第4話 上目遣いは反則だよね
「全ての男が大嫌いだって公言した私を……葵は危険を顧みずに窮地から救ってくれた。
正直言って自分でもチョロインだわ私って思ったけど……私は葵のことを1人の男性として好きになっちゃったの!
一生離したくないし離れたくないって想ったの!
だからね葵……私と結婚を前提に付き合って下さい!」
左腕をギューッと抱きしめながら俺の目を見て告白……いや、逆プロポーズしてきた未来。
俺は単に軟派男に絡まれて困っていた未来を助けたに過ぎない。
普通ならば男嫌いに該当する男の俺に助けられれば、嫌悪感を示すか逃げられるかの2つの反応を示す筈だ。
なのに男嫌いだと公言している筈の未来は俺に嫌悪感を抱くことなく、嫌いな男である筈の俺の左腕を抱きしめている。
「その言葉は冗談──」
「──冗談でこんなことは言わないわよ!!」
俺が言っている言葉を遮った未来が怒った口調でそう怒鳴る。
それを聞いて、一瞬でも冗談だったんじゃないかと疑ってしまったことを俺は激しく後悔した。
「疑ってしまってごめん!」
どんな言い訳を並び立てても意味がないと思った。
だから俺は未来に謝った。
「私こそ怒鳴ってしまってごめんなさい。
でもね葵、私は悲しかったわ。
私の告白を、私が惚れた葵に疑われたことに…ね」
「………ごめん」
未来が言ったことに対し、俺はそう言うのが精一杯だった。
未来の表情が悲しみに満ちていたから……。
(本気で好きになって告白してくれた未来に対して俺は……。
こんな悲しい表情をさせるなんて……自分で自分を殴りたくなる。
勇気を振り絞って告白してくれた未来を……俺は自ら否定してしまった。
これで未来が帰ってしまったとしても……仕方がないよな。
今更になって後悔したところで……全てが遅すぎる。
ほんと俺って……大バカ野郎だよな)
そう思いながら俯く俺に、未来は言う。
「……葵は大バカ野郎じゃないわよ。
そんなに自分を追い込む必要なんてないわ。
葵が後悔していることは十分に伝わったから!
だから顔を上げて私を見て?
さっきのことで帰ったりなんてしないし離れることもない。
そして葵を嫌いになることもない……この先一生ね」
そう言われた俺は俯いていた顔を上げ、未来を見る。
その表情は悲しみから一転して穏やかだった。
どうも心で思っていたことが漏れていたようで、それを未来に聞かれてしまっていたらしい。
「……ありがとう」
そんな未来に対して俺はそう口にした。
謝罪の言葉を口にするのではなく感謝の言葉を口にするのが適切だろう、と判断して。
◇◆◇◆◇
1時間程度カフェで過ごした後、俺と未来はカフェを後にして渋谷の街中を話しながら目的もなく歩いていた。
「私に会わなかったら葵は今日、どう過ごす予定だったの?」
未来がそう聞いてきたので自分の予定を話す。
「当初の俺の予定なら、総合ショッピングモール【テリア】で昼食を食べてから軽く買い物をして、それから帰宅するつもりだったよ」
「ふ~ん、なるほどね」
「そう聞く未来は今日、どう過ごす予定だったのさ」
「私の予定? それなら何処かで昼食を食べて服屋を見てから帰るつもりだったわね」
「俺とそんなに変わらないな」
未来が過ごす予定を聞いた俺はそう口にした。
「そうかもしれないわね。
私達、似た者同士ね!」
なんて嬉しそうに言う未来。
その未来はカフェを出てからもずっと俺の左腕をガッチリとホールドしてる。
お陰様で野郎共からの視線の痛いこと痛いこと。
こんな美少女に抱きつかれてるんだから、羨ましがられるのも頷ける話である。
ま、抱きついている当の本人の未来は周りなんて眼中に無いって感じで俺の方しか見てないけども。
「似た者同士って……そんなに嬉しいことか?」
「うん、嬉しいわ!
好きな人と似た行動パターンなんだもの♪
そんなの嬉しいに決まってるじゃない!」
そう言ってくれるのは俺としても嬉しい。
だけどね未来さん? その大きな胸を更に押し付けてくるのは止めようね?
「あ! ねぇねぇ葵!
私が今、思い付いたことがあるから言うわね♪」
(何かとんでもない事を言いそうな気が……)
そう思いながら続きを待った。
「葵の住んでいる家で遊べばいいんじゃないかって思ったのよ!
だから私を招待して欲しいの!」
想像以上にとんでもないこと言っちゃってるーー!!
「何がどうしたらその考えになるのかな?」
「好きな人の家に行ってみたくなったから!」
あ、なるほどね!……と、妙に納得した俺。
だけど招待するのには抵抗がある……だって俺、一人暮らしだもん!
流石に一人暮らしの家に未来を連れて行くのは、不味くね?
色んな意味でもアウトだと俺は思うんだわ、うん。
だから俺は理由を付けて断ろうと思って口を開きかけたんだんだが……。
「ねぇ葵……ダメ、かな?」
「……いいよ」
上目遣いでそう聞かれた俺に、未来のお願いを断ることは出来なかった。
未来の悲しむ表情を二度と見たくないって思ったが故に……。
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