頭の中の友達
久石あまね
真夏の笑顔
僕は毎日、終礼のチャイムが鳴ると学童クラブに行く。
学童クラブは小学校の校庭の隅にある一階建ての建物だ。大きい部屋が二つある。夏休みにはこの大きな部屋でみんなで昼寝をする。
夏休みのある日。僕は学校の畑で、ひとりホースでひまわりに水をやっていた。ホースから出た真水は弧を描き、黒い土を濡らした。
「ひまわり、大きくな〜れっ!」
僕は心の中の友達にそう言った。
心の中の友達は中々返事をしてくれないが、静かに口角を上げ、恥ずかしげに微笑んでくれた。
学童クラブで僕は誰も友達がいなかった。
だから頭の中に友達をつくり、その子にいつも話しかけていた。
その子は女の子で名前はあまねといった。
あまねは頭の横で髪を二つに結った、僕と同い年の小学二年生の女の子だ。
僕はあまねと話すことに夢中になっていた。あまねと話しているときだけ、本当の自分になれる気がしたから。
小学校のときは毎日話した。将来のこと、応援しているプロ野球チームのこと、好きな女の子のこと、家族と旅行に行ったときのこと。
あまねに家族と旅行に行ったことを話すとあまねはよく僕に怒った。あまねは僕が勝手に家族と旅行に行くと寂しいのだ。しかし好きな女の子のことを話すと、応援してくれた。僕はあまねの事情がよくわからない。あまねにはあまねなりの価値観があるのだろう。
でもあまねは言葉で怒りを表現しなかった。あまねが怒ったときは必ずといっていいほど、怒った顔をするのだ。大きく頬を膨らませて、腰に手をやり、眉間にシワを寄せる。
でもあまねは僕がおもしろい話をしたときは、目を弧にして、本当に楽しそうにわらうのだった。
僕はそんなあまねが大好きだった。
もうあまねなしでは生きられなかった。
でも中学生になると状況が変わった。
僕に友達ができたのだ。
中学生になって僕に友達が出来てからは、あまねと会話することはなくなった。あまねと話す頻度は日に日に減っていった。
そしていつの間にかあまねは消えていた。
あまねは姿を消したのだ。
でも大人になった僕はいまでもあまねのほほ笑みを覚えている。
あの天使のような笑顔は絶対に忘れなれない。
今、あまねに会ったら、あまねはどんな姿をしているのだろうか。
今、あまねが怒ったら、どんな顔をするのか、知りたくなる。
でもなんとなく、あまねの笑顔は想像できた。
それはひまわりの花のような、はじけるような真夏の笑顔だった。
頭の中の友達 久石あまね @amane11
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