議院議員だ!ってね」
速報で報道された衆議院議員の山崎があの屑男の親だということに確信を持てないでいる俺にそう言ってくる未来。
「ああ、確かにあの屑男は自分でそう言っていたな。
ということは屑男の親で間違いない感じなのか?」
「ええ、ほぼそれで確定だと思うわよ?」
そう話していると、ソファーの上に置いてあった俺のスマホから着信音が流れ出す。
それを手に取った俺は画面を見て呟く。
「あ、父さんから電話が掛かってきた」
その呟きを聞いていた未来は俺の手元にあるスマホを指差しながら聞いてくる。
「え、お義父様から電話?」
「うん。 だから出てみるね。
用があるから掛けてきたんだろうしね」
「分かったわ」
未来の返答を聞いた俺は応答をタップし、未来にも聞こえるようスピーカー設定にした。
『お、出たか葵。 愛しの父さんだぞ~!』
出て早々にそんなことを言ってきた父さんに俺は、
「……用がないなら切るよ」
と言い、通話を終了させようとした。
『私が悪かった。 だから即座に切ろうとしないでくれ!』
俺がイラついてることを声色で判断した父さんは慌ててそう言ってきた。
なので溜め息を吐いてから俺は言う。
「次にそう言ったら、問答無用で切るからな?」
『わ、分かったよ…。
葵ならマジで切りそうだからもう二度と言わないさ』
そう謝る?父さん。
全く、息子と娘に甘々なのは昔から何も変わってない。
これで大企業のCEO兼会長を勤めれているのが不思議でならない。
だけどそんな父さんを俺は尊敬してる。
今回の健吾みたいに俺と未来を含めた身内と社員達(その家族・親類含む)の身に危機が迫ってることが分かると、事態が大きくなる前に父さんが即座に対応して終わらせてくれるからだ。
「それで? 何か俺に用があったから掛けてきたんでしょ?
だから早く本題に入って欲しいんだけど?」
そう言って早く話すよう急かす俺。
だって俺と未来はまだチキンカレーを食べ終わってないんだから……大盛りにしてた未来は特に、ね。
『わかったわかった。
そう急かさなくとも話すよ、全く。
それじゃあ早速だけど本題に入らせてもらうが、その前に山崎 健吾及び山崎 公輝が逮捕されたことについては?』
「ニュースで見たから知ってるよ、父さん」
『そうか。 いや、実はその件で葵に電話を掛けたんだよ。
今回の件の当事者である葵と未来さんには言わなければならない話があったからな。
先ずは先に逮捕された山崎 健吾についてからの話をしよう。
彼は少なくともこれまで数十名もの女性に狼藉を働いていたことが分かってる。
強制性交・児童売春・恐喝・婦女暴行・迷惑条例防止違反(主に痴漢)等を始めとした様々な犯罪を犯し、それらの全てを親の権力を用いて揉み消していたようだ。
想像以上に好き放題やらかしていたってわけだね』
「マジかよ……」
「屑だとは思ってたけど、想像以上だわ……」
父さんの話を聞いて言葉を失う俺と未来。
こいつのせいで人生を狂わされた被害者のことを思うと、なんともやるせない気持ちになった。
それも数十名にも及ぶ女性達の人生が、ね。
『彼の被害にあった女性達のほぼ全員が精神状態が不安定となり、入院したり通院してる……今現在も、な。
被害女性の何れに対しても彼は一切避妊しておらず、少なくとも十数名が妊娠したことがわかった。
それで妊娠してしまった被害女性達の全員が降ろしたこともわかってる。
彼の子供なんて産みたくもない、と言ってな。
更に被害に遭った女性達の中には婚約・結婚した人もいたようだが……。
これ以上は言わないでおこう。
そして最悪なことに……。
いや、これも言うのはよそうと思う』
最後の二つについてを語らなかった父さん。
だけど聞いていた側としては、語らなかった理由は理解出来た。
無論それは隣に居る未来もだろう、と表情から俺はそう判断した。
