第14話



「サーシャっ……。サーシャ、サーシャどこっ!?どこなのっ!?」


 サーシャが住んでいるガマ爺の家を飛び出す。

 外に出るとまだ日は高かった。たぶん、サーシャが家を出て行ってからそれほど時間は経っていないはずだ。まだ、サーシャに追いつけるはず。

 私はそう思って走り出す。

 サーシャがどこにいるかはわらかないのに。


「ミーニャちゃん。無事だったのかい。サーシャが血相を変えて走っていったから、どうしたんじゃろうと……。」


 途中で散歩していたガマ爺に会った。


「どこっ!!!はぁ……はぁ……。サーシャ、どこに行きましたか?」


 走っていたから息が上がってしまった。


「ん、ああ。ニルヴァーナさんの薬屋の方に走っていったようじゃ。」


「ありがとうございますっ!!」


 ガマ爺さんに教えてもらってニルヴァーナさんの薬屋に向かう。

 もしかして、サーシャは服毒自殺を企んでいるのだろうか。

 ニルヴァーナさんのところでは毒薬は売っていないはずだ。売っていないはずだけれども、薬と毒は表裏一体だ。

 正しい用法用量を守らなければ、薬は毒となる。


「サーシャ……サーシャっ……。」


 私はひたすら走る。

 サーシャがいるだろうニルヴァーナさんの薬屋に。私がお世話になっている薬屋に。


「ニルヴァーナさんっ!!サーシャ来てますかっ!?」


 息の荒いままニルヴァーナさんの薬屋のドアを開ける……。って、開かない!?鍵がかかっているの?

 ドアを押してもドアは開かなかった。

 ニルヴァーナさんがいない?

 私がニルヴァーナさんのところを出たときにはお店は開いていたのに。もしかして急用ができてお店を閉めているのだろうか。


「サーシャ……。どこなのぉ。」


 このままじゃあ、サーシャが自殺してしまうかもしれない。

 そう思うと涙が後から後から出てくる。

 でも、立ち止まってはいられない。


「もしかしたらっ!!」


 もしかしたら、封じられた森に行ったかもしれない。

 サーシャはあそこが危ない場所だと思っているから、もしかしたら封じられた森を選んだのかもしれない。どうしてそう思ったのか私にはわからない。

 でも、封じられた森にサーシャがいるような気がして走り出す。


「えっ!?ミーニャっ!!?ちょっと、ミーニャっ!?どこにいくのっ!!?ねえ、ミーニャ!?聞いてる?ミーニャ!ミーニャ!!」


 慌てていたから私は気がつかなかった。

 焦っていたから私は気がつかなかった。


 ニルヴァーナさんの薬屋のドアが内開きではなく外開きだったことに。

 そして、開いたドアからサーシャが出てきて私の姿を見つけて何度も私の名前を呼んで呼び止めようとしていたことも。。


 私は気がつかないまま、封じられた森に向かって全力疾走していた。


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