第5話




「え、えっとぉ。サーシャさん。私たぶんサーシャさんと同い年くらいだと思うんだけど……。」


 サーシャさんの「お姉さま」発言に私は苦笑しながら答えた。

 どこからどうみてもサーシャさんは15歳前後にしか思えない。


「私はまだ18ですわ。美しいお姉さま。それと私のことは「サーシャ」と呼び捨てでお願いします。是非!」


 あ、年上だった。

 サーシャさんは、見た目がちょっと幼い。目が大きいことが原因だろうか。とても愛らしい顔をしている。

 

「えっと、私は15です。なので、サーシャさんの方がお姉さんですね。どうか、私のことはミーニャと呼んでください。」


「えっ……。年下なの?こんなに美しいのに?嘘ッ!?どうやったらミーニャみたいに美しくなれるの?」


 おっと、サーシャさんの方が年上だとわかったら、さっそく呼び捨てされた。まあ、呼び捨てでってお願いしたのは私だけど。

 話し方も先ほどよりも砕けた感じになっている。

 

「あはは……。美しいと言われたことはあまりないのですが……。お肌には自分で作成した美容液を使っています。だからですかねぇ。」


「まあ!美容液!!ミーニャが作っているの?私より若いのに?もう一人前なの?すごいね!」


 おぉう。結構サーシャさんは見かけによらずグイグイくるなぁ。黙っていればどこからどう見ても可愛らしいお嬢さんなのに。

 

「まだまだ見習いです。だから私の作った美容液は売ってないというか、売らせてもらえないというか……。」


「そうなのね。ミーニャの作った美容液つけてみたいわ。売りだしたら教えてちょうだい。」


 サーシャさんはそう言ってにっこり笑った。

 やはりとても18歳には見えないほどあどけない笑みだ。

 

「あのー。売り出しはニルヴァーナさんからダメだって言われてますが、そんなに言われると私としても嬉しいというか……。よかったら貰ってくれませんか?」


 ちょっと臭いけど。

 出かける前につけると公害になるけど。

 寝る前につければ、朝には臭い消えてるし。最初の頃は臭くて寝れなかったけど、慣れればなんとかなるし、少しぐらい別けたって大丈夫だよね。

 

「まあ!いいの!嬉しい。ありがとう。」


 私は、自作の美容液をサーシャさんに手渡す。

 サーシャさんは私の美容液を嬉しそうに受け取った。


「あの……売れない理由がありまして、美容液としての効果はあるんですが、臭いが……なので、日中はつけないことをお勧めします。……って、サーシャさんここでつけないでっ!!」


 サーシャさんは私から美容液を受け取ると、すぐさまカパッと容器の蓋を開けた。蓋を開けてすぐに臭ってくる独特の臭い。サーシャさんにもその臭いは感じとっているはずなのに、そのまま手に美容液を適量とり自らの顔に塗る。

 私の説明はどうやらサーシャさんは聞いていなかったようだ。

 

「……うっ。」


「ぐぅっ……。」


 サーシャさんとガマチョルフさんが美容液に臭いを嗅いでしまい二人とも鼻を抑える。特にサーシャさんなんて顔に美容液を縫ってしまったから臭さは人一倍だろう。

 

「……くさ……いぃ……。」


「……悪いが、これは、酷い匂いだ……。」


 サーシャさんの顔色がみるみる青くなっていく。ガマチョルフさんはまだ我慢できているようだが、眉間にしわを寄せて、サーシャさんから距離を取り出した。

 サーシャさんは耐え切れずにその場に座りこんでしまった。

 でも、顔に塗ってしまった美容液の臭いは消えることなくサーシャさんに付きまとう。


「た、助けて……。」


 サーシャさんのか細い声が届く。

 

「……消臭剤は銅貨5枚になります。」


 私は消臭剤の価格をサーシャさんに告げる。

 私が作った薬だったら無料で渡すところなんだけど、消臭剤の類いを私は作れない、作ることができない。だからニルヴァーナさんの薬が必要になる。

 

「ミーニャ……?なんだい、この臭いは?あれほど、店の中であんたの薬の蓋を開けるなと……。」


「に、ニルヴァーナさんっ!!?か、買いだしが終わったんですかっ?」


 ニルヴァーナさんが店のドアを開けて中に入ってきた。きっと、買いだしが終わったんだろうと思う。

 ニルヴァーナさんが怒っているのが私に伝わってきて思わず震えた。

 

「ああ。終わったよ。で?なんだい?この臭いは?ん?そこにすくたまっているのは、サーシャちゃんかい?サーシャちゃんの具合が悪くてあんたの薬を使ったのかい?」


「あ……えっと、その……。私の作った美容液を少々サーシャさんに別けたというかなんというか……。」


 ニルヴァーナさんの追求に私はしどろもどろになって答える。

 

「はぁ……。つけちまったんだね。あんたの美容液を、ここで。注意はしなかったのかい?」


「えっと、注意はしたんですが……間に合わなかったというか……。」


「そうかい。サーシャちゃんだもんねぇ。ちょっと人の話を訊かないところがあるんだよねぇ。」


「サーシャさんとお知り合いなんですか?」


 ニルヴァーナさんの話しぶりからすると、ニルヴァーナさんとサーシャちゃんは知り合いのようだ。

 

「いいや。直接会ったのは初めてだねぇ。サーシャちゃんの噂は街中に広まっているからねぇ。」


「サーシャさんって有名人なんですね。すっごく可愛らしいし頷けます!」


「いやぁ。可愛い……可愛いねぇ……。まあ、あんたと同じで半人前って噂が出回っているんだよ。サーシャちゃんの作ったお菓子は食べることなかれってね。」


「……?お菓子、ですか??」


「まあ、その話はあとにして、まずはこの臭いをなんとかしないと、ガマ爺もサーシャちゃんもまともに話せないだろう。消臭剤を……。ああ、消臭剤の金額はあんたの給与から差っ引いておくからね。」


「ええっ!!そ、そんなぁ……。」


 ニルヴァーナさんは店の中に充満した美容液の臭いを消すために、消臭剤を辺りに振りまいた。もちろん、サーシャさんにかけるのも忘れない。

 すでにサーシャさんは美容液の臭いで瀕死の状態だった。呼吸もままならず、身体をピクピクと痙攣させていた。

 

「……サーシャちゃんとミーニャがタッグを組んだら最恐そうだねぇ。片や薬が毒に、片やお菓子が毒になるんだものねぇ。」


 なにやらニルヴァーナさんがブツブツと呟いていたが声が小さすぎて私には聞き取ることができなかった。





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