「もう呆れるとかそう言った次元の話じゃないね、それ。
いや、彼奴と同列に見られると思うと……何してくれちゃってんの?って感じだよ。
それと憤ってもいるのが正直なとこだね」
「あの人の被害女性達と同じ女性の私としては、憤り以外のなにも感じません。
強いて言うならば……二度と社会に戻ってこないで欲しい、と心の底からそう思ってます」
父さんの話を聞いていた俺と未来はそれぞれが今思っていることを吐露した。
『2人はこの話を聞いてそう思っていたのか。
だが私が聞いたところによると彼自身がまだ中学に入学したばかりの頃、同じクラスメイトだった女子達から酷いイジメを受けていたらしい。
そのことがあってから世の中の女性達を恨むようになり、復讐がてら自身の性的欲求を満たしていた……と、本人はそう供述したと私は聞いたのだよ。
だからと言って親の権力を用いての蛮行は決して許される筈もない、と私はそう思ったよ。
それと彼は少なくとも向こう10年の刑務所暮らしが確定してることを2人には先に知らせておくよ。
……私の息子とその婚約者である未来さんに手を出そうとしたことに美咲がマジギレしてしまったせいでな』
あー……彼奴は眠れる獅子を起こしてしまったってことか。
母さんがマジギレしたのはいつ以来だろうか。
そのことは今どうでもいい、と思いながら俺は言う。
「彼奴の過去にそんなことがあったのか…。
とはいえ同情の余地は全くもってないと俺は思うよ。
恨み妬みといった負の感情は生きていれば誰しもが必ず抱くものだと断言することは出来ない。
それで無理矢理ってのは違うだろ!…とも思ったよ」
「あの人の過去がどうであれ、自分が犯した罪はしっかりと償って欲しいです。
そして被害女性の一人一人に誠意ある謝罪をして欲しい…と、私はそう思っています」
『私もそれには同意見だな。
だから彼には大いに反省してもらい、一人一人に誠意ある謝罪をしてくれることを切に願うよ。
ま、今報告された内容を顧みたとしても私たちの願いが叶うことはなさそうだがな…』
ゲンナリとした声色でそう言った父さん。
それよりも今報告された、といった内容が気になった俺。
でも、今聞いたところで父さんは多分だが教えてくれはしないだろうね。
今は絶対に、ね。
『……コホン。
さて、彼に関してはこのくらいにして次の話をしよう。
彼の父親の山崎 公輝についての、な』
軽く咳払いしてからそう俺と未来に向けて言った父さん。
だがその声色からはどことなくプレッシャーを感じる。
『だが話す前に確認したい。
葵、未来さん。 今から私が話すことを聞く覚悟はあるか?
その覚悟がない場合は、今すぐ通話を切ってくれて構わない。
それだけの内容になると理解した上で、よく考えてくれ』
やっぱり俺が感じたことは間違いないなかった。
そう、今の父さんの問で確信することが出来た。
だけど聞く覚悟は問われるまでもない。
だが問題は隣にいる未来だ。
俺は既に聞く覚悟は出来ているが、未来がどういう決断を下すのか…。
それ次第で聞けるか聞けないかが決まる。
「問われるまでもありません。
聞く覚悟は出来ていますので」
『……………葵は?』
「俺も聞く覚悟は出来てます」
『……分かった。
でははな…『ここからは私が話すわね♪』…あ、美咲さん!急に割り込んぶげらっ!』
俺と未来の2人に聞く覚悟があると理解した父さんが話そう、としたタイミングで割り込んできた女性の声。
そしてその直後にスマホから聞こえてきたグキリッという嫌な音とガシャーンッと何かが派手に割れる音。
一体スマホの向こう側では何が起こっているんだと顔を見合わせる俺と未来なのだった。
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