第10話



「よぉーし!サーシャもお菓子作ってみようよ。」


 私の回復薬は材料とか作成課程に問題があることがわかった。サーシャももしかしたらそうなのかもしれない。

 そう思った私はサーシャにお菓子を作ろうと持ちかけた。

 善は急げだ。


「う、うん。よろしくね、ミーニャ。」


「うんっ!まかせておいてね!」


 私たちはサーシャがお世話になっているというガマ爺さんのお宅に向かった。

 ガマ爺さんのところで台所を借りてサーシャとお菓子を作る予定だ。


「ねえ、材料はどうしているの?ガマ爺さんに買ってもらってるの?」


 現在サーシャは無職だ。

 少し前までは菓子職人見習いとして働いていたそうだが、いろいろとやらかして追い出されたらしい。こんなとこまで私と同じだなんてと思わず運命を感じた。


「ううん。そこまで面倒は見てもらえないから、街の外にでて材料を自分で採取してるのよ。衣食住までガマ爺に面倒をみてもらってるからね。流石にお菓子の材料まではお世話になれないわ。」


「そうなんだ。ってことは、封じられた森に入って食材を採取してるの?」


 ニクアルヤ街の近くには封じられた森なんていうたいそうな名前を持った森が広がっている。

 この封じられた森には回復薬などの薬の材料となる薬草や素材が多いので、私もちょくちょく採取にでかけている。

 もしかしたら封じられた森でサーシャに会っていたかもしれないと思うと胸が弾んだ。


「……そこ、危ないから入っちゃダメだって言われてるけど。高ランクの魔物が出るって話よ。」


「……え?」


「……え?」


 サーシャの言葉に私は首を傾げた。

 そんな私の様子にサーシャも驚いたように首を傾げる。

 私が封じられた森に入っても対した魔物いなかったけどなぁ。まあ、魔物も薬の素材になるから素材はもれなく回収しているけど。

 と言っても魔物一頭全部は持って帰れないから調薬に必要な部位だけを解体して持ち帰っている。残りの部分については、土に返すようにしている。


「危険なとこじゃないよ。魔物は確かにでるけど、強くなかったし大丈夫だったよ。……もしかして、森の奥に行くと危ないとかかな?」


「……え?もしかして、ミーニャは封じられた森に採取に行ってるの?」


「え、あ、うん。良い素材が多いんだよ。あそこ。」


「……もしかして、魔物の討伐もしてる?」


「え、あ、うん。魔物も薬の一部になるからね。必要な分だけ狩らせてもらっているよ。」


「……ミーニャだったのね。」


「なにが?」


 サーシャが深い深いため息をつく。

 今の会話のどこにため息をつくような要素があったというのだろうか。

 私は理解が出来なくて首を傾げる。


「最近、封じられた森の魔物が街に出てこなくなったって話が聞こえるのよ。前は一週間に一度は封じられた森から魔物が数体街に向かってきてるのが確認されてたっていうのに……。」


「へぇ-。そうなんだ。」


 知らなかった。封じられた森から時々魔物がニクアルヤ街に降りてきていただなんて。

 最近はそんなことがないってことは、平和になったのかな?


「……ミーニャ。あんた封じられた森にどのくらいの頻度で通ってるの?どのくらいの頻度で魔物を狩ってるの?」


 サーシャが真剣な顔で私に問いかけてくる。

 もしかして、封じられた森って狩っちゃ行けない魔物とかあるのかなぁ。


「んと……2、3日に一回くらいかなぁ。魔物は日によってバラバラだけど、一回につき2頭くらいかなぁ。そんなにいっぱいは狩らないよ。調薬に必要な分だけだよ。」


「……けっこう多いわね。で、魔物ってどんな魔物を狩ってるのかしら?」


 サーシャに更につっこんだ質問をされる。

 どんな魔物って言っても私よく魔物の名前覚えてないんだよねぇ。


「んーと、蛇のでっかいのとか、蜂のでっかいのとか、ああ、額に長い角を持った象くらい大きな魔物を狩ったこともあるよ。どれもいい素材が採れるんだよね。」


 名前はわからないので、サーシャに魔物の特徴だけ伝える。

 どれも師匠から薬の材料となると教えてもらった特徴を持つ魔物たちだ。

 どの個体もそんなに強くなく、薬師見習いの私でも一撃で倒すことができるくらい弱い魔物だ。


「……ミーニャ、あんた……。」


「どうしたの?」


 私の答えを聞くとサーシャが口をあんぐりと開けて固まった。


「サーシャ?サーシャってばぁ。」


 固まったまま私を見ているサーシャの肩をつかんで前後にゆさゆさと揺さぶる。


「はっ……。」


 サーシャはしばらくして意識を取り戻したようだ。


「ミーニャ!!素材、素材はっ!!魔核はっ!?」


 サーシャは急に叫びだした。


「素材は回復薬の作成につかったよ。……魔核って、なに?」


 私はよくわからなくてサーシャに問いかける。

 サーシャは何故だか、とてもショックを受けたような顔になって頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。


「え?サーシャ?」


「ありえない。ありえない。ありえない。ありえねぇ。」


 途中からサーシャの口調が崩れていく。


「ねえ。サーシャ?」


「……高ランクの魔物の素材を回復薬にするとか、高ランクの魔物の魔核を知らないとか。高ランクの魔物の素材も魔核も売れば一頭で一年は軽く暮らせるのにっ!!」


「……え?いや、高ランクの魔物なんて倒してないから。」


 なんだかサーシャが怖い。

 っていうか、意味不明なことを言うサーシャが怖い。

 私がいつ高ランクの魔物を倒したというのだろうか。


「うそよっ!!封じられた森でミーニャが言った特徴を持つ魔物はAランクの魔物よ!!一般人には倒せないし、冒険者だって数人でパーティーを組んでやっと倒せるくらいの魔物よ!!……まあ、Aランク冒険者になれば一人で狩れるかもしれないけど、Aランク冒険者なんて言ったらこのニャールド王国に10人もいないくらいの実力者よ!!」


「……え?」


 サーシャの言っていることが私にはよく理解できないんだけど……。

 誰か、言葉足らずのサーシャの言葉をわかるように説明して欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る