みち

藤泉都理

みち




 二千二十三年十二月十五日午前四時。

 ふたご座流星群極大時刻。

 

 黒のロングレインブーツ。

 黒の編み上げ厚底ロングブーツ。

 空高く放り投げられた二種類のブーツが、あっという間に鈍い音を立てて地面に転がり落ちると同時に。

 銀色のシルクのポケットチーフもまた投げ上げられる。

 一枚、また一枚と。合わせて二枚。


 ひらひらとゆっくり舞い落ちたそこに、それらの持ち主の姿はなかった。


 黒のロングレインブーツ。

 黒の編み上げ厚底ロングブーツ。

 それぞれの片方は重なり合って、それぞれの片方は離れ離れになってその場に留まる。


 銀色のシルクのポケットチーフは一枚、空っ風により野原に沿って吹き流れる。

 銀色のシルクのポケットチーフは一枚、小夜嵐により煌空へと吹き上げられる。


 奇しくも二枚の銀色のシルクのポケットチーフが辿り着いたのは、一つの腹の上。

 一枚は摘まみ上げられて、隣の腹へと移動させられた。

 一枚は腹と手の間に挟まれて、一枚は腹の上に放置されたまま。

 寒風によってまた吹き飛ばされるのかと思われたが、強く握りしめられて、その場に留まる。


 流れ星は現れては、瞬く間に消えていった。

 いくつも。

 いくつも、


 午前六時四十三分。

 日の出。


 黒のロングレインブーツ。

 黒の編み上げ厚底ロングブーツ。

 銀色のシルクのポケットチーフ二枚。

 それぞれの足とポケットに収めた持ち主は、舗装されていない別々の道を歩み始めたのであった。











(2023.12.9)



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みち 藤泉都理 @fujitori

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