魔法2


 バンで入り口まで移動する。

 キリエから聞いた情報を元にリレーサはどんな場所か想像はしていたが、実際にその目で見てみると心霊スポットのような迫力があった。


「ここかー」


 降りると呟いたリレーサは、バンに視線を戻すと床に寝かせていたアルペンを降ろす。


「ほら行くよ」


 開いた助手席のドアとバックドアに、女性達の救出に向かうのはリレーサ、エリシー、キリエの三人だ。穴に向かうリレーサ達に、初はリレーサ達を呼び止めると一言いう。


「リレーサ、エリシー、キリエ。脅威は全て排除しろ」

「了解」


 リレーサ達は女性達を救出しに行くのであって、魔法使いのような恰好をした彼らを捕まえに行く訳ではないのだ。


 鉄格子によって閉ざされた先は洞窟になっていた。


「<ヒートチャージ>」


 鉄格子に巻き付けられたチェーンにそれを止める南京錠。リレーサは南京錠に手をかざすと出力を絞って魔法を発動する。

 爆ぜた南京錠にとチェーンを解くと、扉はギーと雰囲気のある音を立て開く。


 開けるとリレーサは、お先にどうぞとばかりに一歩下がる。

 進む上で最大のリスクを背負うのは先頭を行く者だ。敵に発見されれば真っ先に攻撃され、罠があれば最初に引っ掛かる。だが何もそのリスクを自分達が負う必要はない。他人に押し付けられるのなら押し付ける。

 アルペンを連れてきたのは盾にするためだ。

 先頭を進まされるアルペンにリレーサ達はその後に続く。


 後ろの方で小さくなっていく入り口の光に、先に進んで行くと洞窟の奥に薄っすらと光が見えて来る。

中に明かりがあれば誰かいるのかと思われる。入り口からは全く見えなかった光に、光は入り口からは見えないように調整され設置されていた。


 アルペンを先頭にリレーサ達は、リレーサ、キリエ、エリシーの順で進んでいる。

 光を前に振り返ってきたアルペンに、その後ろに居たリレーサは顎で指示するように銃口で進めと指示する。

 進んだアルペンにその時だ、洞窟の奥から声が掛けられた。


「誰だ」

「!?」


 誰何してくるのは男の声。

 アルペンが罠に引っ掛かっとしてその近くに居ればリレーサ達も巻き添えになる。そうならない為にリレーサ達はアルペンから距離を取っていた。

 見つかったのはアルペンだけ、見つかっていないリレーサはアルペンに命令する。


「こっちに来させて」


 幸いにもアルペンには身分があった。


「あ、ああ……ブラックシップの者だ。帰り道車をぶつけちまって動かなくなったからちょっと助けて欲しいんだ」

「待て、入り口には鍵を掛けていたはずだぞ。どうやって入った?」

「鍵? ああ、チェーンなら巻かれていたが鍵は掛かってなかったぞ」

「本当か?」


 足音がリレーサ達に近づいて来る。

 リレーサはそっと銃から手を放すとナイフを抜く。

足音が自分達を見つける寸前で、リレーサは暗闇から飛び出すと背負い投げの要領で男を投げる。

 虚を突かれた男は目をきょろきょろと動かすと何が起こったのかを理解しようとしていた。

 その隙にキリエが男に手錠を掛けようとする。

 その手錠は掛けると魔法が発動出来なくする魔法抑制手錠だ。魔法は廃れていったとはいえ使える者は多い。

この様な手錠を掛けるのは魔法を封じなければ拘束しても安全が確保されないからだ。


 馬乗りになり手で男の口を押えるリレーサ。

 手錠を掛けられれば魔法は使えなくなる。手首に感じた冷たく硬い感触に、男は全力で顔を動かし口を押える手から逃れると手錠を掛けられる前に魔法を発動する。


「<メッセージ>てき……」


 魔法を発動しこちらの存在を仲間に伝えようとした男。

 リレーサは反射的に男の口を押さえると、右手に握っていたナイフを男の首の付け根目掛けて振り下ろす。

 急所への一撃に、男の目から徐々に生気が消えていく。

やがて完全に消えた生気に、リレーサは男がピクリとも動かなったのを確認するとようやく一息ついた。

 リレーサは呑んだ息をため息のように吐き出す。


 手錠を掛ける瞬間は一番危険な状況の一つだ。例えば、リレーサが手錠を掛けられる側だったとして、あのような状況であればリレーサはヒートチャージで敵を吹っ飛ばすだろう。

