第25話
「…………ミーニャ、回復薬の基本の材料は覚えているかい?」
ニルヴァーナさんはしばらく固まったのち、震える声を絞り出して尋ねてきた。
回復薬の基本材料。
これは薬師なら誰でも知っているものだ。
薬師見習いはまず基本の材料で回復薬を作成する。それが成功すると独自に回復薬の効果を高めるために、他の効果の高い素材を配合していくのだ。
「もちろん。薬草ネッコリーダーの葉と蒸留した水に、ハッチーの蜂蜜ですよね。」
私は自信満々に答える。
「……あっているな。ミーニャの回復薬にはそれらは含まれているのかい?」
「いいえ。ネッコリーダーくらいですかねぇ。」
「…………なぜだい?」
ニルヴァーナさんの問いに答えると、ニルヴァーナさんが呆気にとられたような顔で聞き返してきた。
「ネッコリーダーは簡単に手に入りましたが、蒸留した水はただの水なんだし入れなくても問題ないかなぁと。それに水を入れたら回復薬の効果が薄れそうじゃないですか。あと、ハッチーの蜂蜜ですよねぇ。これは手に入りやすい材料ですけど、ハッチーの巣を壊して蜂蜜を採るんですよ?巣の中にはハッチーの幼虫がいるんです。可哀想じゃないですか。ハッチーの巣を壊すだけじゃなくて、ハッチーの幼虫まで犠牲にするだなんて……。ああ、ハッチーが可哀想。ハッチーがなにをしたって言うのぉ……。と、思うと私には使えません。」
ハッチーはとっても可愛いんだよ。首回りのふわふわな真っ白な毛がとても可愛い。眼だってまんまるだし。額の触覚もとっても可愛らしいじゃないか。危害を加えない限りは攻撃してこないしさ。
飛んでる姿をみたり、花の蜜を吸っている姿を見るのはとっても癒やしになるのだ。
そんな可愛らしいハッチーを犠牲にしてまでハッチーの蜂蜜を入手しようとは思えない。
「……あんたねぇ。」
ニルヴァーナさんが頭を抱えてしまった。
なにがいけなかったんだろうか。
「……ミーニャ。基本は守ろうよ。」
サーシャは疲れたように呟いた。
☆☆☆☆☆
「で?私にはカプリンやガマガエルの油を回復薬に入れるなんて聞いたことがないんだが?まあ、蚯蚓は薬効があるからたまに聞くが……。」
「カプリンは血流を良くする効果があるんですよ。血流を良くすることで回復効果を高めています。だから、いつも5本くらいいれています。ガマガエルの油はカプリンが辛いのでそれを緩和させるために、どろっとした油を入れて飲みやすくしています。」
しばらく経ってからニルヴァーナさんが気を取り直したように尋ねてきたので、私はそれぞれの素材を入れる理由をニルヴァーナさんに伝えた。
「……もう、どこから突っ込めばいいのかわからなくなってきたが……。ミーニャ、本当にカプリンは5本も必要なのかい?カプリンという香辛料の話は聞いたことがあるが、この国の香辛料の中で一番辛い香辛料と言われている。爪の先ほどの量でも相当辛いと聞いたが……。」
「……?効果が高いからいっぱいいれればもっともっと効果が高くなるかなって思いまして。」
「おばかっ!?効果が高くなるっていったって限度ってもんがあるだろう。いっぱいいれて効果が上がったっていう検証はあるのかい?」
私はニルヴァーナさんの問いに乾いた笑いを返す。
「……まさか、効果の検証もせずに大量にカプリンをまぜた、と?」
「……うっ……はい。」
効果の検証ってそんなに細かくやらないよぉ。いっぱい入れた状態で効果を確認したら普通の回復薬より効果がよかったからそれでいいやって。
「……はあ。まずは、カプリンの最低限の量を検証すべきだね。時間はかかるけど、カプリンを使用する量が減れば味が改善するんじゃないかい?」
「そ、そうですねぇ……。」
ニルヴァーナさんの言うことは確かに一理ある。
カプリンの最小量がわかれば、味は改善するかもしれない。それに、カプリンの採取量も減るから私の負担も減る。カプリンにも優しいだろう。
ただ、すっごくめんどそうだけど。
「で?次はガマガエルの油だ。これは絶対必要なのかい?ガマガエルの油の臭いは酷いものじゃないか。ガマガエルの油が使用されていたら臭いも、見た目もどろっとして悪くなるのはわかった。濁ったような色になるのも理解できたよ。」
「ええと……。カプリンの辛味を抑えるためにはいろいろ試してみましたが、ガマガエルの油が一番効果があったんですよねぇ。」
ガマガエルの油自体に回復薬の効果を高めるような効能はない。たぶん。
ガマガエルの油を入れたものと入れないものとで検証はしてみたが、辛すぎて飲めなくなるか、辛さが多少弱まって臭いや飲み込むのが辛くなったくらいの違いしかなかった。
だから、多分回復薬の効果を高めるような効能はないはずだ。
「……わかった。なら、カプリンを最低限の量にしてからガマガエルの油を入れるか入れないか検証する必要があるね。もしかしたらカプリンを最低限の量にすれば、ガマガエルの油じゃなくて他の素材で代用できるかもしれないね。」
「……おっしゃる通りですね。」
ニルヴァーナさんの言葉は正論すぎてぐぅの音もでなかった。
「で?エドワードを治した回復薬の材料はそれだけじゃあないよね?この分だとさらにあり得ない素材を使っていそうなんだが……。」
確かにエドワードくんを治した回復薬はさらに材料をプラスしたものだ。
「えっと……確か双角のオーガの角を粉末にしたものと、一角オークの肝と、黒竜のうろこをけずったものに……。」
「ちょっと待ちな……。」
エドワードくんに使った回復薬は特別なものだ。いろいろな素材を入れてみて偶然できあがったようなものだ。
つらつらと材料を思い出しながら口に出していると、またもやニルヴァーナさんが頭を抱えてしまった。
「どうしたんです?やっぱりまずい素材がありましたか?」
「……素材が稀少すぎる。黒竜のうろこなんてどうやって手にいれたんだいっ!!というか、黒竜のうろこなんて1枚でも金貨数百枚はくだらない代物だろうっ!!」
「え?そんなに、高価、だったの……?」
「……え?」
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