魔法1


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五月二五日 一○時○○分

ルーム6室長室

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 三日前の丁度今頃の時間帯、初は室長室に呼び出されていた。そして命令を受けた初は、今日はその命令で要求された物を持って来ていた。


 室長室にはアイナとシェリーが居た。

 シェリーの種族はエルフだ。

 アイナとシェリーは対照的で、明るい色のスーツを着るアイナにシェリーは真っ黒のスーツを着ている。


 また、アイナとシェリーは共に最前線で戦っていた。アイナは前線を退くと伸ばした、がシェリーは前線を退いてからも短いままだ。

 そんなシェリーだが一部髪を伸ばした部分もある。

 左目を隠すように伸ばされた左前髪。

 戦闘をする者にとって視覚は一番大切だ。目が見えなければ攻撃を当てることも避けることも出来ない。

前線を退いたからと言って視覚の重要さを忘れたシェリーではない。にも拘わらず前髪で目を覆っているは、シェリーは左目が見えなくなったからだ。


 シェリーは過去、左目を負傷し視力を失った。左目を覆う眼帯に髪はそれを隠す為に伸ばされている。

 黒髪に黒の眼帯は溶け込んでおり、言われなければ眼帯に気付くことはまずないだろう。


 アイナが初に命じたのは写真を取って来ることだ。

 帝国では銃の所持は許可されている。しかし、だからといって簡単に購入できるものではない。当然素性は調べる。また、購入した銃には全てシリアルナンバーが打ってある。

 ベイパー達は銃を所持していた。だが、その銃にはシリアルナンバーはなく、それはゴーストガンか密輸されたものだという事を示していた。

ではその銃は何処で入手した物なのか?


 帝国に連邦のスパイは何人も潜んで居る。ベイパーに恐らくその潜んで居るスパイから銃を調達したのだろう。

金の流れを追えば犯人にたどり着くように、銃の流れを追えば帝国に潜んで居る他のスパイも見つけることが出来る。

 尋問で銃の出どころを聞いたアンナとシェリーに、その考えはビンゴだった。

 ベイパーはブラックシップという名を口にした。

 ブラックシップとは、帝国にある運送会社の名前だ。三日間、命令の説明でそのことを聞かされた初は運送会社の名前に同名の別組織でもあるのかと考えた。しかし、その疑問はアイナの一言で解決した。


「ブラックシップはKn00のフロント企業だ」


 ブラックシップとは、Kn00が設立した会社なのだ。

 Kn00と書いてケーエヌハンドレッド。それは帝国では有名な犯罪組織でゴーストガンや麻薬の製造を行っている。ブラックシップはそれらを一度に大量に運び、また合法的なカバーで流通を隠蔽するのを目的として設立された運送会社なのだ。


 ブラックシップにはパーズと言う名の社員が居る。

 パーズは連邦のスパイであり、パーズはブラックシップの社員になることでゴーストガンを入手し、それをベイパーなどに流していた。

 パーズが何処の営業所に勤務しているのかまでは尋問で聞き出せた。だが分からない顔に、初が三日間に受けた命令は、パーズが勤務している営業所の全員の顔写真を撮影してくること。


「早速だが渡してくれ」


 部屋に入ってきたばかりの初に、シェリーは初から写真の束を受け取ると入れ違うようにして部屋を出る。

それは、ベイパーに写真を見せ誰がパーズかを訊くためだ。

 一時間もするとシェリーが一枚の写真を手に戻って来る。


「この男だそうです」


 机に置かれた写真に初とアイナはそれを覗き込む。


「こいつがパーズか?」

「はい」


 アイナが椅子に深々と腰かけたまま尋ねると、シェリーは答える。

 写真に写っていたのは何処にでも居そうな普通の顔をした男。男は運送会社の制服を着ており、写真はトラックに乗った男が営業所から道に出ようと一時停止した所を撮ったものだ。


 パーズが銃を使う側ではなく渡す側だった。薬物でも使用者は逮捕してもそこで終わりだが、売人を逮捕すればそこから使用者全員を捕まえることが出来る。


「頼んだぞ」

「分かった」


 パーズを捕まえ、そこから帝国に潜んで居るスパイを捕まえよとするアイナ。

 こいつを捕まえて来てくれと、スッと差し出された写真に、初は写真を受け取ると新たな命令に室長室を後にする。


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同日 二○時○○分

帝都 ブラックシップ営業所付近

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 ブラックシップ営業所に、道を挟んだ向かいに建つファミリーレストラン。