 銃であればメッセージのメの字を口にした瞬間頭を吹き飛ばせていたが、銃で脅さなかったのは撃てば音でバレるからだ。しかし、こうなってはナイフを選んだ意味がない。

 ナイフを抜き付着した血を男のローブで拭うリレーサに、エリシーは尋ねる。


「どうする?」


 壁に一定の間隔で並ぶのは電気の発明と共に廃れ今や骨董品となったマジックアイテムのランプで、照らされた洞窟は二股に別れていた。


「二二で別れよっか」


 侵入がバレた以上女性達が殺される危険性があり、素早い救出が求められる状況では固まっての安全な攻略よりも、別れての迅速な攻略の方が望まれる。


「いいよ」


 言うと銃のグリップから手を放したキリエは、まるで指揮棒でも振るかのように手を動かした。

それに反応し、ふわりと浮遊してきたそれにキリエが追跡で使っていた式神だ。

 アサルトであるリレーサにスナイパーのエリシーと忍者のキリエ、別れ方は決まっていた。

 別れた方はアルペンとリレーサ、キリエとエリシーだ。盾を持って行くリレーサにキリエが式神を操るのは索敵の為。


「見つけたら教えてね」

「分かってる」


 余裕のある声を交わすとリレーサ達は二手に分かれて進む。

 敵に与えられた情報は敵が居るということだけで、人数や何処に居るのかは知られていない。

 リレーサ達を探す敵に、ここは敵の巣穴で戦闘は直ぐに始まった。

 敵からすればアルペンは女性達を運んで来ただけの存在であり自分達の仲間ではない。


「<ファイアボール>」

「<ライトニング>」

「<アイススピア>」


 敵の数は三人で、敵はアルペンを見つけるや否や瞬時に魔法を放って来た。

 魔法は色々な面で銃に劣っている。

 例えば、速度だ。銃弾は音速を超えるのに対して魔法は音速を超えない。例えば、命中率だ。弾を狙った所に当てるというのは難しい。それは他ならぬ銃が証明している。スコープが乗った銃でも狙った所に当たらないことがあるのだ、アイアンサイトすらない魔法で魔法を狙った所に当てるというのは至難の業だ。


