第21話


 私たちはそれから何度か魔物に遭遇した。だが、狩る必要もないので、サーシャが作ったクッキーを投げたり、私が作った魔物避けの薬で対処し、そのまま封じられた森の出口へと足を進めた。

 

「は、ははっ……。まったく、規格外なお嬢さんたちだなぁ……。」


 ルークさんが私たちの後ろで何やら呟いたが私たちには聞き取ることができなかった。

 封じられた森を出た後、サーシャが街の冒険者ギルドに私の捜索願いのクエストを出していたことが判明したので、冒険者ギルドに行くことにした。


「……緊急クエストの報告にきました。」


 私もサーシャも冒険者ギルドに入るのは初めてだ。同じ街にある施設だから場所は知ってはいるが、冒険者とは関わりのない私たちは冒険者ギルドに関わることがなかったのだ。特に依頼したいことなんてなかったし。

 と、いうわけでここはルークさんに任せることにした。

 一応、ルークさんはクエストを受注して達成したということで報告することになった。ルークさんはずっと乾いた笑みを浮かべていたが、クエストを受注した人がいるならば依頼を取り下げるより依頼を達成とした方が良いという判断だ。

 それに、一応ルークさんは私を見つけてくれたわけだし。


「……ああ、そうだろうな。Bランクの冒険者には封じられた森は辛いもんがあるよなぁ。しかも、あんたソロだったよな。悪かったな緊急クエストをお願いしてしまって。他に誰も受けられるような冒険者がいなかったんだよ。大丈夫だ。この依頼は高難易度の緊急クエストだ。失敗したって、キャンセルしたってペナルティはないから安心しな。ああ、怪我はしていないか?」


 冒険者ギルドの受付のようなところにルークさんは行くと、カウンターの中に立っていた大柄な男の人がルークさんに近づいてきて心配そうにルークさんのことを見ながら話しかけてきた。


「え……。あ、いや……そ、そのっ……。」


 ルークさんは歯切れが悪い受け答えをする。

 はっきりクエストをクリアしたと言えばいいものなのだが。私たちの方をチラチラ見ているので、私たちのことを気遣っているのか、自分だけの手柄とすることを、私たちに悪いと思っているのか。


「怪我をしたのかっ!あそこの魔物たちは凶暴で凶悪だからな。やっぱりBランクの冒険者にはまだ早かったよな。すまない。冒険者ギルドの治療施設を使うといい。今回は流石に悪かった。ギルドマスターであるオレの権限で、今回の治療費は無料にするさ。さあ、まずは傷を癒やそう。それから話をしようじゃないか。」


「あ、いや……。そうでは、なくて……。えっと、だなぁ。その……ミーニャというお嬢さんは見つかったんだ。」


「っ!?ミーニャ嬢ちゃんが見つかったのかっ!よかった。命はなくとも遺体だけでも見つかったというのはなによりだ。そうか、そうか……。ありがとうな。Bランクなのに、よくやってくれた。クエストは達成扱いにしておくから安心するといい。封じられた森に女の子一人で入って生きて帰れるはずなんてないんだよ。だから、遺体を発見できたというだけでもクエストはクリアになるからな。」


 どうやら大柄な男の人はこの冒険者ギルドのギルドマスターだったらしい。

 それにしても、このギルドマスター人の話を最後まで聞かない人のようだ。いや、ルークさんの歯切れが悪いからなのかもしれないけど。

 でも、私のことを死んだ扱いするのはいただけない。


「あの……お話中割り込んでしまいすみません。私が、ミーニャです。」


 黙っていられなくて、ルークさんとギルドマスターの会話に割り込むことにした。

 人のことを遺体呼ばわりしてほしくない。だって、私は生きているのだから。


「「「っ!!!!!?」」」


 私が緊急クエストの対象となっているミーニャだと言えば、ギルドマスターを始めギルド内に居たギルドの職員や、たまたま冒険者ギルドに顔を出していた冒険者たちが一斉に視線を私に向けた。


「……あー。実は封じられた森に入ったのは間違いだったということでよろしいかな?」


 ギルドマスターはしばらく考えた後、私に向かってそう尋ねてきた。


「いいえ。私は確かに封じられた森におりました。そこに、ルークさんとサーシャが迎えにきてくれただけです。」


「はっ!!?じょ、冗談はダメだよ。ミーニャの嬢ちゃん。いや、あり得ねぇって。だって、封じられた森だろう?ミーニャの嬢ちゃんは冒険者でもなんでもないただの薬師見習いだろう?ニルヴァーナさんからはそう聞いているぞ。」


 私がそう答えるとギルドマスターが驚いたようにカウンターから身を乗り出した。

 顔が近い。

 そんなに近距離で大声をあげられるとツバが飛んできそうで嫌だなと、私は眉を顰めた。

 周囲は私の返事にざわついているようだ。


「はい。私は薬師見習いです。」


「そうだよな。なんで、薬師見習いの嬢ちゃんが、封じられた森に入って生きて帰ってこれたんだ?しかも、無傷のように見えるのだが……。」


「ええ。無傷です。あの森の魔物たちはあなたたちが言うほど強くはありません。私の作った魔物避けの薬があれば魔物は近づけませんし、サーシャの作ったクッキーで魔物を無力化できます。」


「「「「「はあっ?」」」」」


 私がそう言えば、冒険者ギルド内にいた全員の視線が私とサーシャに注がれる。


「あ、そうそう。ルークさんから双角のオーガの素材は売れると聞きました。あと、双角のオーガの耳は討伐証明になるから報酬がでるとか。今から私が冒険者登録しても、報酬はでますか?それとも冒険者登録したあとに討伐しないとダメなのでしょうか。」


 周りの反応をそのままに私は冒険者ギルドのカウンターに双角のオーガの耳を2つ置いた。


「「「「「はあっ!!!?」」」」」


 ニクアルヤ街の冒険者ギルドは私の発言でなぜだか大混乱に陥ったのだった。

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