第28話 プレゼント
俺と美原さんは、地下街の隅っこで話すことにした。長話するつもりもないので、それで十分。
「それで、彼女さんの写真は?」
「ん……これ」
スマホを取り出し、椎名と撮った写真を見せる。あえて恋人らしさを追求した一枚なので、俺と椎名は密着しており、顔も近い。
「おお……これが画像生成AIの力……」
「こんな悲しい使い方しねーよ。普通に実写だ」
「でも、まつげの本数に違和感が……」
「指の本数ならまだしも、まつげの本数に違和感覚えるなんて無理だろ」
「……じゃあ、これ、本当に夜明君の彼女?」
「そう」
「実在する?」
「する」
「今から電話かけてみてって言っても困らない?」
「困らない」
「名前は?」
「
「ベッドの上ではなんて呼ぶの?」
「椎名とベッドインしたことはねぇよ。付き合い始めてまだ二週間も経ってない」
「あ、お察し。クリスマスのために用意された彼氏か。ぎりぎりもって初詣まで?」
「そこまで薄い関係でもない」
「そう思っているのはだいたい男の子の方だけ……。女の子はとても残酷な生き物……」
「不穏なことを言うな」
「ふふふ」
「意味深に笑うな」
「……ねぇ、他の写真も見せてよ。まさか、一枚しかないとは言わないよね?」
「お前、どれだけ疑ってるんだよ……」
椎名とは、あえて色々な写真を撮っている。その方が、偽装彼女っぽく見えるから。
そもそもの話、美原さんには偽装カップルであると伝えても問題はないのかもしれない。同じ学校にいるわけでもないのだから、美原さんから情報が漏れることもあるまい。
……いや、わからないな。女子同士はどこでどう繋がっているかわからない。美原さんだって壱ノ宮高校に知り合いがいないわけではない。
ここは、美原さんにも嘘を突き通すべき。
「……ふぅん。夜明君も、すっかり軟弱な彼氏君に成り下がってしまったんだね」
写真を一通り見て、美原さんが吐き捨てた。
「美原さんって、恋愛にトラウマでもあったっけ?」
「……別に」
「そう……」
「……スマホ、返す。それで、軟弱彼氏君は、アバズレビッチちゃんに何を貢ぐつもりなの?」
「急に言葉が悪くなったな!?」
「気のせい」
「気のせいじゃないだろ……。何か怒らせるようなことしたか?」
「……してない。で、何を買うの?」
「まだ決めてない。何がいいか考えてたところ」
「じゃあ、一緒に探してあげようか?」
「ああ、うん。どんなものがいいかわからないから、そうしてくれると助かる」
「そう……。じゃあ、行こうか」
美原さんと共に、再び各種店舗を回っていく。
俺一人では入りづらかったアクセサリーショップなども回ったのだが、そもそも椎名がどんなものを求めているかわからず、装飾品関係はやめた。
そもそもの話、美原さん曰く、男子が相手の意見を聞かず女子にプレゼントを贈るのは無理がある、とのこと。
「女の子はこだわりが強いから、自分の欲しいもの以外は全部いらないっていうことも多い。女子高生が喜ぶプレゼントを選んだとしても、全く喜ばれないことだって当たり前にある。一生懸命考えるのはいいけど、結局は博打と同じようなもの」
なるほどね、と参考にさせてもらった。椎名へのプレゼントは正直言うと適当でも良いのだが、時雨先生には喜んでもらえるものをプレゼントしたかった。
色々と考えて、でも結局答えが出なくてさまよい歩いていたのだが、少し吹っ切れた部分がある。
最終的に、俺は椎名のためにグラスを購入。透明なガラス性のグラスに、月と猫が彫られた一品。俺からすると可愛らしいものだと思うのだが、椎名がどう思うかはわからない。お値段、四千円弱。……高校生からするとそれなりにお高い。
ついでに、宗谷と赤木さんにはお菓子を購入。少しばかり高級感のあるチョコレートだ。