 夕食の時間帯。込んだ店内に一人キリエは座っていた。

 キリエが座っているのは窓際のテーブル席。そこから見える営業所の門に、ビーチサンダルのようなサイズのステーキを注文したキリエはそれを食べつつ、監視を行っていた。


 キリエが監視に選ばれたのは、キリエが情報収集などを得意とする忍者だからだ。その為、写真を撮ったのもキリエである。


 ジューシーで肉汁が溢れるステーキに、キリエはステーキを半分程食べた所で食べる手を止める。

 ステーキはとても美味しくまだまだ食べられる。それに加え腹もまだ六分目と言った所で全然入る。しかし、手を止めたのは完食してしまうと監視が継続出来なくなってしまうからだ。

 ステーキを先程よりも小さく切ると、お腹一杯の振りをしてちまちまと食べる。

 時間が経てば冷めて美味しくなくなる。それは作ってくれた人や料理、食材に対する冒とくのような気もするが任務なので仕方がない。

 小さな一口を口に運んでいると一台のトラックが営業所へと入って行く。乗っていたのは二人の男。一人はトラックを運転する若い男に、もう一人はパーズだ。

 作戦では帰宅するパーズを追跡し、パーズが帰宅した所を確保することになっている。キリエは食べる手を止めると、追跡の為バンの中で待機する初達に伝える。


「<メッセージ>パーズが帰って来た」

『了解』


 帰って来たパーズに、数分もすれば帰路に就こうとするだろう。シーナからの返事に、キリエはさっさと食べ終わろうと一口の量を元に戻す。

そして、大きく切った一口を口に運ぼうとして、キリエは再び食べる手を止める。

 門の奥から差すフロントライトの光に車が門から出て来る。それはブラックシップの宅配用トラックで、そこには先ほど戻って来たばかりのパーズともう一人が乗っていた。


「<メッセージ>ターゲットがトラックに乗って何処か行こうとしてる」


 ハッキリと見えた助手席に座ったパーズにキリエは慌てて伝える。


「ターゲットが宅配用のトラックで何処かに行こうとしているようです」


 シーナは先ほどの柔らかな口調とは異なり、語気の強まった声でキリエからの報告を伝える初に伝える。

こんな夜中にどこに行くのか。そんな疑問に初の頭に浮かんだのは武器の輸送だ。


「追う。キリエにも伝えてくれ」


 そう言うと初は切っていた車のエンジンを掛ける。


『戻って来たてください』


 作戦の内容や目的は事前に伝達されている。初の頭に浮かんだことは全員の頭に浮かんでいた。

 緊迫感のある声に、テーブルに代金を置いたキリエはバンに駆け出す。


 時間は夕飯時でまだ皆は夕飯は食べていない。一人だけステーキを食べていたキリエがバンに乗り込むと後部座席ではリレーサがチョコバーをかじっていた。ステーキとチョコバーその差は天と地ほどある。

 二週間前のドリルではリレーサは肉を食べたがっていた。本来なら戻って来たキリエに対してリレーサは私のは? とテイクアウトの肉を尋ねていただろう。

だが、起こったイレギュラーにリレーサの表情からはそんなことを言う余裕は感じられず、車内は緊張感に包まれていた。

 キリエが乗り込むと閉まったドアに初はバンは急発進させる。


「キリエは準備をしておいてくれ、それとシーナはこれでアイナに状況を伝えてくれ」


 そう言うと初はシーナに携帯電話を渡す。

 乗り込むと同時にどちらの方角に進んだのか伝えたキリエに、パーズの乗ったトラックを発見するのに時間は掛からなかった。

 堂々と社名を掲げで走るトラック。目立つ車体に初は怪しまれないよう距離を取って追跡する。


「はい」

「ありがと」


 装備を着けた状態では店に入れない。

 式神はキリエの装備の中に仕舞われている。後部座席に積んでいたキリエの装備に、リレーサはそれをキリエに渡す。

 キリエは直ぐに式神を起動すると接続を確認する。


「OK。使える」


 言ったキリエに、トラックが赤信号で止まる。

 式神を張り付けたキリエに、初達は追跡を開始する。


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同日 二一時三○分

洞窟

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 パーズを追う初達に、バンは峠道を走っていた。

 明るかった街とは異なり、街灯が一本もない山道には夜の帳が降りている。微かに月明りが差しているがそれだけでは運転は出来ない。

 暗闇ではタバコの火さえも目立つ。

ライトをつけて峠を上るトラック。運んでいる物に山道にこんな時間、自分以外の光を見れば相手は追跡されていたことを知るだろう。仮にそうならなかったとしても相手の警戒心は確実にマックスにはなる。

