デビルズドロップアイテム

ての

プロローグ


 この世界にはもう一つの別の世界がある。

 その世界は地球と呼ばれる。

 そして彼らは突然現れた。


 大陸にはアイビス帝国と、イグアス連邦という仲の良い二つの国があった。

だが、それは一〇○年程前までの事。


 今から約一一○年前、それは突如出現した。

 最初に発見したのは国境警備隊だった。

 そこには両国の国境だった。

 だだっ広い土地が広がっていた場所。昨日までは何も無かった場所に突如城が現れた。


 両国の国境に跨るかたちで現れた城に両国は調査の為人を送った。

 近づくと城だと思われていた建物は、未知の素材に異なる建築様式で建てられた異世界の建造物だった。

 そして出迎えて来た彼らに、それは未知との遭遇だった。


 中に居たのは自分達と同じ人間だった。ただ、言葉や服装を始め全てが違っていた。

 彼らの技術は遥か先を行っていた。また、彼らは友好的でもあった。

 未発達な文明にそれを知った彼らは、医療や農業を始め工業など様々ことを積極的に教えてくれた。

 結果、医療の発達により不治の病は不治ではなくなり、農業の発達により皆がお腹いっぱい食べることが出来た。


 訊けば何でも教えてくれる全知全能のような彼らであったが、そんな彼らにも知らないこともあった。その代表が魔法だ。

 彼らの世界に魔法はなかったようで、魔法の存在をしった彼らは直ぐに探究を始めた。そして、あっという間に当時の魔法技術を追い越した。


 鉄道や車、電気などの発明にあらゆるものが生み出され飛躍的に進歩していく日々。

 目に見えて良くなっていく生活に人々は文明を開化させてくれた彼らのことを次第に神人と呼ぶようになっていった。

 言語も彼らと同じもの使用しだし、彼らが転移してきた場所をアークと呼び、暦も新暦と定めた。


 彼らは積極的に活動していた。

 しかし、彼らが現れてから一〇年が経ったころ、まるで閉じこもったかのように彼らはその姿を一切見せなくなった。

 彼らが現れてから一〇年が経ったが、まだ一○年しか経っていないのだ。

 文明は未だ彼ら足元にも追いついておらず、彼らと同じ文明レベルに到達したい人々にはまだ教えて欲しいことが山のようにあった。

 姿を見せなくなった彼らと、彼らに会いたい人々。

 彼らは自分達の敷地内に人々を入れようとはしなかった。だが、どうしても会いたい人々は彼らを尋ねた。


 彼らの敷地に足を踏み入れた人々に、それが始まりだった。


 アークは宝の山だった。

 彼らにどれだけ懇願しても教えてもらえなかった物が一つだけあった。

 彼らは常に鉄の筒を携帯していた。彼らはそれを銃と呼んでいた。

 幾ら探しても居ない彼らに、人々は見つけてしまう。アークには幾ら頼んでも「これは争いを生むから」と言って教えてはもらえなかった銃が放置されていた。


 銃だけではない。まだ教えてもらっていない知識や技術が山のようにアークにはあった。そこは最先端技術の宝庫で、アークにそれらを管理する彼らは居ない。

もしこの地を掌握することが出来れば世界の覇権を握ることが出来る。そう断言できる程のものがアークにはあった。


 アークを尋ねた両国は持ち帰られた銃に尋ねられる。

 世界の覇権が欲しいかと尋ねられれば両国は悩んだだろう。覇権を手にしようとすれば戦いになる。戦いとは戦争だ。太平の時代、覇権とは平和という最高の宝物を失ってまで手に入れるべきものなのか。


 しかし尋ね方は違っていた。

 アイビス帝国にはイグアス連邦が覇権を握ろうとすれば、あるいは握ったらどうするのか。イグアス連邦にはアイビス帝国が覇権を握ろうとすれば、あるいは握ったらどうするのか。

 仲の良い両国。相手はそんなこと考えていないかもしれない。しかし、もし覇権を欲していれば?

 もし相手が攻めてくれば? もし相手が覇権を握れば?

 そんな疑念に、仲の良かった両国は互いに宣戦布告をし、開戦をした。


 始まった戦争はこれまでの戦争とは比べものにならない程悲惨なもので、地獄の所在地はここだと思えるものだった。

 理由はアークには色々なものがあったからだ。

 アークには銃を始め、戦車に戦艦、戦闘機など様々な武器や兵器の現物、あるいは設計図があった。

 それらが研究開発され戦場に大量投入された。

 これまでの戦争は剣や槍、弓矢や魔法などで戦っていた。そこに、急に銃に、戦車、戦艦、戦闘機などが姿を現したのだ。

高火力の現代兵器の前に戦場は一変し、死者は指数関数的に増えて行った。


 何より地獄の所在地はここだと思わせたのは戦争にルールがなかったことだ。

 新たに開発された兵器にその使用を禁止する条約はなく、また、民間人や捕虜の虐待や殺害も禁止されてはいなかった。

開発された兵器は幾ら非人道的であろうとも平気で使われ続け、略奪や虐殺は当然の権利のように行われた。


 開戦から一〇〇年が経った頃両国は停戦協定に調印した。

 そして兵士、民間人合わせて数億人の死者を出した戦争は停戦を迎えた。


 彼らがこの地に現れた時、人々は彼らを神人と呼んでいた。だが、数億人という死者を前に、何より平和という宝物を捨てさせたものに、人々は神人が残していった物をこう呼んだ。デビルズドロップアイテムと。

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