第三話 学校間呪術戦対抗試合 その四

 由美子は盛り上がる前にビルから飛び降りていた。地面に着地すると、忠陽から離れようと移動をする。自分が得意とする遠距離からの狙撃なら、あの男も手足もでないと考えてのことだった。


 1つ目の角を曲がったところで、由美子は朝子たちと遭遇した。葉は足を負傷しており、朝子の肩を借りていた。


 由美子は少しほくそ笑んだ。


「その足、見せなさい」


「近寄るな!」


 朝子は怒気を含んだ声で威嚇する。


「朝子……」


 葉は朝子を落ち着かせようとした。


「でも!」


「警戒しないでって言う方が無理よね。あなた達を巻き込んでいるんだから」


「巻き込んでるって、どういう――」


 葉の言葉を由美子は遮った。


「それよりもまずは治療が先」


 葉は分かったと言い、三人はそこから数百メートル歩き、建物の中に入った。


 由美子は葉の足の傷に手を翳し、治癒魔術をかけ始めた。


「ありがとう。あんた、名前は?」


神宮じんぐう由美子。あなたは?」


「森田よう


「あなたとは、仲良くなれそうね」


「敵同士なのに?」


「そこの、朝子さん? よりは確率が高いと思うわ」


「あはは。それは言えてるかも」


「葉! ……巻き込んでるって、どういう意味?」


「さっきの男の件で色々と頼まれごとがあるの。それに私もあいつとは決着をつけたかったから」


「決着? どうしてさ。だって味方でしょ?」


 葉が怪訝けげんな顔をしていた。


「あの口悪い男と一度、校内での模擬戦で決着をつけそこなってね。私の性格上、白黒はっきりさせておきたいというか……」


「でも、最初はあの男の子と一緒に朝子と戦ってたでしょ?」


「その時は、まだあの男じゃなかったから。彼、あなたに突き飛ばされてから、急に性格が変わったの覚えてる? たぶん、彼自身の中で何か切り替わるスイッチがあるんだと思う。それを誰かに押して貰いたかったのよ」


「だったら、自分でやりなさいよ」


 朝子は由美子を見ていない。外の景色を眺めているようだった。


「それは悪いと思っているわ。だから、この治療はそのお詫び。……でも、私がそうしようとしたら、多分、真堂さんがそれを防いだと思う」


「あの真堂って女、何者なの?」


「あなたと同類よ。呪いの一種で身体を向上しているのよ」


 朝子は短鞭を無意識に抜いていた。


「ごめんなさいね、人の過去は詮索するようで。ただ、体内の魔力量が少ないのに、あんな身体能力を見せられたら、呪いの一種って判断するわよ」


「へー、呪術に詳しいんだ」


 葉は由美子の顔を覗いた。


「それなりにね。たぶん、賀茂君のも呪術の一種ね。あなたよりもやっかいなもの。真堂さんは、賀茂君を守るために、従者として子供と時から付き従うように呪いを掛けられているから、護衛としての身体能力が向上している」


「なにそれ、気持ち悪い」


 葉はそう吐き捨てた。


「呪術師の家系ではごく一般的な呪いよ。……名前も……家族も、なんでも呪いを掛けるのよ」


 朝子はまた、由美子から視線を外すように体を外の景色の方へ向ける。


 由美子は葉の患部かんぶの傷口が塞がったのを確認すると、治療を止めた。


「終わったわ。まだ表面部分を結合しただけだから激しい運動をすると傷口が開くわよ」


「ありがとう」


「さっきも言ったけど、巻き込んだお詫びよ。べ、別にお礼を言われるほどじゃないから」


「なにそれ、ツンデレ」


 由美子は頬を赤らめさせ、立ち上がった。


「茶化さないで」


 由美子はそのままビルの出口へと歩いていった。


「待ちなよ。あんた、一人で戦うつもり?」


 葉の呼びかけに由美子は立ち止ま振り返った。


「言ったでしょ。決着はつけたいって。私はこんなところで負けるわけにいかないの」


「でもさ、あいつ、かなり強いじゃん。私達が手を貸すよ?」


「ちょっと、葉! 私、そいつに手を貸すって言ってない!」


「朝子、あの男に負けたまんまでいいの?」


「私は……負けてない」


 朝子はそっぽを向いた。それを見て、由美子は笑う。朝子は舌打ちをした。


「あなた達っていいコンビね。心配してくれてありがとう、葉さん。また、今度の学戦で会いましょう。その時は敵同士だけど」


 由美子は身体強化の術を施し、走り去っていった。

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