第15話



「ちょっとミーニャどこに行くのっ!?」


 ニルヴァーナさんから解毒薬をもらって、店の外に出たらちょうどミーニャがなにやら叫びながら走って行くところだった。


「おや、ミーニャは元気になったのかい。よかったよ。解毒薬が必要なほどじゃなくて。」


 ニルヴァーナさんもミーニャが心配だったようで、走り去っていくミーニャの姿を見て安心したように呟いた。


「そうだけど……。なんで行っちゃったんだろう。元気になったなら私の家で待っていればよかったのに……。」


 ミーニャの走り去っていった方向をみつめる。

 あっちには何もないはずだ。何をそんなに急いでいたんだろう。

 今日、私と会う以外に予定があったのだろうか。


「……あの子は落ち着きがないところがあるからねぇ。」


「確かにそうだけど……。」


 ミーニャに何があったんだろうか。

 イエローギフトの毒はもう大丈夫なのだろうか。

 元気になったことは嬉しいけれど、心配でもある。


「まあ、そのうち帰ってくるよ。」


「……そうよね。今日はお騒がせしちゃってすみません。」


「いいのよ。でも、イエローギフトをサーシャちゃんが持っていたなんて驚いたわ。あの果物は適切に処理すればとろけるほど美味しいそうだけど、適切に処理できなければ猛毒だからね。気をつけるんだよ。」


「ええ。ちゃんとに処理できるようになるまで、イエローギフトは使わないようにするわ。」


「それがええ。」


 私はニルヴァーナさんに挨拶をして、お世話になっているガマ爺の家に戻ることにした。

 サーシャのことは気になるけど、走って行くほどの急用だもの。邪魔をしちゃ悪いわよね。







「おや、サーシャちゃん。お帰り。ミーニャちゃんには会えたかい?」


 ガマ爺のところに帰ると庭先で草むしりをしているガマ爺に会った。


「え?ミーニャ?会えたって言うか、走り去っていく姿をみかけたわ。」


「……ミーニャちゃん、血相を変えてサーシャちゃんを探しておったぞ。」


「えっ……。どこまで探しに行ったのかしら。」


 ミーニャが私のことを血相を変えて探していると聞いて、私は血の気が引いた。さっき、会ったときに無理矢理にでも掴まえておけばよかった。

 まさか、私を探していたなんて思わなかったのだ。


「ニルヴァーナさんの薬屋の方にいったと思うのだが……。」


「ええ。確かにニルヴァーナさんの薬屋の側であったわ。でも、不思議ね、薬屋の中にはミーニャ入ってこなかったのよ。」


「……どうしたのかのぉ。」


 私を探していたのはわかったが、なぜ薬屋に来なかったのだろう。

 でも、よく思い返してみると、私がニルヴァーナさんのところを出るちょっと前に薬屋のドアがガタッと音がしたような気がしたのだ。誰かが来たのかと思ったのだが、それがミーニャだったのだろうか。

 ミーニャが血相を変えて私をどこに探しに行くというのだろうか。

 

「……まさかっ!?」


 ミーニャが去って行った方向は街の外れだ。あのまま行くと街からでてしまうだろう。

 その先にあるのは、封じられた森だ。

 まさか、私が封じられた森にでも行ったと思ったのだろうか。

 でも、なんで……?

 疑問は残るが、もしそうだとしたならば、ミーニャが慌てる理由もわかる。いくらミーニャにとってたいした魔物ではないと言っても、封じられた森には魔物がいるのだ。

 私では魔物には対抗ができない。だから、ミーニャは私を助けるために封じられた森に血相を変えて私を探しに行ったのかもしれない。

 なんで、私が封じられた森にいると思ったのかはわからないが。


「心当たりでもあるのかの?」


「……封じられた森に行ったのかもしれないわ。なんかの誤解で私が封じられた森に行ったと思ったのかも。」


「っ!?それは大変じゃっ!!すぐにギルドに連絡して捜索隊をっ!!」


 ガマ爺は封じられた森と聞いて顔色を真っ青にした。

 封じられた森の魔物たちは強いのだからガマ爺が慌てるのも当たり前だ。


「そうね。ミーニャは封じられた森の魔物はたいして強くないと言っていたけど……。」


「そんなことあるわけがない。封じられた森の魔物はAランクの魔物がほとんどじゃ。一流の冒険者でもちと難易度が高い。ああ、でも、ギルドに連絡してもすぐに冒険者が集まってくれるかどうか……。じゃが、儂らでは太刀打ちすらできんからのぉ。」


 ガマ爺の言葉に私は焦りを感じる。

 いくらミーニャが大丈夫だと言っていたとしても、ミーニャは冒険者ではなくて薬師見習いなのだ。


「……ガマ爺は、ギルドに連絡して。私は、美味しいクッキーを作るわっ!」


「わかった。ギルドには儂が行ってこよう。」


 私も封じられた森に行かなきゃ。ミーニャを探しに。

 でも、戦う術を持たない私には封じられた森の魔物は脅威そのものである。なにも持たずに封じられた森に突っ込んでいくのは無策にもほどがある。

 だから私はクッキーを作ることにした。クッキーができあがる前に冒険者が集まればクッキーを持って一緒に行く。もし、クッキーができあがっても冒険者が集まらなければ、一か八かだけど、一人で封じられた森にミーニャを探しに行こう。

 私はそう決意してイエローギフトを手に取ったのだった。


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