 だが、狭い通路でかつ一○メートルもない交戦距離にそれらは関係なかった。

 幾ら魔法が音速を超えないと言ってもその様な距離で放たれた魔法は放たれた瞬間着弾する。また、狭い空間であればテキトウに放っても当たる。


 ファイアボールの爆発にライトニングの電気ショックを受け倒れたアルペンに、その腹部にはアイススピアの氷の刃が突き刺さっていた。

どさっと倒れたアルペンに、それは一目で死んでいると分かるものだった。


 壁に体を隠したリレーサは壁から銃口と目だけを出すと引き金を引く。

 狭い空間であればテキトウに撃っても当たるのだ。そして、魔法は連射速度においても銃に劣っていた。

 フルオートで撃つリレーサに敵は一瞬にして倒れる。


ドン。ドン。ドン。


 リレーサは敵の頭に一発ずつ撃ち死亡確認を行うと、倒れたアルペンに一人で洞窟の奥へと進む。


----------


 何処から聞こえてきたリレーサのものと思われる銃声に、エリシーとキリエも戦闘を行っていた。

 エリシーとキリエは、エリシーを先頭に進んでいた。

 使っている銃の種類や長さから先頭にはキリエの方が向いている。それを理解した上でエリシーが先頭を行くのは、キリエが式神を操作しているからだ。

不意い敵が飛び出してきてもエリシーが先頭であれば迅速に対応できる。


 式神を先行さての安全なクリアリングに、エリシーとキリエは敵が居なければそのまま進み、居れば排除してから進む。

 式神を先行させると通路を曲がった先に二人居た。


「曲がった先に二人」

「了解」


 居ると分かっていれば排除は簡単になる。エリシーは壁からそっと銃口を出すとスコープを覗く。

まだこちらの存在に気付いていない敵に狙う時間は十分にある。エリシーは片方の頭に照準を合わせると引き金を引いた。


バスン、


 絶対に当たる距離に敵の頭はまるで輪ゴムを巻き付けられたスイカのように爆ぜる。

 狙撃されたら身を低くするなり、逃げるなりしてまずは動かなくてはならない。突っ立って入れはタダの的になるからだ。

しかしそれは難しいことで、そのことを理解しているプロでさえ一瞬は硬直してしまう。それ程に頭が弾け飛ぶという光景の衝撃は凄まじいのだ。


バスン。


動揺して立ち尽くすもう一人に、エリシーはもう一人の頭にも照準を合わせると引き金を引いて二人仲良くあの世へと送る。


「クリア」


 エリシーとキリエは順調に進む。恐らく一番安全な進み方に、だからこそエリシーとキリエはその様な状況になるとは思ってもみなかった。

 式神を先行させたキリエに、そこは洞窟内にしては広いその空間は食堂だった。


「恐らくクリア」


 ない人の気配にキリエが言うとエリシーは進む。

 食堂は各部屋からアクセス出来るようになっていた。分かれ道のように伸びた三本の通路。

 右にある通路に式神を先行させたキリエに、その間エリシーはその他の正面と左の通路から敵が来ないかを警戒する。

式神を先行させたキリエはこちらに向かって走って来る複数の足音に銃を構えながら言う。


「右、来る」


 式神の使用を止め即座にその方向に銃を構えたキリエに、他の方向を警戒していたエリシーもその方向に銃口を向ける。

 左右に展開すると倒した机を盾代わりに戦闘に備えるエリシーとキリエ。

 だが、敵が来ていたのは右からだけではなかった。ある部屋からある部屋への中継地点のようになっている食堂に、敵は正面からも来ていた。


 先に現れたのは正面の通路からだった。

 走って来ていた敵はこちらを見るや驚いたように足を止めると、直ぐに手を突き出し魔法を放とうとしてきた。

右以外の通路も警戒していたエリシーは、現れた敵に右の通路に向けていた銃口を正面の通路に向けると銃弾を浴びせながら言う。


「正面からも敵!」


 言ったエリシーに、だが、キリエにそれに返事をする余裕はない。それは右の通路からも敵が現れたからだ。

 正面と右の通路からゾンビのように押し寄せて来る敵。

 ボーンと敵の放ったファイアボールが壁に着弾し爆発する。机から覗くエリシーとキリエの頭を下げさせる為の爆発に、スモークのように視界を遮る土煙。

暗い色の壁に敵の黒のローブは迷彩効果があり、漂う土煙に迷彩と最悪の視認性にエリシーは魔法を発動する。


「<ビジョンパルス>」


 エリシーが発動したのは索敵魔法。それは魔力を感知する魔法で、モノクロになった世界に白い人影と赤い人影が映る。

サブマシンガンを撃つ白い人影がエリシーであり、魔法を放とうしてくる赤い人影が敵だ。

 格段に上がった視認性にエリシー引き金を引く速度は早くなる。

 起こった弾切れにエリシーは叫んだ。


「リロード!」


 敵が今だとばかりに攻めて来る。しかし、エリシーが叫んだのは敵に弾切れを教える為ではない。リロード中の援護をキリエに頼む為だ。

 机に身を隠すとエリシーはリロードを行う。その間一人で敵と戦うキリエに、エリシーは直ぐにリロードを済ませると机から顔を出して撃ち始める。と、今度はキリエがリロードで机に身を隠す。


