第3話 謝花さんと高校デビュー

 無事に入学式を終えた俺たち新入生一同。

 その後は講堂から各クラスへと移動して、ホームルームが始まることとなった。


 そしてここで、奇跡は再び起きた!


「謝花さん、これからまたよろしくね」


 隣の席で、彼女が『こちらこそ♪』と言っているような顔で微笑んでくれた。

 なんと俺と謝花さんは同じ一年一組になれただけでなく、仮に組まれた最初の席順でも隣同士になったのだ!

 またもや中学のときを思い出す。あの春の感動を再体験出来ただけで、心から同じ高校に来られて良かったと思う。ああ、謝花さんの制服が似合いすぎて目が喜んでいる。

もはや高校スタートダッシュを決めた俺に怖いものはなく、後は順風満帆なバラ色の青春を過ごすだけだ。そしてそれには、謝花さんへの告白が不可欠である。その必須イベントをこなしてこそ、すべての高校イベントが最高なものになるのだ。


 でもまぁ……さすがに入学直後はお互いいろいろ忙しいし……迷惑になる可能性があるしな。うん。とりあえず落ち着いてからタイミングを探ろう! 決して先送りにして逃げてるわけではない!!

 うん! ともかく謝花さんと一緒にいられるなら最高の高校デビューとは言えるだろう!


「謝花さん。もし困ったことがあったら遠慮なく言ってね。俺に手伝えることだったらなんでもするからさ」


 そう話しかけると、謝花さんはちょっぴり驚いたような顔をした。

 でも、すぐにいつもの穏やかな表情に戻ると、こくんとうなずいて笑ってくれた。出来ることなら、謝花さんの高校デビューも最高なものしたいしな。


「あ~! 新入生代表だった子じゃ~ん!」


 そんなとき、突如響いた目立つ声に思わず「えっ」と振り返る俺たち。

 窓際後ろの方でこちらを指さしながら立っていたのは、一人の女子生徒だった。

 まず第一に金色の頭髪へと目が向く。いやこの学校って染髪ダメじゃなかったっけとか思いつつも、その金髪が非常に似合うモデル体型のギャルっぽい子だったので自然と受け入れてしまった。


 その子は勢いよく俺たちの方へ寄ってくると──ってオイオイオイ!? なんか俺の方に突っ込んできたんだが!?


「ふがっ!」


 真正面からギャルのタックルを喰らって押しつぶされる俺。椅子ごとぶっ倒れそうになったが、なんとか足で踏ん張りギャルを受け止めた。ていうか! 胸! めちゃくちゃ当たってるんだが!? なんなんだよこの子は!?


 一方のギャルは俺のことなど一切気にせずぐいぐい体を押しつけてきて、俺の向こう側──つまり奥にいた謝花さんに話しかける。


「同クラなんだ~! つーかさぁ、あの挨拶マジ斬新でおもろかったよ! これからよろしくねー☆」


 そして軽くぶんぶんと手を上下に振り、謝花さんがちょっと戸惑いながらもこくこくとうなずいて対応していた。


「ふがっ、ふががが!」

「ん? あーゴメンゴメン! またやっちゃった。キミだいじょぶそ?」


 ようやく俺の抗議に気付いたギャルは無邪気そうな顔で笑い、ついでに俺の手もぶんぶんしてきた。はぁはぁ……正直かなり息苦しくて、押し当てられたあれこれの感触による喜びなどほぼ感じられなかった。

 ぶんぶんした手を離したギャルは、目をキラキラさせて話してくる。


「あたし希沙きさ! 苗字はたちばなね! んでキミは?」

「あ、ども。俺は安澄悠っていいます」

「ふーん。じゃアスミンでいっかな?」

「え? いきなりあだ名?」

「え? ダメ?」

「いやダメじゃないけど、ちょっと距離感近くてびっくりしたっていうか」

「あーそれ、あたしよく言われるんだよねー。ま、こういうのはそっちに慣れてもらうしかないし? あたしのことも呼び捨てでいーしさ! つーわけでアスミンよろしくよろしく~♪」

「あ、うん。こちらこそ」


するとまた俺の手を掴んでぶんぶんしてくる橘さん。いやいきなり呼び捨てはできんわ。そしてそんな俺たちのやりとりを見て謝花さんがくすくす笑っていた。可愛い。


「ねぇねぇでさでさっ! そっちの代表の子は名前なんだっけ、ジャハナさんだっけ? どういう漢字なの?」


 距離感バグりガールのギャル橘さんは近くの空いていた座席の椅子を引っ張ってくると俺の真隣に陣取り、俺を挟んで謝花さんとの交流を始めた。いやだからなんで俺を挟むん?

 謝花さんはすぐにスマホを取り出して自分のフルネームを入力して見せ、橘さんが「へーこれでそう読むんだ! おもろ! ていうか下の名前もめずらしくない?」と納得していた。『謝花』ってたしかに割と珍しい苗字かもしれないしな。謝花さんもそういうことがわかってて、中学の頃は最初に手紙で自己紹介していたのかもしれない。

 すると謝花さんは、ちょっとあせあせした様子でスマホに言葉を入力していく。そしてそれを橘さんへ見せた。


「え? なになに? 『これからよろしくお願いします』? アッハハなんでスマホで~!? 直接言えばいーのに! 謝花さんやっぱおもしろーい! あ、あだ名何がイイかなー? ハナちゃんとかヨーちゃんとかしよしよかな? ねっなにがいーい?」


 楽しそうに笑う橘さんの反応に、謝花さんも少しほぐれたような笑みを浮かべた。中学時代はここまで謝花さんに積極的にごりごり来るような子はいなかったけど、意外と謝花さんとは上手くいくタイプなのかもしれないな。ていうかあだ名のラインナップ特徴的だな!


「──そこの人。それ、私の席なんだけど。椅子返してもらえる?」

「うにゃっ! ゴメンゴメンまたやっちゃった! すぐ返すね!」


 俺たちとの交流中に後ろから呼びかけられた橘さんはすぐに気付いて立ち上がり、元の席主へと椅子を返却。そのタイミングで担任の先生らしき人物が入ってきて、橘さんは「またあとでねー!」と俺たちにウィンクして自分の席へと戻っていった。


 そして橘さんから席を返してもらった黒髪の女の子は、特に怒ったり呆れたりといった様子もなくただ静かに席へ着いた。なんていうか、いわゆるお嬢様然とした綺麗な子だった。座席表によれば名前は『美嶋』さんというらしい。

 先生来る前からちょっとしたぷちイベントみたいな交流はあったが、ともかくこうして一年一組ホームルームがスタートした。

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絶対に喋らない隣の席の謝花さんが可愛すぎる 灯色ひろ @hiro_hiiro

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