第18話


「あのっ!ついてこなくていいですっ!!」


「そうはいかないよ。戦えないお嬢ちゃん一人じゃこの封じられた森は危険すぎる。さきほども一角オークで危ない目にあったばかりだろう?」


 ルークさんはそう言ってミーニャを探す私の後をついてくる。

 ルークさんはミーニャが死んでるって言った人なのだ。正直ついてきて欲しくない。


「……ルークさんだって、一人じゃ一角オークを倒せないですよね?私のクッキーで一角オークが昏倒してたから倒せただけですよね?」


「うっ……。だ、だが……お嬢ちゃんは一角オークにトドメをさせなかっただろう?あのまま、もし一角オークが動けるようになったら危ないじゃあないか。」


 ルークさんは額に汗を浮かべながらそう言った。


「大丈夫です。私のクッキーを食べて昏倒した人は解毒剤がなければ3日間は苦しみます。これは実証済みだから確実です。」


 もちろん。魔物では試してみたことはないけど、人間相手だったら3日間は昏倒して苦しんでいたとガマ爺がこっそり教えてくれた。


「……そ、そうか。それじゃあ、一人でも逃げ切れた……か?い、いや、でも。でも、そんなに都合良くクッキーを魔物が食べるはずがないじゃないか。ほ、ほら。オレが魔物の隙を見て魔物にクッキーを食べさせるとか……。」


「一角オークは、私がクッキーを投げつけたら、クッキーの匂いに釣られて自分から飛びついていきましたので、その点は心配ないかと思います。」


「なっ……え?いや……そんなクッキーあったら冒険者に売れるじゃないかっ!!なんで売らないんだよ。そのクッキー喉から手が出るほど欲しがる冒険者は大勢いると思うぞ!」


 ルークさんは私が一角オークの方からクッキーに飛びついて行ったと言ったらとても驚いたように声をあげた。そして興奮したようにクッキーを売って欲しいと言い始めた。


「……私は美味しいお菓子を皆に喜んで食べてもらいたいんです。皆に毒を食べさせたいわけじゃないの。……でも、もしかしてこのクッキーがあれば冒険者さんが喜んでくれるの?」


「ああ!そのクッキーがあれば、一気に魔物への危険がなくなるじゃないか。とてもすごいクッキーだと思う。」


 ルークさんは手放しで私が作ったクッキーのことを褒めちぎる。

 でも私の心は複雑だ。

 私は美味しいクッキーを皆に食べて欲しいだけなのに。そう思ってお菓子作りをしてきたのに、魔物を退治するために使うだなんて……。

 だが、魔物は人間や動植物に悪さをする生き物?だ。

 魔物がいなくなれば、人間も動植物も安全を手にいれられるはずだ。

 私の作ったクッキーで誰かが幸せになってくれる。それが、魔物を倒す手伝いをすることで可能になるかもしれない。

 ちょっと抵抗はあるけど。


「なあ、ちょっとそのクッキーを見せてくれよ。」


「……仕方ないわね。」


 私はルークさんの言葉に頷いて懐からクッキーの袋を取り出して一枚取り出す。


「美味しそうな良い匂いだな。」


 袋から取り出しただけで、ルークさんが目を細めてそう言った。

 確かにクッキーはとても美味しそうな甘い匂いを発している。


「そうでしょ?食べてみる?」


「……毒なんだろ?」


「……ええ、そうね。でも、私は毒を作った覚えはないのよ。」


「……そ、そうか。」


 やっぱり私の作ったお菓子が毒だと言われるのは少し悲しい。私には毒を作りたくて作っているわけではないのだから。


「ぐぉぉおおおおおおおおおっ!!!」


「なっ!?」


「きゃっ!!」


 ルークさんがお菓子の匂いを嗅いでいると、木々の間から大柄な魔物が姿を現した。

 真っ赤な体躯に、額に大きな角が2本生えている。


「双角のオーガッ!?そんなものまでこの封じられた森に生息していたのかっ!!?」


 ルークさんが驚いたように声をあげる。

 双角のオーガ。

 先ほどの一角オークよりも強いのだろうか。


「……双角のオーガって強いの?」


「あ、ああ。AAランクの魔物だ。さっきの一角オークよりも堅いし、パワーもある。」


 ルークさんはガタガタと身体を震わせながら説明してくれた。

 やっぱりさっきの一角オークよりも目の前にいる双角のオーガの方が強いらしい。


「そう。ねえ、クッキーを投げつけてみてくれないかしら?」


 もしかしたら、双角のオーガにもクッキーの効果が有効かもしれないと思い、ルークさんに提案してみる。


「……あ、ああ。わかった。他に手立てはないしな。」


 ルークさんは戸惑いながらも、クッキー以外に目の前の双角のオーガから生還する手立てがないと思いなおし私の言うとおりにクッキーを双角のオーガに向かって思いっきり投げつけた。


「ああっ!!」


「そ、そんなっ!!ノーコンだなんてっ……。」


 思いっきりルークさんが投げたクッキーは双角のオーガから2メートル以上も離れた場所に着地した。

 私はルークさんにお願いしたことが間違いだったと、もう一枚懐からクッキーを出そうとした。


「おおっ!!すごいなっ!!」


 だけれども、その前に双角のオーガはルークさんが明後日の方向に投げたクッキーに視線を向け、クッキーに向かって勢いよく突っ込んでいった。そして、拾ったクッキーにフーフーと息を吹きかけて土埃を払うと美味しそうに口に入れて咀嚼を始めた。

 地面に落ちたクッキーの埃を払うように息を吹きかけるだなんて、なんて人間ぽい動作をするのだろうか。


「お嬢ちゃんのクッキーすごいなっ!離れた場所に落ちても効果があるだなんてっ!!」


 ルークさんは興奮したように言いながら双角のオーガをジッと見つめる。

 クッキーの効果が双角のオーガにも効けばいいのだけれども……。

 私は心配気に双角のオーガを見つめる。

 双角のオーガはクッキーを飲み込んだ後、こちらをジッと見つめてきた。


『ク……クレ。ソノ、クククク……クッキー、ヨコセ。』


「「しゃっ……しゃべったっ……。」」


 双角のオーガはしゃがれた声でクッキーをもっとくれと要求してきた。

 私たちは、魔物がしゃべったことに驚いてその場に尻餅をついてしまった。


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