第20話
「……ミーニャが一人で封じられた森に私を探しに入ってったからよ。私、ニルヴァーナさんの薬屋にいたのよ。それで、薬屋から出たらミーニャが封じられた森の方向に走って行くのを見たの。なんでだろうって思って家に帰ったらガマ爺が、ミーニャが私を探していたって言ったわ。だから、なんで勘違いしたのかわからないけれど、ミーニャが私を探しに一人で封じられた森に入ったんじゃないかって思って探しに来たのよ。」
「え?え?あ、あれ?私はサーシャが私にイエローギフトを食べさせちゃったから封じられた森で自殺をするんじゃないかって思って……。あ、それに、ニルヴァーナさんの薬屋には私も行ったの。でも、どんなにドアを引いても鍵がかかってるのか開かなくて……。」
「……あのね、ミーニャ、ニルヴァーナさんの薬屋は内開きよ。引いたって開かないわ。押さなきゃ。」
「え?あ、あれ??あ、あはははは……。勘違い?だったようで。ご、ごめんね。サーシャ。心配かけて?」
どうやら私は勘違いして一人で突っ走ってしまったようだ。
一人で勘違いして突っ走ってサーシャを巻き込んでしまった。それに見習い冒険者のルークさんも。
サーシャとルークさんに迷惑をかけてしまったことに私は謝る。
「無事だったから、いいわよ。」
サーシャはぶっきらぼうに言うと私から目を逸らした。
「うん。ごめん。ありがとう。会えてよかった。えっと、じゃあ、魔物の素材を回収したら帰ろっか。って、サーシャ怪我はない?大丈夫?回復薬あるよ?飲む?」
「……怪我なんてするわけないでしょ。いらないわよ。」
「うん。うん。よかったサーシャ。よかった。」
私はサーシャの身体を隅々まで確認してサーシャが傷一つ負っていないことに胸をなで下ろした。
「ルークさん、まだ見習い冒険者なのにサーシャのことを守ってくださってありがとうございました。きっとルークさんは数年たったら立派な冒険者になりますね。頑張ってくださいっ!」
「ちょっ!ミーニャっ……。」
「あ、あはははは……。見習い、見習いかぁ。そっかぁ……。」
サーシャが慌てたような表情をする。ルークさんはなにやら顔を引きつらせて笑っている。
なんでだろう。
「あ-。えっとだなぁ。まあ、なんて言うかだなぁ……。あの、双角のオーガを倒したのはお嬢さんなのか?」
ルークさんは歯切れ悪く私に確認してきた。
「あ、はい。本当はサーシャを探していたので倒す予定じゃなかったんですが、咄嗟にナイフを投げたので思わず致命傷を負わせてしまいました。」
隠すようなことでもないので、私はルークさんにありのままを伝える。
すると、ルークさんは「そっかぁ……。やっぱり、そうだったのかぁ……。」なんて言いながら俯いた。
もしかして、ルークさんはこの魔物に勝てなかったのだろうか。
ここは冒険者の先輩として……って私、冒険者じゃなくて薬師目指してるんだけど……アドバイスをしておこうかな。
「魔物にはそれぞれ致命傷を与える場所がありますので、そこを狙ってあげれば私のような非力な女性でも魔物に致命傷を与えることができます。実戦経験を積んでいけば、どこがその魔物の弱点なのかわかるようになりますよ。ルークさんはまだまだ見習いなんですから、焦ることなく一つずつ学んでいけば良いのです。焦ることはありません。」
「は、ははっ……。」
ルークさんを励まそうとしたのだけど、なぜかルークさんは落ち込んだように肩を落としてしまった。
いったいどうしたんだろうと思って、ルークさんに近づこうとしたがサーシャが私の肩を掴んで止めた。
「そのくらいにしてあげて。ミーニャ。ルークさんはBランクの冒険者だそうよ。」
サーシャの言葉に私は驚いて目を見開いた。
まさか、この隙だらけの冒険者がBランクの冒険者だったなんて。
もしかして、隙を見せているのは敵を油断させるためだったのだろうか。
