ガンファイト1
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新暦一一三年 〇五月〇六日 二〇時〇〇分
アイビス帝国 工業地帯
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日も落ち静まり返った工業地帯。今は使われていない廃工場に一台の車が止まる。
忘れ物を取りに来たかのような大衆車に、降りてきたのは一人の男。スーツに身を包んだ男は、見る人が見れば一目で高級と分かるスーツに身を包んでいた。
廃工場に場違いな格好で現れたのは帝国の下院議員ザック・コネリーだ。
受け渡し場所として指定された場所に着いたザックは、ブリーフケースを手にすると金属製の扉をノックする。
「ザック・コネリーだ」
廃工場の中には人が居るのをザックは知っている。しかし、居留守のような反応にノックした後名前を言うようにと、言われている。
扉はタダの扉で覗き窓などは無い。
ザックが名乗ると、扉が僅かに開き銃口と共に男が顔を覗かせる。
「入れ」
男はザックを一瞥すると、その背後に目をやり一人で来たことを確認する。人がギリギリ通れる程度開かれた扉に、ザックが中に入ると扉は音もなく静かに閉まる。
廃工場だが電気は来ており、絶対に外に光が漏れないように遮光された中はワークライトによって照らされていた。
物が見えれば良いという程度の明かりに、中に居たのは五人の男達。彼らは革ジャンやパーカーなどを着ており、多少の被りはあるが各々が違った恰好をしていた。
統一感のない格好だが、そのばらばらの恰好が仲の良い友人たちで集まったような雰囲気を作っていた。
だが、彼らには違和感とも言うべき共通点がある。それは全員が何かを被っていることだ。ジャケットを羽織っている者は帽子を、パーカーを着ている者はフードで顔を隠していた。
また、彼らは一人を除いて全員が銃を持っていた。
四人の男達はサブマシンガンで武装していた。その立ち姿はまさに戦闘員といった感じで、除いた一人もサブマシンガンを持っていないと言うだけで、左胸には膨らみがある。
彼らは連邦のスパイであり、ザックが持って来たのは帝国の機密情報だ。
部屋の中央に立つベイパーにザックは歩み寄る。それは、ザックに情報を持って来いと命令したのがベイパーだからだ。
「この中に入ってる」
ザックはベイパーにブリーフケースを渡す。
中に入っているのは二つのファイル。
アイビス帝国は宣戦布告をすると立て続けに三つの機関を設立した。設立された機関は、特務機関。Secret Military Agency略称SMA。
三つの機関は設立された順番にSecret Military Agency First略称SMA1、Secret Military Agency Second略称SMA2、Secret Military Agency Third略称SMA3の名が与えられた。
この中でベイパーがザックに持って来るように言ったのはSMA1と2の最新情報。
アークには銃を始め、戦車に戦艦、戦闘機など様々な武器や兵器の現物、あるいは設計図があった。
SMA1は回収部隊で、アークに赴いてそれら兵器の設計図などを回収する為に組織された。
SMA2は研究開発部で、SMA1が持ち帰った設計図などを元に兵器を研究開発する為に組織された。
言われた事は果たした。これでこの心労から解放される。気持ちが楽になるザックにザックがそう感じるのは三つ目の特務機関、SMA3の存在があるからだ。
SMA3は秘密情報部で、そして、SMA3はルーム6と呼ばれる実働部隊が存在する。そして、ルーム6の仕事の一つに工作員や裏切り者の確保や排除がある。
ザックがやっていることは国への裏切り行為であり、何時ルーム6が家の扉をノックして来ても可笑しくはない行為だ。
何時SMA3にバレルか分からず、ルーム6に怯えながら過ごしていた日々が今日で終わる。やっとだ、と思うザックに。そんなザックの心情を他所に、ファイルをザっと読んだベイパーは問い詰めるような低い声で尋ねる。
「これが最新の情報か? 抜けていないのか?」
不満げな声は情報に満足していないものだ。
「抜けていない」
手を抜いたことでやり直しになればまた神経が磨り減る日々を過ごすことになる。そんなのはごめんであるザックは集められる限りの情報を集めた。
「何も隠していないんだな?」
はっきりと断言したザックに、ベイパーは問い詰めるように言う。
ザックがやっていることは売国行為だが、売国行為を行っているからといってその者に愛国心がないとは限らない。そして、ザックは帝国の人間で連邦の人間ではない。帝国に愛国心があったとしても連邦には愛国心はないだろう。
絶対に渡すことが出来ない情報があったとして、愛国心があればその情報は渡さない。
「何が言いたんだ?」
言われた事は果たした。だが、明らかに納得していないヴェスパーにザックは尋ねる。
観察しその困惑した様子から隠し事はないと判断したベイパーは少しの間黙考する。その名前を出していいのかを。
ベイパーが求めている情報は、帝国からすれば絶対に渡すことが出来ない情報だ。それは名前を出すことが憚れるもので、だからベイパーは大雑把な命令を出すことでそれについての情報を手に入れようとした。
「……それは……」
パツン。
言いたくないが、言わなければそれについての情報は手に入らないと判断したベイパーは口を開く。
そして言い掛けた時、複数あるワークライトの明かりが一斉に消えた。
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