第45話 葵&未来、屑男こと山崎に引導を渡す・後編
国内に留まらず世界にまでその名が知られるグローバル企業の”牧野ホールディングス株式会社”。
長年に渡り政府と力を合わせ、この日本の経済に大きな影響力を持つ大企業でもある。
その後継者として生まれたのが俺、牧野 葵である。
俺の名前はともかくとして会社名を聞いて尚、ヘラヘラとした顔をし続ける山崎。
そんな山崎は……ハッキリ言って世間知らずもいいところであると言えるだろう。
大人になるまでに一体何を学んできたんだと言いたくなる。
どうせ親の権力を用いて好き放題に遊び呆けてきたんだろう、と俺は思った。
特に女遊びが人生の大半を占めているんではないかとも、ね。
はぁ……っと再び深い溜め息を一つ吐いた俺は山崎を見据えながら問う。
「なんで、そうヘラヘラと笑えてるんだ?」
「悪い悪い……聞いたこともない名前だったからつい、なw
それでそのなんちゃら企業がどうしたってんだ?」
「お前……今まで何を学んできた?」
俺が呆れながらそう山崎に聞くと、鼻で笑いながら返答してくる。
「はんっ…! 何を聞いてくるのかと思えばそんなことかよw
答えは……何も学んできてない、だ!
俺様は天才だから学ぶ必要が無かった、が正解だなw」
「お前が天才? 女性を物としか思ってないお前が?
親の権力がなければ何も出来ないお前が?
一体なんの冗談だよ…w」
自分で天才だと豪語する山崎に俺はそう言って笑ってやった。
すると案の定、山崎は怒り心頭といった感じで俺に言う。
「テメェっ…! 何を可笑しそうに笑ってやがる!」
「これが笑わずにいられるかよw
お前のどこをどう見たら天才に見えんだよって話だw
本当の天才は自分で天才だとは言わないんだよ。
それにそう言っていられるのも後少しだろうけどな…」
そう最後に付け加えて言った俺。
その言葉が気になったらしく、隣にいる未来が俺を見て質問してくる。
「葵が最後に言った言葉って、どういう意味なの?」
そう聞いてきたので”わざと”山崎にも聞こえるように俺は言う。
「ああ、その事か。
さっき俺の父さんが急に用があるとかで帰ったのは、未来も覚えているよね?」
「ええ、ほんの数分前のことだから覚えているわ。
けどそれとさっき葵が言った言葉と何の関係が?」
「ああ、それはね未来……衆議院議員であるこの屑の親のことを政府に問い合わせる為に帰ったんだよ。
……そして合法的に潰す為に、ね。
何せ牧野家は政府と密接な繋がりがある名家だからね。
だから父さんが動いた時点で既に詰みってことになるんだよ」
「それは……ご愁傷様でした、としか言いようがないわね。
かと言って女の敵であるこの人に同情する気は一切ないわ。
そもそもの話、牧野ホールディングスを敵に回した時点で既に詰みよね」
「あはは…」
そう俺と未来のやり取りを聞いていた山崎の顔は見る見る間に青ざめていった。
ここまで聞いてようやく自分が一体誰を敵に回したのかが理解出来たらしい。
ま、これが唯のナンパならまた違った道があったのかもしれないんだけどね、と俺はそう思った。
だけど山崎は超えてはいけない一線を超えてしまった。
例え俺と未来に絡まずとも、何れは詰むことになっただろうけど。
それが早まっただけのことである。
「くそつ…! そう言う、ことかよ!
だからお前は……お前らは権力で潰すことは絶対に不可能だと言っていたのか?!」
床に崩れ落ちながらそう呟いた山崎に俺は言う。
「そう言うことだよ。
要はお前は……決して踏み越えてはならない一線を超えてしまったんだよ。
だから今までに犯してきた数々の罪の重さを受け止め、反省し、しっかりと償うことだね。
それが今のアンタに出来る唯一のことだから」
そう言った俺に続くように山崎を冷めた眼差しで見ながら未来も言う。
「私からもアナタに言いたいことがあるから言わせてもらうわね。
もし私が葵と婚約してなくてフリーだったとしても、アナタのような女性を物としか思っていない人なんて願い下げよ。
ハッキリ言ってアナタのような屑男なんて、大っ嫌いだわ!
なにが女は性処理道具よ…っ!
巫山戯んじゃないわよ!
女だって血の通った1人の人間なのよ?
なのになんで……なんでアナタは女性を雑に扱うの?
なんで平気でそんな最低なことが出来るの?
そんなアナタのせいで折角の葵との楽しい初デートが……台無しになっちゃったじゃない……うっ…」
最後に「貴方の顔なんて二度と見たくないわ。だから金輪際、私たちの前に現れないで!」と言った未来の瞳から涙がとめどなく溢れ、次々と床にポタポタと流れ落ちる。
その未来を俺はそっと背中に腕を回し、自分の胸に抱き寄せる。
それがトドメとなり、彼女は俺の胸に顔を押し付けながら店内に響き渡る声で泣き始めた。
その背中をポンポンと優しく叩きつつ、未だに床に崩れ落ちたままの体勢でいる山崎を見下ろしながら俺は言う。
「なぁ山崎。 今のこの状況を見て、聞いて、何を思ってる?
