第10話 3日目 ルール違反

 ◯

「事件解決、それで良いよね」

 蒔名は独り言をしながら、ベッドで寝返りを打つ。

 ただ一つ懸念していることがあるからだ。しかも仲間には言えない。自分で背負わなければならないことである。

 それは友達の嵐の失恋のことだ。

 いや、まだ失恋と決まったわけじゃない。


「最後に、これだけは秘密にしておけ。嵐は退学した……彼を綺織結紀に近付かせるな。不幸が起きる」

「嵐の退学、それ以外の何物でもない」


 未来の自分が確かにそう言った。

 でもどちらかと言うと、嵐は鈍感な方で、まだ恋に落ちていないように見えたのに、どうしてどうやって傷ついたのか?

 しかも退学まで……。

 自分の乏しい想像力ではどうにもならない。でもまだ頼れる人間がいる。

 彼はカバンに残る最後の一本の注射器を取り出す。

 いつもと変わらなず、使用が許されたのは3本だけ。使い切ったらまた甲斐先生のところに補充する。

 特に紫姫がその監察役になってから、過度はおろか、勝手な使用も難しくなってきた。3人が揃わないと、使ってはいけない。そう言うルールだから。

 でも……嵐のために、特別捜査隊のために、玄田さんのために……それから結紀のために、メイのために、町長のために、鈴和のために……。

 関係者が多すぎる。これは使わなきゃならない場面だと蒔名は悟った。

 すると手早くノートブックに質問を書した。

 そして刺した。


ーー始ーー

 それは2週間後の学校、12時頃。

 嵐と結紀の間に何があった?どうして合わせてはいけないのか?

 質問に対して、未来の蒔名もとうに回答を書いた。

「2人に何も無かった。メイにも確認した。あの時の予言はどうやら勘違いだ。

 実際に、ここ2週間は3回くらい会ってたのに、退学はもちろん、喧嘩になるようなこともなかった。

 とりあえず、内容もここに書いておく。

 1回目は宙野さんの好きなカフェで勉強会をした。

 2回目は食事会の後、メイは用事があると言って、嵐に頼んで、結紀を家に送らせた。

 3回目は僕たち3人と宝探しに行った。2人は普通に会話していた。結紀は新料理を披露した。うまくなかったが。

 以上。参考まで」

ーー終ーー


 え!?空騒ぎか? 

 ……。

 こう言うこともたまにある。

 なにせ、未来は分からないものだ。些細なことで大きくわかる。

 蒔名はそう嘆く他ならない。

「そうだね……同じ未来の自分とは言え、違う記憶と違う出来ことで形作られている。だから未来の自分とは言え、条件不足で間違った判断をすることもある。予言して損した……」

 手にしていた注射器が空になって、翌日は必ず紫姫に問いただされるから……どう誤魔化すものか。

「とりあえず証拠隠滅か」

 蒔名はさっきノートブックに書いた質問のページを剥ぎ取り、ゴミ箱に入れた。

 医療ゴミは甲斐先生のところに捨てなきゃならないから、注射器は元の保存用具に戻すべきだ。

「先端が曲がれて、液体が漏れたとか」

 そう言って蒔名は考えもせずに、分厚い本を持ち上げてから振り下ろす。

 針はへし折り、完全な毀損だと判断はできる。

 これでようやく安心して眠れる。

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