第26話
黒竜の鱗。
どうやらニルヴァーナさんによるととても高価な代物らしい。
全然知らなかった。
だって……。
「鱗欲しいなって言えばくれるからそんなに高価なものだとは思わなかったんです。特に、鱗の生え替わりの時期になるといっぱいくれましたよ?」
そう。
黒竜の鱗は簡単に手に入ったのだ。
時々食料を持って行ったり、たわいない話をしにいったりしたら、くれた。
薬の材料にしてみたいと言ったら、「じゃあ、ミーニャが必要になったときのためにとっておくね。」って快諾してくれたのだ。
「……誰がそんなに気前よくくれたっていうんだい?」
「そ、そうよ……。ミーニャその黒竜の鱗売ったら今頃、自分のお店くらい簡単に建てられていたわよ。」
ニルヴァーナさんもサーシャも目をまるくして驚いている。
「えっ……。ハル爺がくれたよ。」
ハル爺の爬虫類のような顔を思い出す。ギョロッとした目は最初は怖かったけど、仲良くなったらとても愛らしい目だなって思うようになった。
そういえば、ニクアルヤ街に来てからハル爺に会っていない。
ハル爺、私が会いに行かなくて寂しい思いしているのかな。
少しだけハル爺に会いたくなった。
「……ハル爺って誰だい?」
「……名のある冒険者さんかしら?」
二人ともハル爺に興味があるみたいだ。
そうだよね。
高価な黒竜の鱗をポンッと私にくれるような人がどんな人だかってとっても気になるよね。
「ハル爺はとても優しいんだよ。最初はちょっと見た目で怖いなぁって思ったけど、ハル爺が怪我をして動けなくなってたのを見つけてね、試作品の回復薬を飲ませたんだ。今にも死にそうだったけど、傷が全開したらとっても元気になったんだよね。ハル爺元気かなぁ。会いたいなぁ。」
ハル爺の優しい笑みを思い出して私もにっこりと笑った。
初めてハル爺に会ったときはハル爺は大けがをしていた。そのハル爺の怪我を私が治したことで、ハル爺と私は仲良くなったのだ。
回復薬ってほんとすごいよね。
「そ、そうかい。大丈夫なんだろうね?そのハル爺とやらは……。」
「会いたいなら会いにいけばいいじゃない。その代わり私もついていくわ。ミーニャのことをたぶらかそうとしている好色爺じゃないか確認しなきゃっ!」
ニルヴァーナさんもサーシャもハル爺のことを怪しがっているようだ。確かに、一枚金貨何百枚もする鱗をほいほいタダでくれるのだから怪しまれてもおかしくはないかもしれない。
サーシャが同じように高価なものをいっぱいもらってたら、ちょっと怪しいと思ってしまうし。
「あーーー。ハル爺は、そんな人じゃないから安心して。たぶん、ハル爺は私にあげられるものが鱗しかないと思ってるんじゃないかなぁ。それに、たぶんハル爺もまさか鱗がこんなに高価だったとは思ってないんだと思う。……たぶん。」
ハル爺ってそういえば今何歳くらいなんだろう?けっこう長生きしているみたいだから。
でも、長生きしているってことは鱗が人間たちに高値で取引されているって知ってったんじゃないかと、二人に言われて思ってしまった。知ってたらそんなにほいほいくれない、よね……?
少しだけ不安になってしまう。
「……えっと、そうだね。ギルドでお金になりそうな仕事も見つかったし、しばらくはニクアルヤ街にいるつもりだし……。ちょっとハル爺に挨拶してこようかな。……心配してハル爺がニクアルヤ街まで来たら大変だし。」
ハル爺少し過保護なところあったし。
心配かけないように、ニラナイヤ村を出る時に挨拶せずに出てきてしまったし。だって、ニラナイヤ村のユライラさんに追い出されたなんて知ったらハル爺が心配しちゃうと思うし。
でも、なにも言わずに出てきた方がハル爺に心配させてしまっているかもしれないと今更ながらに気がついた。
「そうね。私、ついていくからね!」
「そうだねぇ。二人だけだと心配だし、私もついていかせてもらおうかな。」
サーシャもニルヴァーナさんも付いてくる気まんまんのようだ。
でも、サーシャはいいとして、ニルヴァーナさんは大丈夫かなぁ。
「サーシャは大丈夫だと思うけれど、ニルヴァーナさんはここで待っていてください。」
「なぜだい?」
「……ハル爺はニラナイヤ村の山頂に住んでいるんです。山頂までの道のりは厳しいから、正直体力的に……。」
ニルヴァーナさんは若々しく見えているが、結構な年だ。山道は足腰にキツいと思うんだよね。
「ニラナイヤ村の山頂っ!?」
「まさかっ!そんなとこに人なんて住んでるわけないじゃないっ!?」
ニルヴァーナさんもサーシャも目を丸くして驚いている。
確かに、山頂なんてあまり行くようなところでもないしね。
私だって、回復薬の材料になにか良い材料ないかなって思いながら山に入って夢中になっているうちにいつの間にか山頂までたどり着いてたわけだし。普通、山頂まで行こうとは思わないよね。
「うん。だからね、サーシャは大丈夫だと思うけど、山頂までの道は険しいからニルヴァーナさんにはちょっとキツいかなって思って。」
申し訳なさそうにニルヴァーナさんに謝る。
でも、無理して途中で怪我でもされたら申し訳ないし。
「それどころの話じゃないわよっ!!」
「そうじゃ!!なんでそんなに危険なところにっ!封じられた森の比ではないほど危険な場所だって知らないのかい!?」
あ、あれ……?
ニルヴァーナさんもサーシャもすごい剣幕でまくしたててくる。
ニルヴァーナさんもサーシャもなにか勘違いしていないだろうか?
私の言っている山頂は、ハル爺がちゃんとに管理しているから全然危なくないのに。
もしかして、他の山と勘違いしてるんじゃあ……?
「えっ……。私の言っている山はハル爺の管理が行き届いているから安全だよ。サーシャもニルヴァーナさんもどこか他の山と勘違いしているんじゃない?」
確かにあの山も、ニラナイヤ村の人たちは入っていこうとはしなかったけどさ。ちゃんとにハル爺が管理してるから危ないことなんてなにもないんだよね。まあ、そんなことニラナイヤ村の人に言っても信じてくれないから言わなかったけど。
「……ニラナイヤ村の側の山ってさ、バルバトス山じゃないのかい?」
ニルヴァーナさんが疲れたような顔をしながら確認してくる。
「うん。そうだよ?安全だよ?」
ハル爺が管理しているのはバルバトス山だ。
なんだ。ニルヴァーナさんもサーシャもバルバトス山のこと知ってたんだ。
「「バルバトス山のどこが安全(なんじゃっ!)なのよっ!」」
二人の叫び声が部屋の中に響いた。
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