 弾が足りなくなるのではと思ってしまうほどの攻防。戦っていて分かったが、左の通路からは来ない敵に、敵は左の通路へと進みたがっていた。

だが、エリシーとキリエに阻まれ一向に進めないことに敵は突破口を開こうとする。


バスン、バスン、バスン。


 束になって攻めて来た敵に、しかし、それはエリシーの銃が最も威力を発揮する状況の一つだ。

高威力の大口径弾は先頭の敵を貫通するとそのまま後ろの敵も貫いて行く。


----------


 リレーサは一人の敵を追っていた。

 追いかけるのは黒いローブを着た敵。

洞窟内では何処にでも居た格好に、リレーサが追いかけるのは他の敵は攻撃しようとしてきたのに対して、その敵は一目散に逃げだしたからだ。

 敵の話す声が聞こえて来る。


「何してる! 早く来い! 食堂で待ち伏せされていた? なら迂回して来い!」


 独り言のような声に敵は伝達魔法で話しながら逃げていた。

 地の利のある敵は角を曲がると、また次の角を曲がりリレーサを撒くようにして逃げる。それを全力で追うリレーサに距離は徐々に縮まりつつあった。

 リレーサはこれまでは曲がった後の敵の背中を見て追いかけていたが、今まさに角を曲がろうとする敵に撃てると感じると銃を構え引き金を引く。


ドドドドドン。


 待てと言わんばかりに放された弾に、一発が敵の腹部に命中した。


「うぐっ」


 苦痛に声を漏らし被弾の衝撃でバランスを崩す敵。倒れそうになった敵は、だが、寸前の所で壁に手を突くと壁を支えに立て直す。

 しぶとく逃げる敵にリレーサは叫んだ。


「待て!」


 倒れなかったとはいえ失速はした敵に、それはこの鬼ごっこを終わらせられるチャンスだ。

リレーサは一気に詰まった距離に往生際の悪い敵の背中に鉛弾をお見舞いしようとする。勢いよく角を曲がろうとしたリレーサに、だが、曲がる寸前それが聞こえた。


「あの女を止めろ」


 角を曲がったリレーサに、曲がった先に居たのは逃げる敵ではなく、こちらに向かって手を突き出し魔法を放とうとする敵だった。


「<ウィンドブラスト>」


 爆風が空気砲のように一方向に向かって放たれる。

 リレーサは寸前の所で体を引くとそれを回避する。

 リレーサは顔を出してしまった。知られたヘッドラインに、敵はリレーサのヘッドラインに照準を合わせる。そうすれは次顔を出した時に直ぐに撃つことが出来るからだ。

そして、もう一度同じ場所から顔を出せば撃たれるのが分かっているリレーサは、膝を着くと最初に出した時とは別の位置から顔を出す。

それは、クイックピークで、敵が居た際にやる顔の出し方だ。


 同じ場所から顔を出して来るものだと思っていた敵は、別の場所から顔を出したリレーサに意表を突かれる。

 リレーサには絶対に仕留められる自信があった。しかし、それを邪魔した敵に、リレーサはお前のせいでとばかりに銃弾を叩き込む。

 倒れた敵に、その後ろに逃げていた敵の姿はない。

 リレーサは敵を見失ってしまった。

 リレーサは敵に一発当てた。血痕を頼りに追おうにも地面に血痕はない。それは敵が治癒魔法で回復したからだ。


 捜索しているとリレーサは血痕を見つけた。

 扉のハンドルに着いたそれは、撃たれた際傷口を押さえた手に着いた血によるものだ。

 扉は外側から施錠していたのだろう。地面には開錠された南京錠が落ちていた。また、開錠する際に触れたのだろう。南京錠にも血痕が残っていた。

 引くと動いた扉に、扉は内側からの施錠はされていなかった。


 開くと左右に見えた鉄格子にそこは牢屋だった。

 囚われていたのは作業着を身にまとい、魔法抑制手錠で拘束された女性達。キリエから一○人と聞いていたが、囚われた女性達は一○以上居た。


 銃を持って入って来たリレーサに怯える女性達だがそれも束の間、女性達はレーサに向かって叫ぶ。

 女性達の目にリレーサは救世主として映っていた。

 女性達の声は二種類に分かれていた。


「助けて」

「ここから出して」

「早く、お願い」


 多い声が助けを求めるもの。

 リレーサとしても助けて上げたい。しかし、今は無理なのだ。

 この部屋に逃げた敵の存在。それを放置したまま助けていればそこを攻撃される可能性がある。

また、リレーサは今一人なのだ。敵が囚われた女性の振りをして牢屋に潜んで居る可能性がある以上、助ける際は牢屋を開ける者と、不審な動きをする者が居ないか監視する者の最低二人は必要だ。


