第22話


 冒険者ギルドでは大変な目にあった。

 なんとか、ギルドマスターにお願いして冒険者登録を完了させ、双角のオーガの討伐の報酬も受け取ることができたが、その場にいた人たちによってもみくちゃにされるし、質問攻めにされるしでもう当分冒険者ギルドには行きたくない。

 ただ、ギルドマスターからは魔物よけの薬の大量受注があった。ちなみにサーシャにはクッキーの大量受注があったのは言うまでもない。

 補足しておくと、魔物よけの薬を試してみようとして数人が匂いに昏倒したり、サーシャのクッキーの匂いが美味しそうで思わず食べてしまった人がいたりとちょっとした騒動があった。まあ、どちらも大事にはいたらなかったので良しとする。


「なんか、急にお金がいっぱい手に入ったよね。」


「そうね。私のクッキーもすごい売れ行きだわ。……毒としてだけど。私はお菓子を売りたいのに。なんか違っていくわ……。」


 冒険者ギルドから出た私たちはニルヴァーナさんの薬屋に向かって並んで歩いている。

 話題はもちろん、冒険者ギルドで受注した魔物避けの薬と、クッキーの話だ。


「これだけあれば、そう遠くないうちに自分のお店持てちゃうかもね。」


「……そうね。でも、私はみんなが美味しく食べてくれるお菓子を作りたいのよねぇ。」


「……そりゃあ、私も皆が一つ持っていれば安心と思えるような回復量で皆が使いやすいと思うような回復薬を売り出したいよ。」


 お金が入ることはとても嬉しい。

 だけど、なんだか本来の趣旨とは違ってしまってきているのが、どこか物悲しかった。


「でも、お金があればいろんな素材が手に入るし。薬の研究もお菓子の研究もしやすくなると思うんだ。ニルヴァーナさんにも迷惑かけずにすむし。」


 ニルヴァーナさんの薬屋を出るというのはかなり大きな進歩だと思う。

 お金がないからニルヴァーナさんのところで間借りしているが、私が薬の研究をしていると毎回部屋中を臭くしてしまい、ニルヴァーナさんに申し訳ないと思ってしまうのだ。

 自分だけの研究室があればニルヴァーナさんに迷惑をかけることもない。


「そうね。ミーニャの回復薬はとっても酷い匂いだものね。時々、ニルヴァーナさんの薬屋が閉まっているのって、ミーニャの回復薬が原因でしょ?」


「……うっ。」


 サーシャの言うとおりである。

 時々大失敗をしてニルヴァーナさんのお店の方まで酷い匂いになってしまうことがあるのだ。ニルヴァーナさんの消臭剤を使ってもすぐには匂いがとれないほどの。


「ねえ、よかったらさ。一緒に住まない?」


「え?」


「良い考えだと思うのよ。私に足りないものをミーニャは持っている。ミーニャに足りないものは私が持っていると思っているわ。今のままでもいいけど、一緒に暮らすことでさらに私たちは進化していけると思うのよ。」


「……サーシャに迷惑かけちゃうよ?薬の実験するんだよ?臭くなっちゃうよ?」


 サーシャの提案はとても嬉しいことだ。

 だけれども、回復薬を作る課程で酷い臭いが発生する。

 それがサーシャの迷惑になってしまうことを私は危惧している。


「構わないわ。だけど、ミーニャも私の作ったお菓子の試食をするのよ?」


「うん。それは大丈夫。」


「なら、決まりね。冒険者ギルドからの依頼された分を納品すれば二人で暮らせるだけの金額はもらえるわよね。」


「そうだね。依頼され多分を納品して一緒に住む家を探そう。サーシャ。」


 そういうことになった。

 思っていたのとはちょっと違うけれど、なんとか暮らしていけるだけのお金は稼げそうだ。

 きっとサーシャと二人なら、本来の目的も達成できると思う。たぶん。きっと。そのうち。


 私たちの未来は希望に満ちあふれている。


「あ、そういえばミーニャ。冒険者登録したんだよね?」


「うん。そうすれば討伐報酬もらえるから。」


「冒険者ランクはいくつだったの?」


「ほえ?Cランクだって。」


 サーシャに聞かれたので、素直に答える。

 でも、サーシャはその言葉に驚いたような声を上げた。


「うそっ!だって、あのルークさんがBランクだよ。ミーニャはルークさんより全然強いじゃん。」


 まあ、確かにルークさんが私より上のランクっていうのはちょっと気になった。でも、仕方が無いギルドの方針だから。


「うーん。私には実績がないからCランクなんだって。ギルドのクエストをこなして、ランクアップ試験を受ければランクを上げてくれるみたいだよ。」


 ただ強ければ良いってだけじゃないようだ。

 まあ、ランクなんていくつでも構わないんだけど。

 冒険者として名を馳せたいわけじゃないし。討伐報酬がもらえればいいだけなのだから。


「ま、まあ。そうね。でも、ルークさんよりランクが下だというのはとっても引っかかるわ。」


 サーシャはニルヴァーナさんの薬屋に着くまでずっと、ルークさんの方がランクが上だということについてぶちぶちと文句を言っていたのだった。


 ちなみにルークさんは私がCランクだと知って冒険者ギルドで頭を抱えて蹲ってしまったので、その場に置いてきた。サーシャ曰く立ち直るのに時間が必要だろうから、そっとしておこうということだった。


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