時雨先生にもプレゼントを用意したかったのだが……美原さんが見ている手前、購入はできなかった。
ちなみに、美原さんも友達同士で行うクリスマス会用のプレゼントを購入している。俺が宗谷たちに渡すのと同じお菓子だ。
買い物が終わり、午後四時過ぎ。相変わらず、俺と美原さんは地下街を歩いている。
「色々と一緒に考えてくれてありがとう。助かった」
「感謝しているなら、私にもクリスマスイブイブイブプレゼントを頂戴」
「それ、当日は当日でクリスマスプレゼントをねだる奴?」
「……まさか」
「沈黙が怪しい。でも、お礼はしたいな。何が欲しい?」
「……なんでもいいよ。夜明君がくれるなら」
「じゃあ、俺の髪の毛一本あげるわ」
「わぁ、嬉しい。わら人形の中に入れて、五寸釘で壁に打ち付けて大事に飾っておくね?」
「……冗談だ。カフェでケーキでもおごればいいかな?」
「……いいの? 彼女でもない女の子と一緒にカフェなんて入って」
「あー……ダメかな?」
椎名のことは別にいいのだが、時雨先生はどう思うだろう? 椎名と仲良くしているだけでもあまり良い気持ちはしていないだろうから、さらに別の子と遊ぶのは良くないかもしれない。
「浮気の基準は人それぞれだけど、好意的に見てくれる女の子はいないかもね」
「じゃあ……どうしよう」
「あ、それならキーホルダーでも買ってよ。買わなかったけど、ちょっと気になったのがあるんだ」
「ああ、いいよ」
二人で雑貨屋に行き、そこで小鳥のキーホルダーを購入。
「ありがとう。末代まで大事にするね?」
「そこまで大事にしなくていいだろ。飽きたら適当に捨ててくれ」
美原さんは微笑むだけ。返事はない。
ともあれ。
「……用事も終わったし、そろそろ解散にするか」
時雨先生へのプレゼントを買いたくて、少し早い気もするが、そう提案した。
美原さんは、わずかに寂しそうな顔をしたかもしれない。友達から早く切り上げたい雰囲気を感じ取り、残念に思ったのだろうか。申し訳ないとは思う。
でも、俺の優先すべきは、時雨先生だから……。
「……ん。そろそろ解散にしよ。私はもう少しこの辺りを見て回るから、ここでバイバイかな」
「そっか。じゃあ、またな。そのうち連絡する」
「うん。またね。私からも連絡する」
美原さんと別れ、俺は一旦駅に向かう。美原さんから十分距離を取ったところで方向を変え、近くのショッピングモールを目指す。
できれば先ほどまで見ていた商店街や地下街の店舗でプレゼントを調達したかったが、美原さんに遭遇する可能性があるので避けた。
ショッピングモールを見ていたら、イラスト関連グッズの特設コーナーを発見。様々なイラストレーターのポストカードやキーホルダーなどを販売しており、面白い品がたくさんあった。俺としては惹かれるものがある。
それぞれ数百円で買えるので、お財布にも優しい。最愛の彼女のためのプレゼントで、懐事情を考えるのは少々気が引けたけれど。
ただ、時雨先生も、俺が高価な品を買っても喜ばないとは思う。高校生は高校生なりのものを用意すればいいと思っているし、そもそも俺が持っているお金は俺の親のお金だ。金額的なものより、俺が時雨先生のことを想って用意することが大事、だと思う。
「……いくつか選んで、買っていこう」
時雨先生もイラストなどは好きなので、こういうプレゼントも喜んでくれるだろう。
いくつか見繕い、それをレジに持って行く。値段としては、千円ちょっと。クリスマスプレゼントとしては、少し寂しいかな……。話をする時間も、一緒にいる時間もあまり取れないし、本当に申し訳なく思う。
溜息をつきながら、今度こそ本当に帰路について。
「……それ、誰に贈るプレゼント?」
美原さんの声がして、全身が強ばった。
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