 運転する為にライトは必須だが、一瞬でも相手の視界に光が入ればアウトになる追跡に、初は注意しながら運転していた。


 峠という一本道にキリエの仕事は減っていた。

何時もは動いているのか止まっているのか、直進しているのか曲がっているのか、色々と伝えなければいけないことがあったが、今伝えているのは車間距離が近づいているのか、離れているのかだけだ。

 出来た余裕にキリエは式神を取り付かせた時からずっと聞こえる音に聞き耳を立てる。


「どうした?」


 右耳を覆ったキリエに初は尋ねる。


「なんかずっと音が聞こえるんだよ」

「音?」

「うん」

「荷物の揺れの音か?」

「いや止まった時も聞こえてたから違う」


 それにそんな音であればキリエは気にしない。エンジン音のせいで何なのかは分からない音。集中するキリエに、だがそのせいで反応が遅れるということはなかった。


「停車した」


 移動しなくなった式神の位置情報にキリエが言うと、初とバンを止めるとライトを切る。

いつでも発進出来るようにエンジンは掛けたままにする初に、それはトラックも同じで、式神から聞こえる音にトラックもエンジンを掛けたままにしていた。

 いつ発進するか分からない。キリエは少し様子を見ると発進する様子のないトラックに式神を動かす。

キリエは左目を覆うと、底に張り付けた式神を僅かに露出させ周囲を確認する。


 つけっぱなしにされたライトに、照らされた先にはトンネルの入り口のような穴があった。

バタンと閉められたドアに乗っていたパーズともう一人がトラックから降りて来る。

 穴は鉄格子によって塞がれていた。鍵を開ける為に止まったのかと思ったキリエに、しかし、車高の隙間から見える足は突っ立ったままで扉へと向かおうとはしていない。


「<フレイム>」


 唱えられた魔法にタバコに灰がパラパラと落ちくる。それはここが受け渡し場所で、相手を待つような態度だ。

 鉄格子はチェーンと南京錠によって施錠されていた。

 暫くするとチェーンが外される音がした。

 開いた鉄格子に穴の中から出てきたのは黒いローブを着た、絶滅したと思われていた恰好をした連中だ。

 魔法使いのような恰好をした彼らは五人おり、全員がフードで顔を隠していた。また、闇に溶け込む色に身長が掴みづらく、全身を覆うローブに体格から性別を判断することも難しい。


「アルペン、開けろ」


 言ったパーズに、言われたトラックを運転していた男は荷台の扉へと向かう。

後に続いてゆっくりと歩き出したパーズに、魔法使いのような恰好をした彼らも荷台へと向かう。

 全員が揃うと外側から施錠された荷台の扉が開かれる。

 キリエは音の正体がなにか考えていた。しかし深くは考えていなかった。それは、時間が来れば答えを教えてくれる問題で教えてくれるのならと考えずに答えを待つかのように、到着すればいずれ荷物が何かは分かるからだ。


「降りて来い」


 アルペンと呼ばれた男が命令するとサンダルを履いた足が幾つも降りて来る。

 積まれていたのは若い女性だった。年齢は一○代半ばから二○代前半。人数は一○人で、作業着を着た女性達は全員が手錠で手を拘束されていた。


「人身売買みたい」

「状況を説明してくれ」


 呟いたキリエに、初は尋ねる。武器の輸送ではなかった。しかし厄介ごとであることに変わりはない。

 状況を説明するキリエに、聞いた初は携帯電話を取り出すと電話を掛けた。


「荷物は何だった?」

「人みたいだ」

「人?」

「ああ、人身売買だ」


 初が電話を掛けた相手はアンナであり、初は先程キリエから聞いた内容をアンナに話す。

 スピーカーにして聞くアンナにその横にはシェリーが居た。初が話し終えるとシェリーがアンナ対して言う。


『その集団はアカデミーではないでしょうか?』


 アカデミー、それは魔法の復興を目指すテロ組織だ。

 昔は魔法全盛期の時代だった。しかし、そんな時代は銃の到来によって滅んだ。理由は単純で魔法は銃には敵わないからだ。

 魔法は大きくは生活魔法と攻撃魔法の二つに分類される。生活魔法とは、火を起こしたり水を出したりと日常生活を送る上であると便利な魔法のことで、攻撃魔法とは、相手を攻撃する為の殺傷能力のある魔法のことだ。

 生活魔法は誰でも使えるが、攻撃魔法は誰でもは使えない。

 誰でも生活魔法を使えるのは生活魔法が簡単な魔法だからだ。それに対して攻撃魔法が誰でもは使えないのは、誰でも格闘技が出来る訳ではないように、使えるようになるには練習や訓練を必要とするからだ。

