第24話


「あー……そうそう。冒険者ギルドから依頼もあったんですよ。私の作った魔物避けの薬が良く効くからって、冒険者ギルドから魔物よけの薬の納品依頼が来たんです。ひとまず100個ほど納品することになりました。サーシャには、双角のオーガにも効力のあったクッキーの納品依頼が来てます。こちらも、100セットほど。」


「……そうかい。それは、よかったね。」


 ニルヴァーナさんは疲れたように頷いた。


「あの……それで、えっとぉ……。」


「なんだい?」


 なんて切り出すべきか迷っているとニルヴァーナさん待ちきれなくなったようで、問いかけてきた。私はサーシャと顔を見合わす。

 サーシャは私と目を合わすと、ぶんぶんと首を横に振った。


「えっ?でも……ニルヴァーナさんには言っておかないと……。」


「そうだけど……でも……。」


 言いづらいのはわかる。だけど、いつかは言わないといけないのだ。

 言うのならば早く言った方がいいと思う。ニルヴァーナさんにはいつも迷惑ばかりかけていたし。


「……お金を稼ぐあてが出来たから、ここから出て行くと言うのかい?」


「えっ……。」


「な、なんで……。」


 言いよどんでいたことをニルヴァーナさんはぴたりと当ててみせた。

 サーシャも私も言い当てられたことに驚きを隠せないでいる。


「冒険者ギルドからは定期的に納品依頼が来る予定なんだろう?双角のオーガにも効く魔物避けやら、毒餌なんだ。定期的な需要が求められるだろうよ。それに、今までBランク以上に効果のある魔物避けも毒餌も存在しなかったんだ。金額的にもそれなりのものが見込まれるだろう。そうなれば、必然的にここを出て行きたいというのは簡単に予想できる。ここを出て王都にでも、行くのかい?王都にも需要はあるだろうし。王都なら、より多くの数の納品を求められるかもしれないしね。」


 ニルヴァーナさんは流石に鋭い。冒険者ギルドからの定期的な納品のことまで簡単に言い当てた。

 ただ……。


「王都に行く予定は今のところありません。ニクアルヤ街で魔除けの薬をギルドに納品しながら、一人前の薬師を目指しますっ。」


「私もっ。王都には行きません。ニクアルヤ街で一人前の菓子職人を目指します。」


「えっ?じゃあ、なんでここを出て行くんだい?」


 王都にはいかず、ニクアルヤ街で薬師を目指すというとニルヴァーナさんを更に驚かせてしまった。


「……ニルヴァーナさんにご迷惑をおかけしているからです。私が作る薬ってどれも酷い臭いですよね。だから、迷惑をかけないように、と……。」


「そんなこと気にしなくていいんだよ。もう、慣れた。」


「……でも、悪臭ですよね。いつも申し訳ないと思っていたんです。」


 申し訳なさそうに告げると、ニルヴァーナさんは大きな大きなため息を一つ吐いた。


「ミーニャのことはあたしの弟子だと思っているんだ。弟子が何をしようが私はなんてことないよ。」


「え?私のことを弟子だと、思っていてくださったんですか?」


「……弟子でもない薬師見習いを住み込みで雇うものなんていないよ。言ってなかったっけ?」


「……言われてませんよ。」


 ずっとただのやっかいな居候だと思われていると思っていた。まさか、弟子だと認めてくれていただなんて。思わず嬉しくなる。


「それに、ミーニャの薬はどれもまだまだ売りに出せるようなもんじゃないだろう。まあ、魔物よけは需要があるみたいだが、一番重要としているのは回復薬を売り出すことなんだろう?」


「あ、は、はいっ!」


「なら、まだまだ独り立ちは難しいね。サーシャちゃんと協力してみろとは言ったけど……あたしも少しはミーニャのことを一人前の薬師として育てていかないとね。」


「ありがとうございますっ!」


「それにはまず、回復薬の一般的な材料はなんだかわかるかい?ミーニャの回復薬は効果は確かなものだ。ただ、臭いが酷い。見た目も酷い。材料か、手順に問題があると思われるのだが……。」


 ニルヴァーナさんは私の回復薬について意見をつらつらと述べる。


「……そうかも、しれません。サーシャのお菓子には普通では考えられないイエローギフトが使われていました。イエローギフトも正確に処理すればとても美味しい果実ですが、処理が失敗すれば猛毒です。サーシャと私が似ているのなら、もしかしたら手順や材料になにか問題があるのでは、と私も思いました。」


 サーシャのお菓子作りの課程を見て、私は一つの仮説に行き当たった。

 私は薬になる素材や毒になる素材に詳しいからサーシャが使っていたイエローギフトに気がついた。たぶん、私も師匠から基礎的なところは教わったけれど、独自に効果を高めるためにあれこれ素材を追加したりしていた。きっと、この素材の処理がいまいちだったのだろう。


「……正直な話、ミーニャの作る回復薬の課程を見せてもらったっけど、私にはちんぷんかんぷんだったわ。お菓子作りには使用しないような素材ばっかりだったもの。」


 サーシャは私の回復薬の作成方法を思い出して眉間に皺を寄せた。

 確かにお菓子作りでは使用するはずがない素材だったことは認める。でも、薬効を高めるための素材ばかりなのだ。


「そうかい。確かに回復薬の材料はあまりお菓子作りには使用しないかもしれないね。」


「本当よ!蚯蚓とかカプリンとかいうすっごく辛い香辛料いれたり、ガマガエルの油なんて入れ出すんだからっ!!正直、あの回復薬の作成過程見てたら回復薬を使用するのが嫌になったわよ。」


 サーシャが私の回復薬の作成過程を思い出して、顔を青くしながらぶちぶちと文句を言っている。


「あはは。効果は保証するよ?」


「カプリンッ!?ガマガエルの油っ!?蚯蚓ぅ!?」


 ニルヴァーナさんはサーシャの言った回復薬の材料に驚いたように声を上げて目を見開いた。


 あ、あれ?なんで、ニルヴァーナさんは驚いているんだろう。

 どの材料も回復薬の効果を高めるにあたって必要なものなのに。

 私は驚きながら、ニルヴァーナさんを見つめた。

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