第13話 共犯✖️共犯✖️共犯①

 ◯

 早枝家の正門ゲートに着くと、蒔名はチャイムを押す。

 迎えに来たのは千坂である。

 広い庭園を抜けて屋敷が目に見えたところで、

「メイは起きたばかりで服を選んでいます。風呂にはまだ入ってません。いつ、どう入るかは蒔名さんが来てから一緒に決めるとのことです」

 千坂は平然と思わせぶりのことを口にした。

「いや……それをしに来たわけじゃないです……」

「そうですか」

 千坂の目は冷たくて、まるで「メイを泣かしたら貴様を解体してやる」と警告音を放っているようだ。

 そんな殺気立つ雰囲気を和らげるように、蒔名は適当にメイの家をコメントした。

「綺麗な庭ですね……」

「……」

 蒔名への無関心が見え見えだったが、自分の妹が関わっていて、家主として一定の礼儀があるべきだと彼女は思ったかもしれない。

「足元には気をつけてください。小さい川が流れてますので、柔らかい土を踏む可能性があります」

「はい、ありがとうございます……」

 そう。実はここの実際の家主は千坂である。

 何せ理論上、町長みたいな公職人員がこんな広い屋敷を所有するわけがないが、ここは元々千坂の資産なので、町長に貸したという形なので、何の問題もない。

 かと言って千坂の父は前任の警察署長なので、同じ理屈でこんな広い屋敷を所有するわけもない。

 そこは千坂の母がすごい金持ちだから、屋敷を娘にやったという流れだった。当時の相続税がやばかったが。

 蒔名はそのことについて知っているものの、あえて言わなかったことにした。話題作りでも、千坂相手にそんなつまらないこと言っちゃダメだってあらかじめスマホでメイに言い聞かされた。

 結局その後2人は沈黙のまま、庭を通り過ぎて、美しい花とブランコとキラキラして澄んだ川にはノーコメントで、母屋に着く。

「結紀は楽器の練習で不在、私はこれから署に行きます。後は2人で戯れてください」

 千坂がそういうと、真っ直ぐにキノコみたいな建物に向かう。そして数十秒後、エンジンの音が聞こえ、一台の高そうな真っ黒なバイクが走っていった。

 なるほど、そこはガレージか。

 そしてさすがは千坂、ワイルドだ……。

 そう思いながら、蒔名はドアを開ける。

 メイは赤のドレスで待っていた。

 真っ白なソファー、床、天井、階段なのに、メイは真っ赤。蒔名の目を赤く染め上げるような鮮烈でインパクトな赤。

 彼女は裸足でダンスのような軽やかなステップで蒔名を歓迎する。

「いらっしゃい、蒔名君」

 確かにメイは着替えただけで、風呂には行ってない。特別な匂いはしていないからだ。それくらい蒔名には分かる。

 ちなみになんでこの期に及んで呼び方を頃葉君から蒔名君に変えたかと言う、この街に来てからみんながみんな頃葉って呼んでるから、彼女は敢えて違う方にしたとのこと。

 本当を言うと、オリジナルの自分専属の呼び名が欲しいところで、今は考案している最中である。候補として、名と葉を合わせて、ナッパはいかが?

 メイが蒔名をソファーに案内したら、メイも隣に腰を下ろす。

 何しに来たってメイは聞かず、蒔名が口を開けるのを待っていた。

「事件を解決しに来た」

「事件……?。もう解決したんじゃー?」

「目玉事件ではない。とある殺人事件だ。埋もれた殺人事件だ……」

「え〜相談しに来たんだ〜」

 数年前のことを、メイは思い出す。

 あの頃の蒔名には友達が少なく、ぶっちゃけ、メイしかいなかった。加えて蒔名は自己主張に欠ける人間だから、メイの言うことはだいたい従う。暇つぶしに未解決殺人事件の謎を解こうとメイが言った時でも。

 どこから警察の極秘ファイルをゲットしたか分からずに、2人はたまに殺人事件について話し合っていた。

 休みの日に目撃者を訪ねて聞き込みしたり、人形とブロックを使って密室をシミュレーションしたり、こっそり現場に行って写真を盗撮したりして、蒔名がここまでに成長したのはメイのおかげと言っても過言ではない。

 だからメイは嬉しかった。また一緒に事件について話し合うんだなと彼女は期待していた。

 メイの嬉しさに対して、蒔名は少しの笑いも出来ずに、ただ冷たい顔で述べる。

「11月11日の夜、僕たち特別捜査隊は警察本部の裏切り者である明田知紗に会っていた。彼女は全てを白状し、目玉も返してくれた。虚言は恐らくないだろう。動機と行動においても矛盾はない」

「そうかそうか。聞いていた通りですな」

「でも違和感は感じた。そしてボロを出したのは犯人の協力者だ。協力者のおかげで犯人は事件を隠蔽できたし、また協力者のせいで犯人の手掛かりを得られた。禍福は糾える縄の如しということだ。しかも協力者の人数は……3人いた」

 蒔名の言葉は意味不明だ。

 どのミステリー小説においても解決編ではもったいぶる探偵のようだった。

 協力者を語る前に、犯人が知りたいところだ。

 そして犯人を語る前に、埋もれた事件とやらが知りたいところだ……。

 メイの疑問はまさにそれだ。

「メイ、チケットを見せて」

 チケットとは?今作においてそれの出番はあったか?

 恐らく同じこと考えているメイは無言だった。

 蒔名は説明する。

「記雨町に行ったんだろう?飛行機でも列車でもいいから、チケット見せて」

「あれか、あれは歩きでーー」

「……」

「冗談よ。どこに捨てたかもう分からないんだよ」

「じゃ宿泊記録を。スマホで予約しただろう?」

「トギ姉さんが手配してくれたんだ。詳しくないね」

「……」

「……」

 それからはしばらくの沈黙。蒔名は特に何も考えてはいない。ただメイに言い訳を考える時間を与えているようだ。

 しかし彼女はその好意を受け止めず、相変わらず楽な気持ちでソファーで変な姿勢を取っている。淑女には相応しくない形態ばかりだった。

 スカートなので、危ない姿勢もあったが、蒔名は顔一つ変わらないように頑張っていた。

 一向に口を噤むメイには、彼は勝手に話を続ける。

「僕にメッセージを送った日ではなく、その次の日以降に出発したんだろう」

「なんで?」

「あなたは事件の2日目には既にキーパーソンに辿り着いた、僕たちよりも早く」

「へー……」

「彼女に辿り着いたのは1人目の協力者のおかげだな。彼女は捜査に長けていて、情報収集も得意。彼女の情報によって、あなたは答えへの近道を見つけた。着目点の違いで僕たちは丸1日、遅れを取っていた」

「へー……」

「その差を利用して……」

「へー……」

「あなたは明田を訪ね、殺した」

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