「あっちよ」

「あの子を助けて上げて」


 そして少ない声が敵が逃げた方向を指すもの。

 あの子、と言う言葉に一つだけ開いていた牢屋があった。

 鍵を閉めて抜く時間すらもの惜しかったのだろう。鍵穴に挿さったまま鍵に、開いていた牢屋は空になっていた。

 人質を取って逃げた敵をリレーサは追いかける。


 洞窟に入ってから何発も銃を撃った。おかげで火薬の匂いで馬鹿になった鼻に、それを貫通して漂って来るのは血の匂い。

進むにつて濃くなっていく血の匂いは、一つの部屋から放たれていた。


 臭い物に蓋をするかのような扉。

 突入するとそこには広い空間が広がっていた。

 並んだ拷問器具や医療器具にそこは拷問部屋だった。そして、部屋の中央にある五芒星にそこは儀式場でもあった。

 地面を削って描いた五芒星にそこに立つのは逃げていた敵と一人の女性。

 女性は腕まくりをしており、露出させられた腕は血管に沿って縦に刃物で切られていた。

 血を流す女性に意識はなく、ぐったりとした女性は倒れないように支える敵によって立たされていた。

 敵が女性を立たせるのは盾にする為だ。


「私達を止めに来たのか? だがもう遅い」


 今まで逃げていたとは思えないようなことを言う敵。

 女性の腕は五芒星に血を注ぐ為に切られていた。溝を伝って全体に広がった血に、地面には真っ赤な五芒星が完成していた。


「既に魔法は完成している。そして血も満ちた」


 勝利宣言をする敵に、リレーサは話など聞いていかなかった。

 初は言った脅威は全て排除しろ、と。リレーサは交渉しにきたのではない殺しに来たのだ。


 スッと目を細めたリレーサは、敵を前にリレーサはイヴァに感謝していた。

 イヴァちゃんは何て良いドリルを考えてくれたのだろう。

 ラピッドファイアのドリルで最下位になってしまったリレーサはあれからというもの練習をしていた。そして、満点を取れるようになっていた。


 敵との距離は約一五メートルで、扉や壁から目だけを覗かせるように女性の肩口から目だけ覗かせる敵の露出部分は約一○センチ。

リレーサは一五メートルよりも遠い二五ヤードの距離から、一○センチよりも小さい八センチの的に当てていた。


 外せば女性の頭を吹っ飛ばしてしまう狙撃に重圧から引き金は重くなる。しかし、満点を取れたという自信が引き金をいつも通りの軽さに戻してくれる。

 また、何かをしようとする敵に、焦って撃てば当たらない。しかし、ドリルの五秒の制限時間のおかげでリレーサが焦り駆られることはなかった。

 リレーサはエリシーにならった狙撃のやり方に、吸い込んだ息をゆっくりと吐き出すと、吐き切ったタイミングで息を止める。


「<アト……」


 魔法を発動しようとする敵に、呼応するように血で描かれた五芒星が禍々しい光を放ち始める。


 魔法は色々な面で銃に劣っている。が、何よりも劣っているのは銃は引き金を引けば撃てるが、魔法は呪文を唱えなければ発動出来ないことだ。

魔法は放とうとしてから放たれるまでのロックタイムが長すぎるのだ。


ドン。


 アイアンサイトに重なった敵の頭。魔法を発動しようした敵に、リレーサは引き金を引いた。

 撃ち出された弾は女性の耳を掠めるように飛翔すると、最初からそうなると決まっていたかのように敵の頭に着弾する。

そして、脳を破壊され立つという命令も出せなくなった敵の体は、女性の体に押される形で地面に倒れる。


 リレーサは倒れた女性に駆け寄る。女性にはまだ息があった。

 女性は手錠をされていた。リレーサは止血帯を取り出すと、通すのに邪魔な手錠に止血帯を解くと女性の腕の付け根に巻き付ける。


「<メッセージ>シーナ、シーナ」


 呼び出すのは自分達の中で唯一治癒魔法が使える人物。しかし、繋がらない伝達魔法に、魔法が届く範囲は約一○○メートルと言われている。

 入り口から一○○メートルも進んだのかと思うリレーサにメッセージが繋がる。


『どうしたの?』


 それはエリシーの声。切迫していない声にリレーサはエリシーに中継できるか尋ねる。


「シーナに繋げられる?」

『られると思うけどどうしたの?』

「女性達を見つけて、で今は……」


 状況を説明しようとしたリレーサはそこで言葉を切る。


「とにかく一人重症者が居るから呼んで欲しいの」

『了解。それでこっちは終わったけどそっちは?』

「こっちも終わった」


 リレーサは答えると女性を背負う。

 意識がなく、また、手錠を掛けれている女性を一人で背負うのはなかなかに大変だった。

 リレーサはよっと体を動かしてちゃんと背負えているかを確かめると、こちらに向かっているであろうシーナに、少しでも早く見てもらおうと来た道を戻る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る