Bランクの冒険者に対して見習い冒険者呼ばわりをしてしまったことに私は焦る。
「ご、ごめんなさい。私、そんなつもりは……。えっと、ルークさんは敵を油断させるのが上手なんですね。」
「……ミーニャ、もうそれ以上はルークさんに言葉をかけないであげて。お願いだから。ルークさん浮上できなくなるから。」
私の言葉はルークさんには不適切なものだったらしい。
私はもう一度ルークさんに謝る。
これ以上ルークさんに不要なことを言っても仕方が無いので、魔物の解体をすることにした。
ザクザクとナイフを使って魔物を解体していく。薬の材料として必要なのは、魔物の目玉や骨、角などだ。内臓も薬の材料にはなるが、保存が難しい。
薬の材料として必要な部分を剥ぎ取っていると、ルークさんが隣にやってきた。
「な、なあ。お嬢さん。双角のオーガを解体しているみたいだが、何に使うんだ?」
「薬の材料です。この魔物、双角のオーガと言うんですか。双角のオーガの素材を使うと効果の高い薬ができあがるんです。」
「そ、そうか。なあ、耳は切り取らないのか?」
「耳ですか?耳は薬の材料にならないので不要です。」
「そ、そうか。あのな、知らないようだから教えておくが……。お嬢さんは冒険者ギルドに登録した方がいいと思うぞ。双角のオーガの耳は討伐証明になるんだ。耳を冒険者ギルドに持って行くと、報奨金が支払われる。双角のオーガだとだいたい銀貨80枚にはなるな。」
「……そうなんですか?」
「ああ。今からでも冒険者ギルドに登録するといい。」
「そうですね……。考えておきます。」
「ああ。そうしてくれ。是非、そうしてくれ。お嬢さんのように、双角のオーガを一撃で討伐できる冒険者なんて世界に5人いるかいないかだ。それだけお嬢さんは冒険者として力がある。お嬢さんに冒険者として活躍してもらうだけでも、助かる人たちは大勢いるんだ。」
「……私は薬師になりたいんですけどね。でも、お金もらえるんだったら考えてみます。お金があれば自分では採取できないような素材も手に入るかもしれませんし。」
「ああ。是非、そうしてくれ。お嬢さんだったらきっとSランクの冒険者になれるだろう。」
「……冒険者じゃなくて薬師になりたいんですけどね。」
ルークさんは親切に教えてくれた。
薬の素材にするだけではなく、双角のオーガの素材は冒険者ギルドに持って行くだけでもかなりの金額になると。特に、双角のオーガの皮は高値で買い取ってくれるらしい。
私が狩った双角のオーガは一撃で倒しただけあって、双角のオーガの皮が傷ついていないので相場よりも高値で取引してくれるだろうとのことだった。
ただ、お金になることはわかってはいるが、双角のオーガの皮だけでも相当な重さになる。私は非力なので、双角のオーガを冒険者ギルドまで運ぶことができないだろう。
「……持って行けないので、ルークさんにあげます。サーシャの護衛代だと思ってください。」
「え?いいのか。双角のオーガの皮だけでも、銀貨30枚にはなるんだぞ?」
「持って行けないので。」
「……お嬢さんは世間知らずだな。そういうときは、冒険者に運搬の依頼をすればいい。運搬の依頼は場所や重量等で相場は変わるが、この場所で双角のオーガの皮なら……そうだな。銀貨5枚ってとこかな。オレに渡すより、オレに運搬を頼んだ方がお嬢さんの儲けはでかいぞ。」
黙って受け取ればルークさんは大金を手に入れることができるのに、ルークさんはとても正直な人のようである。
「今回はルークさんにあげます。先ほども言いましたとおり、サーシャの護衛のお礼です。今後は運搬のお仕事をお願いするかもしれませんが。」
「ははっ。気前のいいお嬢さんだな。じゃあ、今回は遠慮無くもらっておくぜ。」
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