第44話 葵&未来、屑男こと山崎に引導を渡す・前編

 本来であれば忙しい身であるはずの父さんがこの場に現れたことにより、俺と未来に絡んでいた山崎は怪訝な表情をする。

 その山崎をチラッと見てから再び俺を見ながら口を開く。


「なかなか面白いことになってるな、葵」


(いや、この状況が面白いはずがないだろ…)


 と、俺は心の中でそうツッコミを入れる。


「はぁ…父さんはなんで此処に?」


 絡まれてるこの状況を何故か楽しんでいる父さんに対し、溜め息を吐きながら俺はそう聞いた。


「いや、なに……葵の初デートがどんなものかと気になってだなぁ…アハハ…」


 あ~、要するに未来とのデートが上手くいってるかどうかが気になったから見守ってたってことか。

 しかも仕事を放置してまで息子を優先した、と。

 グローバル企業のトップが何やってるんだか……と俺は更に深い溜め息を吐く。


「あれ? もしかしなくとも私は今、葵に呆れられたのかい?」


 はい、まさにその通りだよ父さん…。


「……母さんにしっかりと報告しとくね、父さん。

 お仕事を思いっきりサボってましたよ?ってね!」


「そ、それだけは止めてくれ!!

 美咲みさきにバレたら私は……ブツブツ…」


 そう言う父さんの声が小さくなっていく。

 まぁ、このことが母さんにバレたら大変だよね。

 長い長い説教地獄を受ける羽目になるんだから。

 顔はニコニコしてるけど目が一切笑っていない母さんは、俺からしても恐ろしいって思ってるし。


「うん、ちゃんと報告しとくよ。

 だから安心して母さんの説教を受けてね、父さん♪」


「鬼だ……ここに鬼がいる…」


 容赦なく報告すると俺が言ったからなのか、父さんはそう言ってから床に崩れ落ちた。

 よっぽど母さんの説教を受けたくないらしい。


 そんな漫才みたいなやり取りをしていると、放置されていた山崎が怒りの声を上げる。


「俺を無視して楽しく話してんじゃねぇよ!!

 大体よお、オッサン……お前は誰だよ?

 このクソガキの親だってことは聞いていて分かったんだけどよ。

 だから床に這いつくばってないでさっさと名乗れや!」


 山崎の言葉を聞いて”あ、此奴終わったわ”と俺は思った。

 散々俺に目上には敬語で話せ、なんて言っていなかったか?とも思ったね。

 ま、俺と未来に絡んだ時点で既に此奴は終わってるんだけどね。

 ……色んな意味で、ね。


 その偉そうな言葉に反応した父さんが立ち上がり、山崎を見据えながら言う。

 その際に俺は気付く……父さんの纏う雰囲気がガラッと変化したことに。


「まず始めに言っておくことがある。

 目上には敬語を使って話せよ、小童。

 それから名を聞く時は自分から名乗れ!!」


 威厳に満ちた声でそう言った父さんに山崎は臆す。

 だが直ぐに山崎は大声で反論し出す。


「くっ…?!

 お、俺は衆議院議員の山崎の息子だぞ!

 その俺を小童呼ばわりした上で説教とはいい度胸だな、オッサン!」


(……いい度胸なのはお前だよ、お・ま・え!)


 父さんを前にしてメンチをきるコイツに内心でツッコミを入れてた俺。

 すると俺の方に顔を向けた父さんが小声で聞いてくる。


「……なぁ葵?」


「ん?なに?」


「もう帰ってもいいか?」


 何言ってんだあんたは……って思ってしまった。


「……なんで?」


「……終わらせる為に必要そうな手配をしたいからだ。

 だからこの小童に葵が引導を渡してやれ」


 俺の問にそう答える父さん。

 だがその表情は怒りに染まっているように俺には見えた。


(これはもう完全にブチギレてるな…)


 そう思いつつ俺は頷きながら言う。


「ああ、分かった」


「私の名を使っても構わないから、葵が婚約者をしっかりと守り切れよ?

 それと未来さん、私の息子の葵を頼みましたよ。

 また機会があったその時はゆっくりと話しましょう」


「はい、その時は是非。

 それと葵のことはお任せ下さい!」


「うむ。 ではまたな、葵、未来さん」


 そう最後に俺と未来にそう言った父さんは山崎をひと睨みした後、数名のSPに周囲を守られつつ店内から出ていった。

 それを見送った俺に山崎が言う。


「……お前の親は俺に恐れをなして逃げたようだなw」


 父さんが居なくなった瞬間にこれか…と溜め息を吐きながら口を開く。


「はぁ……そう思ってるならそう思えばいいさ」


「おいおい、そんな強がんなってw

 どうせ親が逃げたことに内心では動揺してんだろ?」


「別に動揺なんてしてないよ。

 父さんは別に用があったから帰っただけのことだしね」


「何の用があって逃げたのか知らねぇがよぉ……いい加減にその女を俺に寄越せや!

 マジでボコボコにすんぞ、お前」


 性懲りもなくそう言う山崎。

 それが鬱陶しくなった俺は此奴に言う。


「それは無理だと何回言えば分かってくれるんだ?

 彼女は俺の婚約者だとも言ったよな?

 それにこの際だからハッキリ言うけど……お前の親如きの権力では俺を潰すことなんて不可能だからな?」


「そんなのは俺様にはかんけ……まて、今何て言ったんだお前?」


 一回で聞けよ、と思いながら俺は再度言う。


「だからお前の親如きの権力では俺を潰すことは不可能だと言ったんだよ。

 本当は権力を傘に着るようで嫌だったから言わなかった。

 だけどそっちが権力をチラつかせてくるから、改めて名乗るわ。

 牧野ホールディングス株式会社CEO兼会長の牧野 良平の息子にしての牧野 葵だ。

 そしてお前がさっきまでオッサン呼ばわりしてた人だよ…」


 俺が言っている意味が全く理解出来てないらしく、山崎はまだヘラヘラと笑っていた。

 そんな山崎を見た俺は深い溜め息を吐くのだった。


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