俺はな山崎……お前のせいで彼女を…婚約者を泣かせてしまった自分が許せないんだよ。
こうなる前にどうにか出来たんじゃないかってな。
だから大切な初デートを台無しにしてしまった自分も許せないし、それをぶち壊しやがったお前も許せない」
「………………」
何も喋らない山崎。
「なぁ山崎、どうしてくれんだよ?」
「………………」
尚も黙る山崎。
「なぁ山崎……黙ってないでなんとか言ったらどうなんだよ!!」
「………………」
それでも黙りを決め込む山崎。
「謝罪の一言も言えねぇのかよ!!
自分で大人だと言ってたよなぁ!!
天才だとも言ってたよなぁ!!」
「………………」
更に黙りを決め込む山崎。
「それなのになんで…なんで未だに黙ってんだよ!!
都合が悪くなればそうやって黙んのかよ!!
大人だと豪語するのなら……現実から目を逸らすんじゃねぇよ!!
お前が現実から目を逸らして逃げたところで何も始まんねぇんだよ!!」
「…………るせ」
ここまで俺に言われてからようやく言葉を発する山崎。
だけど小さ過ぎて聞き取ることが出来ない。
「今、何て言ったんだ?」
思わず俺はそう山崎に問い掛ける。
すると山崎はおもむろに立ち上がり、俺を睨み付けながら言う。
「うるせぇっ! って言ったんだよ!
今すぐその口を閉じさせてやるよ!!
だから女諸共あの世に逝っちまえや!!」
そう怒鳴った山崎の右手には鈍くキラリと光る物が握りしめられている。
そして真っ直ぐと右手を前に出す……未来の背中へと向かって。
だが俺は奴がナイフを握っていることにいち早く気付いていた為、右手を前に出す直前には動き出していた。
未来を庇いつつナイフを持つ奴の右手を
床に落ちたナイフを拾われる前に遠くへ向かうよう蹴り飛ばした。
それを周囲にいた親衛隊の面々が素早く動き、凶行に及んだ山崎をガッチリと拘束した。
「くそがぁぁぁぁ!!
離せぇぇー!! 離しやがれぇ!!」
親衛隊に拘束された山崎は振り払おうと大声を出しながらジタバタと暴れる。
だが屈強な男達によりガッチリと固められている為、全く身動きが取れないでいる山崎。
そんな山崎を冷めた目で見ていると、店の入口から数名の警察官が店内へと入ってくるのが視界に入った。
恐らく様子を見ていた周囲の誰かが通報したんだなって思った。
十中八九、俺の親衛隊の内の誰かだろうとも。
店内に入ってきた警察官達は真っ直ぐ俺たちの方にやってきて、拘束されている山崎を見てから俺に話し掛けてきた。
「店内で成人男性が若いカップルにしつこく絡んでいるという通報を受けてやってきました。
君達が絡まれていた若いカップルで間違いないかな?」
そう問われたので、俺は「そうです」と言って頷いた。
「分かりました。
それで数名によって床に拘束されているこの男性が君達に絡んでいた人物で合ってるのかな?」
その問いに俺は再び「そうです」と言って頷く。
「なるほど……分かりました。
ではこの男性は我々が連行していきます。
おい、この男性を連行しろ」
「「「はっ!!」」」
そう言った男性警察官は仲間に山崎を連行していくよう指示を出す。
そして店の外に連れ出されるまでを見送った警察官が俺に言う。
「後日、簡単な事情聴取があるかもしれません。
ですので念の為に連絡先を教えて下さい」
「あ、分かりました」
そう言って俺は自分の連絡先を聞いてきた警察官に伝える。
それを手帳にメモり終えた警察官が俺に言う。
「では我々はこの辺で失礼致します」
それだけ言って頭を下げた後、先に出ていった仲間の後を追うように店から出ていった。
それを見計らったかのように親衛隊の内の1人が俺に声を掛けてくる。
「葵様……我々が付いていながら何も出来ずに申し訳ありませんでした」
「いや、君達が謝る必要はないさ。
だから今回のことは、もう気にするな。
だけど今からデートを再開する気分でもない。
それは俺の婚約者である未来も同じだろう」
未だに泣き続ける未来の背中を撫でながらそう言った俺。
だから、と続けて俺は言う。
「こんな状態では楽しめそうもない。
なので俺たちを家まで送って欲しい。
頼めるかな?」
「分かりました。直ぐにお車を正面ゲート前に手配致します」
「うん、お願いね」
そうやり取りした後、俺と未来は帰路についた。
折角の楽しい初デートが台無しにされたことによって沈んだ気持ちを引き摺りながら。
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