 また、使えるようになったとしても攻撃魔法は人によって撃てる数や威力も異なっている。


 そんな攻撃魔法に対して銃は引き金さえ引ければ訓練を受けていない子供でも訓練を受けた大人を殺すことが出来るのだ。

 攻撃魔法よりも銃が優れているのは明白だった。

 軍から魔法使いの数はみるみる減って行き、その穴を埋めるかのように銃はどんどんと入って来た。


 それに危機感を覚えたのがアカデミーだ。

 元々アカデミーは帝国が攻撃魔法の研究開発の為に設立した組織だった。

 そこで働いていた彼らは魔法こそが最強の力であると信じ、日々攻撃魔法の研究開発に心血を注いでいた。

そして銃の登場に彼らは魔法の方が優れていることを証明しようとより一層研究に邁進した。


 そんな彼らに向けられたのは冷笑の視線だ。

 石火矢や火縄銃ならいざ知らず、人々が最初に手にした銃はAR-15にAK-47なのだ。

 曰く魔法が現代兵器に敵うわけが無い。

 その言葉を肯定するかのように戦場は鉄に支配されるようになった。しかし、だからといって戦場から魔法が完全に消えた訳ではない。戦場では生活魔法などはむしろ重宝されていた。


  増える負傷者に何処からともかく攻撃を仕掛け来る敵。

戦い方が根本的に変わった戦場にアカデミーに求められるようになったのは治癒魔法や索敵魔法などの開発だ。

 医療や索敵はとても重要で、アカデミーで働いていた者の多くはその重要性を理解し承諾した。しかし、一部には理解を示さなかった者が居た。

攻撃魔法の研究を中止するように言った政府に反発した一部は攻撃魔法研究の為アカデミーから去った。


 そんな彼らの目的は戦場の主役を鉄から魔法に戻すこと。

 アカデミーは元々は攻撃魔法の研究開発を行っていた。

 だからか、彼らは自分達のことをアカデミーと名乗り、攻撃魔法の開発を行うと威力を知らしめる為それを市民に向けて放った。


 幾度となく放たれた攻撃魔法に、最大のものでは五○○ポンド(約二二七キログラム)爆弾程の威力があった。

斯くして市民に五○○ポンド爆弾の威力がある魔法を放ったアカデミーは現在ではテロ組織と認定されている。


 黒いローブが姿を隠す為に用いられていたのはまだ魔法が全盛期だった時代だ。そして、流れた時に今では姿を隠すのにその様な格好は用いられない。その為、今では逆にその様な格好は珍しさから目立ってしまう。

