エピローグ1 窓の向こう
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五月二六日 一○時○○分
ルーム6室長室
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洞窟での出来事から一夜明け、一日が過ぎた。
アイナが仕事をしているとノックされた扉にシェリーが入室してくる。
シェリーは、詳細については依然調べているが、とりあえずは分かった概要を報告しき来ていた。
シェリーは囚われた女性達には聞き取りを、捕まえた残党には尋問を行っていた。
「やはりあの組織はアカデミーでした」
「そうか」
言ったシェリーに、アイナのリアクションは薄い。
洞窟にはアカデミーの旗が掲げられていた。物的証拠から彼らがアカデミーであることはほとんど確定していた。
それよりもアイナが気になるのは洞窟内で何が行われていたかだ。
「で、奴らはあそこで何をしていたんだ?」
「処女の血を使った魔法の実験をしていたそうです」
「処女の?」
女性の血は高威力の魔法の発動に用いられてきた。そして、リレーサからの報告でも血を用いた魔法を発動しようとしていたことは分かっている。
てっきり女性の血を使った魔法の実験かと思っていたアイナは、予想していなかったシェリーの言葉に訊き返してしまった。
「はい。どうやら普通の血では限界が来たらしく、そこで処女の血を使っていたそうです」
アカデミーも最初は女性の血を使っていた。だが、それでは現代兵器の火力を超えられないことに処女の血を使っていた。
「気持ちの悪い連中だな」
「同感です」
アイナの口を衝いて出た言葉にシェリーも共感する。
洞窟内で行われていたのは処女の血を抜き、それを触媒にした魔法の実験。
リレーサが牢屋に突入した際、女性達の声は二種類に分かれていた。
ここから出して、というものとあの子を助けて上げて、というもの。前者は今回連れてこられた女性達で、後者は以前に連れてこられた女性達だった。
後者の女性達が訴えたのは行われている惨たらしい事を体験していたから。
凄惨な事件にもっと他に思う事はあるだろうが、アイナとシェリーの感想は淡泊だ。
それは天井を知ればそれ以下のことでは満足しなくなるのと同じだ。人間の悪意や害意、好奇心を煮詰めたようなものを見聞きしてきたアイナとシェリーには免疫ができており、これはアイナとシェリーが恐怖する事件ではないのだ。
「しかし、よくもまあそんなに見つけられたものだなあ」
洞窟には一六人の女性が囚われたていた。だがそれはリレーサ達が突入して時点であり、捕まえた残党や、運んでいたパーズの供述からアカデミーはKn00から毎回一○人の女性を購入していたことが分かった。そして、その合計は一○○人以上にも上る。
一○○人以上もの女性が居なくなればそれは大事件になるが、調べてもほとんど出てこなかった行方不明になったというニュースに、僅かに出てきたものも単に行方不明になっただけなど、それがKn00によるものかとなれば疑わしいものだった。
一体どうやれば居なくなっても誰も気づかない女性を一○○人以上の見つけることが出来るのか。思うアイナにシェリーが言う。
「それに関してもパーズが話してくれました」
戦争で親や住む場所を失った者たちは大勢いる。それでも悲しみを乗り越え必死に生きようとする者達をKn00は食い物にした。
親が居ない者達であれば居なくなったとしても行方不明届けは出されない。Kn00やアカデミーは親を失うという最大の悲しみを体験した者達を、更なる地獄に突き落としていた。
シェリーは一呼吸置くと話をアカデミーに戻す。
「最後に魔法は完成していたようで、アトミックという魔法だったそうです」
何処でその言葉を知ったのかと疑問に思うアイナとって、それは本当なのかと聞き返したくものだった。
つい口から出そうになった言葉にアイナは言葉を飲み込むと、代わりに別の言葉を呟いた。
きっとアカデミーは魔法と言う名の魔法に掛かっていたのだろう。
「それを知っておきながら魔法を信仰出来るとは驚きだ」
「同感です」
アイナとシェリーは窓の外に目をやる。
広がる青い空に目を向けるのは地平線の向こう。何千キロと行った先にあるアークに、アイナとシェリーはアークのある方角に目を向けていた。
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