第5話 未来を自宅に招く、そして告白の返事

 葵の家に行ってみたい! と言う未来のお願いを断ることが出来なかった俺は、未来を連れて自分の自宅がある清水ヶ丘町の住宅街に向かって歩いていた。


「今思えば私……生まれて初めて異性の家を訪問するのね」


 俺の左腕をホールドしながら歩く未来がそう口にした。

 今更気付いたのかよ! と言うツッコミが口から出そうになったが、なんとかこらえる俺。

 全ての男が大嫌いだと公言する未来が異性の家を訪問した───と知ったら、学校連中はどんな反応を示すんだろう。

 きっと様々な反応を示してくるんだろうけど、今更の話だから俺は気にしないことにした。


「学校連中が知ったら騒ぎになるかもな!」


「騒ぎになった所で、私は気にしないわね。

 誰の家に訪問しようとも、私の自由でしょ?

 だから騒ぎたければ勝手に騒いでればいいのよ」


 俺が言ったことに対して、そう言い放つ未来。

 未来にとって周囲の反応なんてどうでもいいんだろうな。


「学校連中は絶対に変な勘繰りをしてきそうだけどな」


「勝手に勘繰ってなさいって感じね。

 葵が好きだから私は貴方の隣に居たいって思ってるもの♪」


 俺を見ながら笑顔でそう言う未来。


「よく恥ずかしげもなく【好き】って言えるよな?」


「正直な気持ちだから恥ずかしくなんてないわね♪

 葵のことが本当に好きだから♡」


 今日だけで数回目となる未来からの好き発言に照れくさくなった俺は、未来から視線を逸らした。

 そのタイミングで俺の自宅があるマンションの【フロンティア】が視界に入った。


「未来、あそこにあるマンションに俺の自宅がある」


 そう未来に言いながら見えているマンションを指さす俺。


「あ、あれに葵は住んでるの!?」


 俺が指さしたマンションを見て驚きの声を上げる未来。


「うん? そんなに驚くことか?」


「そんなに驚くことか? じゃないわよ!

 フロンティアと言えば、超高級マンションじゃないの!

 そんなマンションに住んでいる、と言った葵に私は驚いてるの!

 最低でも1部屋辺り数千万円の値段なのに……」


「そうなのか。 父さんが一括払いで購入してたから値段は知らないんだよね」


 値段を知らないのは事実だ。

 一人暮らししたい、と言ったら父さんが「合格祝いだ!」って言ってプレゼントしてくれた家だから。


「葵のお父様って一体……」


「それは家に着いてから教えるよ」


 俺がそう言うと未来は素直に頷いた。

 なので俺は未来と一緒に入口から中に入った。

 話してる間にマンション入口前に着いていたからである。



 入口から中に入って先ず目にするのは、ソファーや調度品が設置された広々としたエントランスホールだな。

 それと専属のコンシェルジュがエントランスホール内に常駐している。

 ま、未来はとても驚いたり目をキラキラさせながら周囲を見ている。


「流石は高級マンションって感じね。

 コンシェルジュまで居るとは思わなかったけど……」


「それに関しては、俺も初めて来た時には驚きを隠せなかったけどな。


 さ、立ち話もなんだから行こう」


「うん♪」


 そう言って未来を連れてエレベーターに乗り込み、5階にある自宅へと向かった。



◇◆◇◆◇



 5階で降りてから廊下を進み【牧野】と書かれた表札がぶら下がっているドアの前で歩みを止め、懐から取り出したカードキーを端末にかざした

 カチャッと言う音と共にロックが解錠されたドアを開いて未来と一緒に玄関内に入る。

 靴を脱いでからリビングに入った所で未来に聞く。


「コーヒーと紅茶しかないが、どっちを飲む?」


「此処に葵は住んでいるのね。


 あ、紅茶をノンシュガーでお願い」


 未だに左腕を抱きしめながらも、異性が住んでいる部屋の中を興味深そうに見渡している未来にそう聞くと、一瞬遅れて返事が返ってくる


「了解。 淹れるまでソファーにでも座って寛いでいてくれ」


「……分かったわ」


 渋々俺から離れて勧められたソファーに移動して腰掛ける未来。

 それに苦笑しながら俺はキッチンに向かい、棚からティーパック2つを取り出す。

 それから食器棚からティーカップ2つを取り出し、先程出したティーパックをカップの中に入れる。

 それを手に持ってキッチンカウンター横に備え付けられているウォーターサーバーの所に向かい、カップの中にお湯を注いでいく。

 そして頃合を見てティーパックを取り出してからパックだけををゴミ箱に捨てた後、未来が座るソファー前にあるガラステーブルの上に置いてから隣に座る。


「ほい、紅茶」


「ありがとう。 いただきます。

 はぁ~…美味しい」


 そう言ってカップを手に取って口に運び、1口飲んでから息を吐く未来。

 だが直ぐにカップをテーブルに置き、俺に抱きついてくる。


「未来…?」


「返事……聞かせて?」


「返事…? って、告白の返事を今直ぐにってことか!?」


「うん……聞かせて欲しい」


 そう聞いてくる未来の目は真剣そのもので、とてもではないが返事を先延ばしにすることは出来そうもない。

 かと言って曖昧な返事をするのもダメだろうし、それじゃ未来の気持ちを軽んじることになってしまう。


(じゃあ俺の気持ちは?

 未来に対して今抱いている俺の正直な気持ちは何だ?

 入学直後に未来が公言した言葉を聞いて関わる気は失せていたんじゃなかったか?

 だから未来のことを異性として見れてなかったし付き合いたいとさえ、思わなかったんじゃなかったか?)


 そう思っていた筈だったのに───あの時は体が勝手に動いていて、自らが身を呈して軟派男から未来を助けていた。


(その行動が未来に抱いている俺の本当の気持ちがそうさせたのだとしたら?

 根底ではずっと関わりを持ちたかったから?

 だから俺はあの時に未来のことを───助けたいと思ったから身を呈してでも助けたんだ)


 そこまで思った時、ストンと気持ちが定まったのを感じた。

 ……ははっ、答えはもうとっくに出てたんだな。

 気付かなかっただけで俺は入学直後のあの日から俺は───未来のことが好きだったんだな。

 そうと分かったのなら、後は伝えるのみ!


「告白の返事……言ってもいいかな?」


「うん、聞かせて欲しい……葵の返事を」


 どんな返事でも受け止める、と言う覚悟を持った目で見てくる未来に俺は言う。


「俺も水無月 未来さんのことが好きです!

 結婚を前提に俺と付き合って下さ……んぷっ!?」


「んちゅっ♡

 好き…好き…大好き♡んぅっ♡」


 返事を言っている途中……涙を零して正面から抱きついてきた未来の唇に塞がれてしまい、最後まで言い切ることが出来なかった。

 このキスが俺の告白の返事に対する未来の答えのようだ。

 だけどな未来───せめて最後まで言わせて欲しかったよ。


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