にも拘わらずその様な格好をするのは自分達の存在をアピールする為だ。


 五○○ポンドの爆発があった際、その前後の時間で周辺では黒いローブの集団が目撃されている。

 また、昔は女性の血は高威力の魔法の発動に用いられていた。もし彼らがアカデミーであれば女性達が買われた理由は明白であり、それは救出は急がれることだ。


 作戦はパーズが帰宅した所を確保することになっている。

 パーズの家にはそれなりの情報があることが予想されている。パーズが帰宅した所を確保することになっているのは家宅捜索において住所を調べる手間が省けるからだ。

ただそれだけの理由。であればここでパーズを捕まえて、そこから女性達を救出するという方法もなくはない。

パーズの住所についてはシェリーに拳で聞いてもらえばいいのだ。


『作戦変更だ。パーズ確保の後、女性達を救出しろ』

「了解」


 切れた電話に優斗は作戦の変更を伝える。


「パーズがトラックに乗った」


 穴へと連れて行かれる女性達に、タバコを踏んで消したパーズとアルペンがトラックに乗り込む。

 トラックから初達が居る所までは距離がある。


「とりあえずターゲットを確保する、リレーサはトラックを止めれるか?」

「任せて」


 そう言ったリレーサは銃のスリングを体から外すと、ディーアーマーを脱ぎガンベルトも外す。

リレーサは、ガンベルトからハンドガンと予備のハンドガン用のマガジンを取ると、マガジンをズボンの左ポケットに入れ、ハンドガンに弾を装弾するとバンから降りる。

 長時間座りっぱなしだった。降りと伸びをしたリレーサは、まるで散歩にでも行くような格好に、本当に散歩をするかのように坂道を歩き始める。


 奇襲を仕掛けようにもバンの近くで仕掛けようとすれば、ターゲットがバンを発見し警戒される可能がある。

それに今からやる方法はバンが近くにあればバンに傷がつく可能もある。


「ここかな」


 リレーサは道の真ん中、どうぞ轢いてくれという位置で立ち止まる。右手に持っていた銃を左手に持ち替えると、左手を背中に隠す。


『もうすぐ来るよ』

「了解」


 式神でトラックの位置を見るキリエからの声に、リレーサは右手を真横に突き出すと手でグッドマークを作る。

 近づいて来るトラックのエンジン音に、カーブに差し掛かったトラックのライトがゆっくりとリレーサを足元から照らしていく。

 リレーサは顔に笑顔を浮かべるとヒッチハイクを頼むかのかのう元気に言った。


「ヘイ!」


 深夜の山道に少女が一人立っている。

 異様な光景に運転手は目を疑ったのだろうトラックのブレーキランプが強く光る。もしリレーサが銃を構えていればこうはいかなかっただろう。


「何してる! 轢き殺せ!」


 トラックの減速にいち早く反応したのはパーズだ。

 これが普通の配達の帰り道であればまた違った態度を取っただろう。しかし、こんな時間暗い山道に少女が居るということ事態がまずおかしく、ましてやそれが仕事の帰りともなれば偶然でないのは明白。

 目の前にいる人間は敵。そして自分達は車に乗っている。であれば取るべき行動は一つ。

 飛ばされた怒号に遅れて状況を理解したアルペンはアクセルを踏み込む。


 アンビになっているセイフティリに、リレーサはセイフティを解除しながら背中に隠したていた銃を抜刀するかのように突き出す。

既に解除しているセイフティに後は引き金を引くだけだ。

 突進して来るトラックにリレーサは、運転席に照準を合わせるととにかく撃つ。


パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン。


 トラックは防弾仕様ではない。放たれた銃弾にフロントガラスは簡単に弾を通す。

 銃声に、座席に着弾する銃弾に、飛び散るガラス。運転席にノースは姿勢を低くすると縮こまりながらアクセルをべた踏みする。

 夜はっきりと見えるマズルフラッシュに、トラックはまるで赤い布を垂らされた闘牛のように全速力で向かって来る。

 トラックと衝突する寸前リレーサは闘牛士のように身をひるがえすと回避する。


 ドーンと何かが潰れる音が響いた。

 ここは峠であり、銃撃によって頭を低くした男は前も見ずにアクセルを踏んでいた。

 振り返ったリレーサの目に映るのはカーブに全速力で突っ込んでいったトラックだ。ホールドオープンした銃にリレーサはポケットから新しいマガジンを取り出すとリロードをする。

 撃ってくる可能性がある。リレーサは銃を構えたままドアを開ける。

 頭を強打し、痛みに呻くパーズとアルペン。リレーサは知った事かとばかりに乱暴に二人を引きずり出すと、後ろ手に手錠をかける。

 武器が無いか体をまさぐると二人は銃を持っていた。

 トラックを止めたリレーサに、隠れていた初達はリレーサの元に向かう。

 拘束され銃を奪われたパーズとアルペンに向くのは、ハンドガンにマークスマンライフル、サブマシンガンにショットガンの銃口。


「何を運んでたかは知ってる、あいつらは何で、あいつらの目的は何だ?」


 救出に向かわなくてはならないが何の情報も無しにというのは危険が大きすぎる。

 うつ伏せに倒された二人に初は目線を合わせるかのように屈むと、だが見下ろしながら尋ねる。


「知るか!」


 黙るパーズにそう吐き捨てたのはアルペンだ。


「ゴーインフォーする?」


 言ったのはリレーサに、ゴーインフォーとは、射撃場においては射撃を始める合図として使われる。リレーサは非協力的に相手に撃って良いかを尋ねていた。


「これ使えば自殺したことに出来るよ」

「ありがと。あ、装填してたんだ」


 リレーサが捨てた銃。それを拾うと渡すキリエに、受け取ったリレーサはスライドを引く。

平然と引かれたスライドに装弾されていた弾が排出される。


「待て、本当に知らないんだ。こういうのは詮索しないのがルールなんだ」

「あの中がどうなっているのかは知っているのか?」

「知らない」


 と言うことは情報ゼロで中に入ることになる。初はアルペンを掴むと立ち上がらせる。


「なら見えてこい」


 捕まえるように言われたのはパーズだけであり、アルペンは捕まえるようには言われていない。


「リレーサ、こいつを連れて行け」

「カナリアね。分かった」


 命大事にだ。しかしそれは自分と仲間のであって敵のなど知ったことではない。

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